表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリビア魔石宝飾店へようこそ ※Web版  作者: 優木凛々
第二部 王都に店を構えることになりました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/44

02.友人サリーと新しい店


本日1話目です。


 ゴードンと新しい店について話をした、約二月後。

 初夏の陽射しがまぶしい、よく晴れた日の午後。


 紺色のロングスカートスーツを着て白い帽子を被ったオリビアが、にぎやかな通りに面した一軒の店の前に立っていた。



『サリー ブライダル・ブティック』



 白い看板に描かれているのは、仲睦まじく並ぶ男女二人の影絵。

 ショーウインドウには、レースをふんだんに使った可愛らしいウェディングドレスが飾られている。


 オリビアが中に入ると、制服を着た若い女性店員が出て来た。



「こんにちは。オリビアさん。店長ですか?」


「ええ。届け物よ」


「かしこまりました。こちらでお待ちください」



 案内してもらった店の端に置いてあるソファに座るオリビア。

 ウェディングドレスや小物が並ぶ店の奥から、楽しそうな男女の声が聞こえて来る。



「このピンクのドレスも可愛いわね。ねえ。白とピンク、どっちが良いと思う?」


「君ならどちらでも似合うよ」


「もう! ちゃんと選んでよ! 一生に一度の結婚式の衣装なのよ!」



 文句を言いながらも満更でもなさそうな女性の声に、オリビアは思わず声を出して笑いそうになった。

 両手で口元を押さえ必死に笑いをこらえていると、先ほどの店員が戻って来た。



「店長がお待ちです。こちらにどうぞ」



 一番奥の部屋に案内してもらうと、そこはピンクの壁紙が大人可愛い大きめの執務室。

 壁際には作りかけのドレスを着たトルソーが並んでいる。

(※トルソー:洋裁用のマネキン)


 執務机に座っていた、見事な赤毛の快活そうな女性が、オリビアを見て嬉しそうに立ち上がった。



「よく来てくれたわね。オリビア。どうぞ座って!」



 この女性の名前は、サリー。

 ウェディングを得意とする服飾デザイナーで、まだ若いながらも自分の店を構えたやり手でもある。

 元はエリオットの知人で、彼に紹介してもらって以降、度々一緒に仕事をするようになった公私ともに仲の良い友人だ。



 オリビアは笑顔で「ありがとう」と、言いながら、執務机の前に置いてあるピンクの椅子に座った。

 防犯機能付きの鞄から、小さな箱を取り出す。



「今日は頼まれていたキャサリン男爵令嬢の指輪を持ってきたの」


「まあ! とうとう出来たのね。見てもいい?」



 もちろん。と、箱を開けて見せるオリビア。

 サリーがうっとりした表情になった。



「素敵ね。この指輪の曲線なんて芸術的じゃない。ドレスとの相性もばっちりよ!」


「ふふ。ありがとう。苦労した甲斐があったわ」



 受領書にサインした後、指輪の箱を部屋の金庫にしまうサリー。

 店員を呼んでお茶を持ってくるように頼むと、オリビアに尋ねた。



「新しい店の進捗はどう? 店舗が見つからないってぼやいていたけど」


「実は先週、ラミリス通りにあった古い魔道具屋が売りに出てね。ようやくそこに決まったの」


「まあ。ぴったりじゃない。うちとも近いし、衛兵詰め所も近くて安心だわ」



 良い場所が見つかって良かったわね。と、サリーが自分の事のように喜ぶ。



「店の名前はどうなるの?」


「自分で決めていいらしいわ。ゴードンさんが、姉妹店だから名前は好きなのにすればいいって」


「あら、素敵! 店の名前を考えるのって楽しいのよね」



 お茶を飲みながら、楽しく歓談する二人。

 雑談を交えながら、仕事関係の情報交換を行う。


 そして、オリビアが「また来るわね」と店を出ると。

 外は既に夕暮れの気配が漂い始めていた。

 涼しい風が吹き始め、高い建物で遮られた狭い空が、うっすらと薔薇色に染まっている。



(早いわね。もう夕方なのね)



 空を見上げながら石畳の上を歩き始めるオリビア。

 ゴードン大魔道具店とは反対の方向にある、ラミリス通りに足を進める。


 ラミリス通りは、カフェや服飾店が並ぶ若い女性に人気の通りで、夕方近くになっても多くの女性達が楽しそうに歩いている。


 オリビアは、その一角にある小ぶりなショーウインドウが付いている店の前に立った。



(ここね)



 鞄から使い込まれた鍵を取り出すと、ややペンキが剥がれた扉を開ける。



 チリンチリン



 誰もいない店に響き渡るベルの音。


 そっと中に入り、ドアを閉める。


 薄暗い店内は、ガランとしており、外のにぎやかさが嘘のように静まり返っている。

 長らく無人だったせいか、埃っぽいにおいが漂って来る。



(……何なのかしら、この感覚。懐かしいような、胸がドキドキするような)



 春の湿った土のにおいを嗅いだ時のような不思議な感覚に、目を細める。

 店内をゆっくりと見回すと、軽くため息をついた。



(……ここが私の店になるなんて、何だか実感が湧かないわね)



 明日になれば職人が来て、オリビアが注文した棚やらカウンターやらを取り付けてくれる。

 そうなれば、自分の店という実感が湧くのだろうか。

 それとも看板がついたら、自分の店だと認識できるようになるのだろうか。



「……名前、ちゃんと考えないとね」



 小さな声で呟くオリビア。




――そして、その二週間後。改装が終了。

 コバルトブルーに塗られた店のドアに、こんな看板が掛けられた。



『オリビア魔石宝飾店へようこそ』






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓2025年4月10日、3巻が発売予定です。お手に取って頂けると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*

★各書店サイトはこちら★【Amazon】  【紀伊国屋書店】  【楽天ブックス】 
jecz7xbp8wwt115bcem0kw0dcyrw_fw6_ce_h2_hkqr.png
― 新着の感想 ―
[一言] 祝 開店おめでとうございますヽ(´▽`)/
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ