11.何よあれ ※カトリーヌ視点
本日2話目です。
「……何よ、あれ」
カトリーヌは思わず目を見張った。
視線の先にいるのは、義姉であるオリビア。
流行遅れの地味な服を着た疲れて痩せた女から一転。
最新流行の高級品に身を包んだ上品な女になっている。
しかも、横にいるのは見たこともないほど上品で見目の良い、ヘンリーの数倍はいい男。
驚愕するカトリーヌの耳に、人々のささやきが聞こえて来た。
『オリビア様、本当に綺麗になったな』
『王都に住んでいらっしゃるんですって。流行にもお詳しいし、憧れるわ』
『あのエリオットっていう男は若いのに大したもんだ。勉強させられたよ』
『かっこいいわあ。王子様みたい。オリビア様が羨ましいわ』
聞こえてくるのは手放しの賞賛。
怒りで体が爆発しそうだ。
この一年。
カトリーヌは何もかも上手くいっていなかった。
様子がおかしくなったのは、約一年半前。
オリビアのデザインを元に作らせた魔石宝飾品が売れなくなってきたのだ。
以前なら見た瞬間に買っていった客も、首を傾げて何も買わずに帰ってしまう。
原因が分かったのは、その半年後。
オリビアが毎年デザインしていた時計組合向けのデザインの打ち合わせの時。
盗んだデザイン帳から持ってきたデザインを見て、組合長が渋い顔をしたのだ。
「今の主流は丸型の時計です。四角い時計のデザインをされても困ります」
この時、カトリーヌはようやく理解した。
オリビアのデザイン帳に書いてあるデザインは、もう時代遅れになってしまっている。と。
この時は、一緒にいた父親の準男爵が「娘は体調が悪い」と、組合側で四角を丸にデザインし直す方向で何とか話をまとめたが、次からはもう通用しない。
人使いの荒い準男爵と、売れない宝飾品を作らされることに嫌気が差し、職人も次々と辞め、店を閉めざるを得なくなった。
追い込まれたカトリーヌは怒りに震えた。
(あの性悪女、絶対にわざとだわ)
わざと自分を窮地に陥れようと、こんな使えないデザイン帳を残したのだ。
許せない。
カトリーヌはこのことを母親に相談。
母親は彼女にこう提案した。
「オリビアを結婚式に呼びましょう。言うことを聞かせる方法もあることだし、呼んでデザインを描かせればいいわ」
「まあ、お母さま。それは良い考えだわ。ぜひそうしましょう」
カトリーヌはほくそ笑んだ。
父親から王都にいるとは聞いているが、どうせあの冴えない容姿だ。
恋人もいない侘しい生活をしているに違いない。
結婚式に証人として呼んで、せいぜい恥をかかせてやろう。と。
自分の美しさや幸せを見せつけてやる。と。
「若く美しい妹に、冴えない年老いた姉。いい引き立て役になりそうね」
しかし、実際蓋を開けてみたら、どうだ。
オリビアは見違えるほど美しくなっており、見たこともないほどいい男を連れている。
ドレスも装飾品も全て自分よりも上だ。
こんなこと許されるはずがない。
サラと談笑するオリビアを、鬼のような形相で睨みつける。
「どうしたんだい? カトリーヌ?」
そこへヘンリーが後ろから声をかけてきた。
少し機嫌を直し、素早く笑顔を作って彼の方を振り向くカトリーヌ。
しかし。
(……っ!)
そこには、驚愕の眼差しでオリビアを見つめるヘンリーの姿があった。
その目に浮かぶのは、驚きと色情、そして後悔の色。
カトリーヌは殴られたような衝撃を受けた。
続いてやってくる、はらわたが煮えくり返るような殺意にも似た怒り。
彼女は口角を釣り上げると、にこやかに言った。
「お義姉様を見つけたの。挨拶に行ってもいいかしら」
「あ、ああ……」
オリビアから目を一時も離さず頷くヘンリー。
カトリーヌはオリビアの方向に歩きながらほの暗く笑った。
あんな女の幸せ、ぶち壊してやる。
このパーティの主役は、私だ。
本日夜また投稿します。
このへんから一気に伏線を回収していきます。