14.フレランス
本日1話目です。
(エリオット……?)
突然前に出たエリオットに、驚くオリビア。
エリオットは、そんな彼女に大丈夫ですよ。という風に軽く微笑みかけると、表情を一転。
感情の読めない微笑を浮かべ、ベルゴール子爵を静かに見据えた。
「久し振りですね。ベルゴール子爵。変わりないようで何よりです」
執事服を着た初老の男が、青筋を立てて大声を出した。
「身の程を弁えなさい! 不敬ですぞ!」
執事を一瞥すると、エリオットは冷えた笑みを浮かべた。
「どうやら、ベルゴール家は使用人への教育がなっていないようですね」
そして、ああ。と気が付いたように、眼鏡を取った。
「失礼。確かにこれがあっては分かりませんね」
眉間に皺を寄せてエリオットの顔を凝視する子爵。
その顔が驚愕で歪んだ。
「あ、あなたは! エリオット・フレランス様!」
『フレランスだって!?』
『まさか、フレランス公爵家か!?』
観衆から驚愕したようなざわめきが起きる。
オリビアは目を見開いた。
フレランスといえば、この国の四大公爵の一柱。
上位貴族にそこまで詳しくない彼女ですら聞いたことがある大貴族だ。
「し、失礼致しました! お、お許しを!」
執事が真っ青な顔でぺこぺこと頭を下げる。
そんな執事に見向きもせず、エリオットが微笑みながら驚き固まるベルゴール子爵に話しかけた。
「会うのは昨年の王城でのパーティ以来ですね」
「さ、左様でございます。も、申し訳ございません。お越しになると分かれば迎えを用意したのですが」
愛想笑いをしながら、見たこともないほど頭を低く下げる子爵。
エリオットが、気にするなという風に優雅に手を振った。
「今日は彼女――オリビアのパートナーとして参加しています。余計な気遣いは不要です」
エリオットの言葉に、ベルゴール子爵が顔を引き攣らせた。
「……つかぬことを伺いますが、エリオット様はオリビアとは仲が宜しいのでしょうか?」
「ええ。とても」
端正な顔に美しい笑いを浮かべるエリオット。
「し、失礼ですが、ご関係は」
「随分と野暮なことを聞きますね。……これを見て分かりませんか?」
状況についていけず戸惑うオリビアの腰を、大きな手で守るように引き寄せるエリオット。
顔を歪ませる子爵を見ながら、口の端を上げた。
「それにしても、非常に面白い余興でしたよ。妹が使えなかったからと言って、冤罪で婚約破棄して捨てた姉と結婚させようとする。実に面白い」
ベルゴール子爵が何か言おうとするが、エリオットの圧倒的上位者のオーラがそれを許さない。
彼はこの場を完全に支配していた。
エリオットが口角を上げた。
「もしもこれが余興ではなく本当だったら、さぞジャスティン公爵は嫌がるでしょうね。あの方は愛妻家で有名ですから。そうなると、ベルゴール家は当分は『子爵』のまま頑張って頂くことになるかもしれませんね」
一瞬、憤怒の表情を浮かべる子爵。
しかし、すぐに表情を戻すと、朗らかに笑い出した。
「はっはっは。気に入って頂けたようで何よりです。もちろん余興です」
「そうですか。それは良かった。証人として来たのに、仕事がなくなってしまうかと思いましたよ。まさかそれはありませんよね?」
笑顔のままで鋭い目を向けるエリオット。
ええ。もちろんです。と、愛想よく頷くと、ベルゴール子爵が笑顔で大声を張り上げた。
「皆様。お騒がせ致しました。余興はこれにて終わりです。これから我が息子ヘンリーと、カトリーヌ嬢の結婚式を行います」
目が覚めたようにざわめく観衆たち。
止まったかのようだった時間が動き出した。
次で結婚式が終了します。
続きは、夜にまた投稿します。
ちなみに、全32話の予定だったのですが、長すぎる話を分割したため、全34話になりました。




