02.友人達 ※エリオット視点
本日1話目です。
オリビア魔石宝飾品店を出て、しばらくして。
サリーとニッカの後ろを無言で歩いていたエリオットが、おもむろに口を開いた。
「……少し話をしていきませんか」
「ああ。俺はかまわないぞ」
「そうね。もう夜も遅いし、何か食べながらでどう?」
近くの適当な店に入る三人。
テーブルに座って料理を注文する。
そして、食前酒での乾杯が終わった後、エリオットがサリーに尋ねた。
「オリビアのあの話、知っていましたか?」
「ええ。知っていたわ。聞いたのは半年くらい前かしら。私としては、あなたが知らなかったことの方がびっくりよ」
深入りしないようにしていましたからね。と、呟くエリオット。
ニッカが眉を顰めた。
「率直な話、お前、あの話聞いてどう思った?」
「おかしな話だと思いましたね。色々と辻褄が合いません」
「俺もそう思う。あのベルゴール子爵っていうのは何なんだ」
「ダレガス地方を治める古い貴族です。ここ数年羽振りが良く、飛ぶ鳥を落とす勢いだそうで、今年伯爵位への陞爵候補に挙がっていると聞きました」
サリーが不安の色を濃くした。
「ゴードンさんに聞いたんだけど、オリビアって実は凄い魔道具師で、二十年に一人の逸材って言われてるらしいのよ。魔道具は政治の道具に使われやすいって言うし、もしかして、狙われてるんじゃないかしら」
険しい顔をして黙り込むエリオット。
ニッカが慰めるようにサリーの肩を叩いた。
「大丈夫だ。オリビアはこっちに店を持っているし、貴族の客も多い。何より貴族の覚えがいいゴードンさんがいる。そう簡単にどうこうできないさ」
二人の会話を聞きながら、エリオットは思った。
確かに、正攻法では簡単にどうこうすることは出来ない。
だが、あんな招待状を送りつけてくる貴族が正攻法を使って来るとは思えない。
その場で自分の他の息子を押し付けてくるくらいしかねない。
オリビアの横に見知らぬ男が立っているのを想像し、得も言われぬ感情を覚えるエリオット。
――その後。
三人は今後のことを相談。
「また何かあったら連絡するわ」
「ええ。お願いします」
という会話を交わし、サリーとニッカと別れるエリオット。
一人夜の街を歩きながら思い出すのは、オリビアのこと。
彼は、この二年間ずっと見てきた。
彼女が、ひたむきに頑張っている姿を。
店を持つ前は、己の技術を磨くためにフラフラになるまで修行し。
店を持ってからは、何とか軌道に乗せようとデザイン展に出品したり、接客技術を学んだり、彼女は本当に努力してきた。
その努力の結果を、欲に塗れた貴族が自分の出世のために使うなど言語道断。
絶対にあってはならない。
せめて友人として見守っていければ思っていた。
その覚悟も出来ていた。
でも、もうそれだけでは駄目だ。彼女を守れない。
(……覚悟を決めるべきだな)
前に進む覚悟と嫌われる覚悟を。
軽く息をはくエリオット。
そして、目を細めてオリビアの店の方角をながめると、ゆっくりと夜の闇へと消えていった。




