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【4月10日 書籍3巻発売!】オリビア魔石宝飾店へようこそ ※Web版  作者: 優木凛々
第三部 義妹と元婚約者の結婚式に出ることになりました
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08.変なのは私の方かもしれない


本日3話目です。


「ふああ。久々によく寝たわ」



 ダレガスに到着した翌日。

 街の中心から少し外れた新しいホテルの二階の部屋にて。

 オリビアはベッドから起き上がって伸びをしていた。


 彼女の青い目に映るのは、そこそこ広い清潔な部屋と、カーテンの隙間から差し込む朝の光に照らされた、壁にかけられたドレス類。


 ベッドから立ち上がってカーテンを開けながら、彼女はそっと呟いた。



「スムーズに事が運んで、本当に良かったわ」





 ダレガスの駅から出てすぐ。オリビアとエリオットは馬車に乗ってホテルに向かった。


 チェックインを済ませてすぐに自分の部屋に入り、彼女はホッと胸を撫でおろした。



(良かったわ。誰も知っている人に会わなかった)



 領主の息子に婚約破棄されて店をクビになったのだ。

 悪い噂がものすごく立ったと思う。

 それについては「出鱈目だからどうでもいい」と、自分なりに何とか整理はできた。


 でも、謂れのない批判をされるのは面倒過ぎるし、自分と一緒に居ることでエリオットに嫌な思いをさせたくない。

 


(できれば今日はもう外に出ない方が良いと思うんだけど、夕食もあるし難しいわよね……。エリオットも街を散歩するくらいはしたいだろうし)



 どこに行けば知り合いに会わなくて済むか頭を悩ませるオリビア。


 そんなオリビアの気持ちを察したのか、エリオットの方から「今日はホテル内の食堂で食べましょう」と提案。

 夕食後は「今日は疲れましたし、部屋に戻って早く寝ましょう」と言ってくれた。


 お陰で、オリビアは外に出ることも頭を悩ませることもなく、平和に就寝。

 朝までぐっすり眠れた。という次第だ。



 *



 部屋に付いている洗面台で顔を洗い、着替えを始めるオリビア。

 青いドレスを着て、髪の毛をハーフアップにすると、花飾りの付いた青い髪留めでとめる。


 そして、化粧をしようと化粧台のある窓際に移動。

 化粧ポーチを取り出しながら、ふと窓の外を見た彼女は、とあることに気が付いた。



(……あれって、もしかして、エリオット?)



 彼女の視線の先にいるのは、見覚えのある帽子をかぶった長身の青年。

 ホテルから少し離れた大きめの木の下で、知らない男性と熱心に話をしている。


 オリビアは首を傾げた。



(誰かしら。知り合いかしら)



 エリオットの所属するディックス商会はとても大きい。

 もしかするとダレガスにも支店があるのかもしれない。


 見ているのも悪い気がして、目を窓からそらし、おしろいを塗ったり眉を描いたり、化粧に専念する。


 そして、一階の食堂に降りていくと、そこにはすでにエリオットが座って待っていた。



「おはよう。オリビア」


「おはよう。エリオット。待っていてくれたの?」


「いえ。私も今来たところです。体調はどうですか?」


「お陰様でとても良いわ」



 何となく、さっき見たことには触れないでおこう、と思いながら、その正面に座るオリビア。

 そして、彼を見て目をパチクリさせた。



(……あれ?)



 そこにいるのは、いつもと変わらぬエリオット。

 でも、なにかが違う。



(王都に居る時より、ちょっとカッコよくなっている気がするわ)



 思わずジッと見つめていると、エリオットと目が合った。



「どうしました?」


「あ、うん。何でもないわ」



 何となく恥ずかしくなり、オリビアは慌てて目を逸らした。

 目が合っただけだというのに、なんだか胸のあたりが騒がしい。


 加えて、なぜかエリオットの眼鏡を外した素顔が気になって仕方ない。

 どんな素顔なのかしらと考えてしまう。

 こんなこと今までなかった。



(どうしたのかしら……)



 考え込むオリビアの前に、朝食が運ばれてくる。

 湯気の立つ野菜スープと焼きたてのトースト。とろりとしたバター。

 理想的な朝食を前に、考えていたことを忘れ、目を輝かせる。


 そんなオリビアを見て、楽しそうにくすりと笑うエリオット。

 焼きたてのトーストにバターを塗りながら口を開いた。



「今日、どうしますか? 何かしたいことはありますか?」



 そうね。と、スプーンを動かす手を止めるオリビア。

 真面目な顔をエリオットに向けた。



「……実は、どうしても行きたい場所が二つあるの」


「行きたい場所。ですか」


「ええ。一つ目は両親のお墓よ」



 もう二年も会いに行っていないから、きっと心配しているだろう。

 行って、王都で幸せに暮らしていると報告したい。



「二つ目は、お父様の店。どうなっているか見たくて」



 店に行けば、知り合いに会う可能性が高いのは分かっている。

 きっと店も様変わりしているのだろうと思う。

 でも、行って確認しないとケジメがつかない気がするのだ。


 なるほど。と、エリオットが考えるように独り言ちる。



「では、後で馬車を手配しましょう」



 馬車ならば目立たなくて済むわね。と胸を撫でおろすオリビア。

 感謝の目でエリオットを見た。



「改めてお礼を言わせて。本当にありがとう。もしもエリオットが一緒に来てくれていなかったら、私、どうしていいか分からなかったと思うわ」



 安心してぐっすり眠れたのも彼のお陰だし、こうして外に出ようと思えているのもそうだ。

 感謝してもしきれない。


 頭を下げるオリビアに、エリオットが口の端を緩めた。



「いいんですよ。前にも言った通り、私がやりたくてやっているんですから」


「そんな訳にもいかないわ。帰ったら何かお礼をさせて」



 真面目な顔をする彼女に、エリオットがいたずらっぽく微笑んだ。



「お礼と言われても、私としてはもう頂いていると思っているんですがね」


「え?」


「こうやって、一週間あなたと共に過ごせるのです。私にとってこれ以上の報酬はありませんよ」



 ぱっと見、ちょっとした軽口。

 しかし、オリビアに向けられた色眼鏡越しでも分かる熱っぽい目が、それがただ冗談ではないことを物語っていた。



「……っ!」



 思わず赤くなって目を伏せるオリビア。

 いつもなら「何を言っているのよ」と冗談で返せるのに、なぜかそれが出来ない。

 心臓が早鐘のように打ち始める。


 軽く呼吸をして何とか気持ちを落ち着かせながら、彼女は思った。

 もしかして、彼がいつもと違って見えるのは、彼ではなく私に原因があるのかもしれない。と。



(……多分そうだわ。私が変わったんだわ)



 疲れのせい? 結婚式への緊張? それとも……






 ――しかし、その数時間後。

 こんな会話の内容など一瞬で吹き飛ぶような出来事が起こる。



「な、なにこれ……」



 馬車に乗って向かった先にあったのは、廃墟と化した小さな店。


 街で人気だったカーター魔道具店は、見る影もなくなっていた。







夜あと1話更新します。

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[気になる点] 売られたとかじゃなくて廃墟か……。
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