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【4月10日 書籍3巻発売!】オリビア魔石宝飾店へようこそ ※Web版  作者: 優木凛々
第三部 義妹と元婚約者の結婚式に出ることになりました
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プロローグ:二年後に来た手紙


第三部開始です。本日一話目です。



(はあ……)



 オリビアが王都に来て約二年、魔石宝飾品店がオープンして約一年。

 冬の終わりの、冷たい雨の降る薄暗い午後。


 店舗二階にある自宅にて。

 仕事用の紺色のロングスカートスーツを着たオリビアが、服がしわくちゃになるのも気にせずベッドに仰向きに倒れていた。


 すぐ横に散らばっているのは、封が開いた封筒と、二枚の便箋。


 彼女は天井を眺めながら呟いた。



「あの人達って、一体何なのかしらね……」




 *



 その日の午前中。

 オリビアは、とある男爵令嬢に請われ、彼女の屋敷を訪れていた。


 屋敷で彼女を待ち構えていたのは、四人の令嬢達。

 皆友人同士で、社交シーズン前にオリビアの新作が欲しいと集まったらしい。



「この指輪かわいいわね! 今流行りの形だわ。しかも回復機能付きなのね!」


「こっちのピアスも素敵ね。解毒作用のある宝飾品を身に着けろって言われているんだけど、組み込むことはできるかしら?」



 キャアキャアと盛り上がる令嬢達に、笑顔で商品の説明をするオリビア。



 ――ここ半年ほど。

 オリビア魔石宝飾品の顧客が爆発的に増えた。


 きっかけは、サリーのサロン経由で訪れた流行に敏感な貴族令嬢。

 彼女がオリビアの店の商品を身に着けるようになり、私も欲しいと貴族令嬢たちが続々と来店。

 こうして自宅に呼ばれることが増えてきた。


 オリビアの説明を聞きながら、キャッキャと楽しそうに話し合う令嬢達。

 試着したり、ドレスに合わせたり、賑やかな時を過ごす。


 そして、たくさんの注文を受け。

「なるべく早くお持ち致します」「よろしくね」という会話をした後。

 オリビアは、持参した新作サンプルと魔石と共に、令嬢が用意してくれた馬車に乗り込んだ。



「ふう。やっと終わったわ」


「お疲れ様です」



 助手として一緒に来ていた店員のロッティが頭を下げる。

 オリビアが微笑んだ。



「ロッティもお疲れ様。ずっと立ったままで疲れたでしょう」


「慣れておりますので、大丈夫です」



 淡々と答えるロッティ。


 ちなみに、彼女は半年ほど前にエリオットが連れて来た少女だ。

 黒に近い茶色い髪に、同じ色の瞳の猫っぽい顔立ちで、長らく貴族の家でメイドとして働いていたらしい。


 ちょうどその頃、貴族の客の比率が上がっていたこともあり、オリビアは彼女をその場で採用。

 以来、店番や掃除、貴族の家への付き添いや対応、簡単な会計などを担当してもらっている。

 ちょっと無表情でそっけない所があるのを除けば、とても有能な人材だ。


 貴族街の中を走る、二人を乗せた馬車。

 ラミリス通りへ向かう。


 そして、店の前に到着すると。

 店先でゴードン大魔道具店の使いの少年が待っていた。



「どうも。オリビアさん。お久し振りです」


「ごめんなさい。待たせた?」


「いえ。こちらが勝手に来ましたので、気になさらないで下さい」



 少年は折り目正しく頭を下げると、鞄から一通の手紙を取り出した。



「これが来ておりました。ゴードンさんが急いだほうが良いんじゃないかって」



 オリビアは手紙を受け取ると、表面をしげしげとながめた。

 あて先に書いてあるのは『ゴードン大魔道具店 オリビア・カーター』という、やや汚い字。



(確かに私ね。でも、手紙なんて一体誰かしら)



 ひっくり返して裏の差出人を見て、オリビアは凍り付いた。



『ダニエル・カーター準男爵』



(……え? 叔父様……よね?)



 それは、オリビアを店と家から追い出した叔父の名前。


 彼女は動揺を隠すように軽く深呼吸すると、少年に尋ねた。



「これ、どうしたの?」


「普通に郵便で店に届いたそうです。ゴードンさんが、まだうちで働いてると思ってるんじゃないかって」


「……そう」



 オリビアは、顔をこわばらせた。


 この二年間、叔父一家とは連絡を取っていない。

 それなのに、なぜ自分の働き場所を知っているのか。



(……なんて気味が悪いのかしら)



 思わず身震いする彼女に、戸惑ったような顔をする少年。


 店に荷物を運び入れ終わったロッティが口を開いた。



「オリビア様。もうすぐ雨も降りそうですし、使いの方には帰ってもらっても大丈夫ですか?」


「え? ええ」



 はっと我に返って慌てて返事をするオリビア。



「では、お礼の品を持ってお帰り頂くことにします。オリビア様はお疲れでしょうから、どうぞ自宅にお戻りください。ここは私が対応しておきます」


「あ、ええ。ありがとう」



 有能なロッティに感謝しながら、オリビアは店舗二階にある自室に戻った。

 後ろ手でドアを閉めると、手紙を見ながら眉をひそめる。



(一体何なのかしら……)


(クビにしたんだもの。まさか戻って働けはないわよね)


(お金の無心? でも、店がある限り収入はあるわよね)



 悪い予感しかしないものの、ゴードン経由で来てしまった以上、読まない訳にもいかない。

 彼女は意を決して封を開けると、中の手紙を取り出して素早く目を走らせた。



『前略


この度、カトリーヌとヘンリー様が結婚することになった。

お前は、証人として出席するように。


日時  〇〇/〇〇 〇時

場所  ダレガス子爵本邸  


カーター準男爵』




「……は?」



 オリビアは眉をひそめた。

 理解が追い付かない。



(これって、結婚式の招待状ってことよね? 元婚約者と、デザインを盗んだ義妹の結婚式に出ろってこと? しかも、証人として? 一ヶ月半後?)



 あまりの非常識さに、脳が揺さぶられるような感覚を覚える。


 結婚式に身内を呼ぶのは普通の事だ。

 義理とはいえ姉。証人を頼んだとしても何ら不思議はない。


 しかし、それが元婚約者と義妹の結婚式となれば話は別だ。

 しかも、通常一年前には招待状を出すところを、驚きの一ヶ月半前。

 はっきり言って、こんなの嫌がらせでしかない。



(何なのよ、これ……)



 降り始めた雨の音を聞きながら、呆然と立ち尽くすオリビア。


 

――彼女の二年かけて築き上げた日常が、ガラガラと音を立てて崩れ始めた。







<証人とは>

日本と同じで、婚姻届け書類に「証人」として署名する人になります。

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