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【4月10日 書籍3巻発売!】オリビア魔石宝飾店へようこそ ※Web版  作者: 優木凛々
第三部 義妹と元婚約者の結婚式に出ることになりました
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01.私が行きます


本日2話目です。


「オリビア様。口にクリームがついています」


「え?」


「それと、紅茶が溢れそうです」


「え? あ! 本当だわ!」



 ロッティに指摘され、オリビアは慌てて立ち上がった。

 そして、布巾を取ろうと足を踏み出して、



「痛っ!」



 足の小指部分を思い切り角にぶつけて、顔を歪めてしゃがみこむ。


 大丈夫ですか。と、ロッティが心配そうな顔をした。



「オリビア様。一体どうしたんですか。おとといも変でしたけど、今日は一段と変ですよ」


「な、何でもないわ。ちょっと眠れなかっただけ。もう目が覚めたから大丈夫」



 布巾でこぼした紅茶を拭きながら、無理やり笑顔を作るオリビア。


 ロッティが、ハア、と、ため息をついた。



「……多分大丈夫ではないと思います」


「え?」


「オリビア様。靴。右と左が逆です」




 *




(はああ。今日は散々だったわ)



 閉店の時間になり、オリビアは深いため息をついた。

 インク瓶を倒しそうになったり、ゴミ箱に足を引っかけて、ぶちまけそうになったり。本当に散々な一日だった。



(はあ。私って本当にこういうダメージに弱いわよね……)



 昨日は寝つきも悪く、途中で起きてしまったせいで、睡眠不足でフラフラだ。



(今日は夕食はいいから、もう寝よう)



 彼女がそんなことをボーっと考えていた、その時。



 チリンチリン



 店内にドアベルの音が鳴り響いた。



(ドアに『閉店』のカードを掛けているはずなのに。急ぎのお客様かしら)



 オリビアの目の前で「いらっしゃいませ」と、ドアを開けるロッティ。

 

 すると、そこには、サリー、ニッカ、 エリオットの三人が立っていた。



(……え?)



 突然の友人たちの来訪に、オリビアは呆気にとられた。

 この三人が揃って何の前触れもなく来るなんて初めてだ。


 そんな彼女の顔を見て、サリーが深いため息をついた。



「聞いていた通り酷い顔ね。寝てないんでしょう。何があったの?」



 サリーの言葉に、目をぱちくりさせるオリビア。

 そして、ハッと思い当たり、ロッティを睨んだ。



「あなた。お使いに行った時に、サリーに話したわね!」


「はい。私ではどうにもならなさそうだったので、サリー様に相談させていただきました」



 シレっと答えるロッティ。


 サリーが宥めるように言った。



「ロッティはあなたを心配して私のところに来たのよ。自分の店の主人が靴を左右反対に履いて、新聞を逆さに読んでいるのよ。心配するなという方が無理でしょ」



 失態だらけの一日を思い出し、ぐっと詰まるオリビア。


 そして、話さないと帰らないわよ。とでも言いたげなサリーの顔を見て、諦めたようにため息をついた。


 本当であれば、こんな下らないお家騒動みたいな話は知られたくない。

 でも、一人で抱えるには問題が大きすぎる。誰かに聞いて欲しい。


 オリビアは意を決して、二階の自宅から手紙を持ってくると、それをサリーに差し出した。



「原因はこれよ。読んだら分かると思うわ」



 サリーが「失礼するわね」と、手紙を開く。

 そして中を読むなり、真っ赤になって怒り出した。



「ちょっと! 何よこれ!」



 サリーの後ろから手紙を読んだニッカとエリオットが、「単なる結婚式の招待状じゃないのか?」と首を傾げる、



(まあ、ここまで来たら仕方がないわね)



 オリビアは、今までサリーにしか話したことがなかった自分の事情を話し始めた。


・両親が死んだ後に、叔父一家に家と店を乗っ取られたこと

・デザインを奪ったと冤罪をかけられ、婚約破棄されて追い出されたこと

・父の親友であるゴードンを頼って王都に来たこと



 オリビアの話を聞いて、端正な顔に怒りの表情を浮かべるエリオット。

 ニッカも険しい顔になっていく。


 サリーが憤慨したように口を開いた。



「こんな招待状、無視すればいいわ。行くことないわよ」



 男性二人も、そうだな。と深く頷く。


 しかし、オリビアは力なく首を横に振った。



「それができないのよ。二枚目の紙を見てみて」



 サリーが「もう一枚あったのね」と、訝し気に二枚目の紙を広げる。

 見るなり驚愕の表情を浮かべた。



「これって……」



 それは、 元婚約者ヘンリーの実家であるベルゴール子爵からの貴族印付の手紙。

 そこにはオリビアに結婚式に出席するようにと書いてあった。


 オリビアは自嘲気味に肩を竦めた。



「まあ、早い話が領主様からの命令書よね 」


「そんな。横暴すぎるわよ。権力の濫用だわ!」


「私もそう思うけど、田舎だとよくこういうことがあるのよ」



 ニッカが険しい顔で口を開いた。



「……これは俺の予想だが、最悪の場合、行ったら帰って来れないんじゃないか」



 やっぱりそう思うわよね。と、呟くオリビア。


 どうしてよ! と、いきり立つサリーに、ニッカが手紙を指さした。



「貴族が単に誰かを結婚式に参加させるだけで、こんな貴族印付の手紙を書くとは思えない。何か裏の目的があるに決まっている」


「裏の目的って何よ」


「分からないが、オリビアにとって良くないことだけは間違いないだろうな」


「取り消せないの?」


「……無理だろうな。理由がない。書いてあるのは『親族の結婚式に出席せよ』だけだからな」



 店内がシンと静まり返る。


 ニッカが眉間に皺を寄せた。



「……とりあえず、一人で行くのはやめたほうがいい。頼れる親戚はいないのか?」


「誰もいなかったら、私が行くわ!」



 サリーが勢いよく手を挙げる。


 オリビアは感謝の目で彼女を見た。

 頼れる者が遠方の身重な従妹くらいの彼女にとって、サリーの申し出は本当にありがたい。

 でも、自分の家の下らない事情で、多忙なサリーに仕事を休ませる訳にはいかない。



(大丈夫。一人でがんばれるわ)



 そして、オリビアが「ありがとう。でも、一人で大丈夫よ」と言った、その時。


 険しい顔で黙っていたエリオットが、ゆっくりと口を開いた。



「……私が行きます」


「……え?」


「私がオリビアと一緒に行きます」



 まさかの申し出に、呆気にとられるオリビア。


 いつになく真剣な顔のエリオットを見て、ニッカが、ふむ。と、腕を組んだ。



「……そうだな。エリオットが一緒に行くなら安心ではあるが、……いいのか?」


「ええ。問題ありません」



 エリオットが、きっぱりとした表情でニッカに頷いてみせる。


 オリビアは慌てた。



「ちょ、ちょっと待って! 気持ちは嬉しいけど、その間、仕事を休まなきゃいけないのよ?」


「一ヶ月半後に一週間程度ですよね。であれば問題ありません」


「で、でも、迷惑をかける訳には……」



 焦る彼女を、エリオットが真っすぐ見つめた。



「オリビア。断らないで下さい。迷惑ではありません。私が行きたいのです」



 真剣な表情に押され、言葉を詰まらせるオリビア。


 ニッカが面白そうな表情で、ひゅうっと口笛を吹く。


 サリーが小さい子供を宥めるような表情でオリビアの肩を叩いた。



「あんたね、今友達に頼らなくて、いつ頼るのよ」


「で、でも……」


「でもじゃないわよ! うん、と言いなさい!」



 彼女の勢いに負けて、思わず「うん」と頷くオリビア。


 サリーが「言質はとったぞ」と言わんばかりに頷くと、勇ましい顔をしてその場の全員を見回した。



「さあ、そうと決まれば、今後について相談しないとね。ロッティ、あなたには働いてもらうことになるけど、大丈夫?」


「はい。もちろんです」


「まずは服よね。結婚式の証人をするなら、それなりの格好が必要だわ。すごい物を揃えて、そいつらにギャフンと言わせてやりましょう。ギャフンと!」



 意気込むサリーの横で、ロッティが冷静に口を開いた。



「もしかすると、王都の流行りも押さえた方が宜しいのではないかと」


「そうね。ロッティの言う通りだわ。服が王都風なら話す話題も王都風にしないとね。エリオット、そこ頼める?」


「ええ。もちろんです」



 あまりの急展開に狼狽えるオリビアを他所に、熱心に話し合う四人。


 そして、本人半分不在のもと、



・サリーと服&化粧品を買いに行くこと

・エリオットと流行りの劇を見に行くこと



 の二つが決まった。







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↓2025年4月10日、3巻が発売予定です。お手に取って頂けると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*

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― 新着の感想 ―
[気になる点] むしろゴードンさんに……。 ゴードンさん気付いてないの?って思うけど手紙の分類なんて下の者がササッとやっちゃうか。
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