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呪われ令嬢の幸せ

作者: 璃緒


 

 クリカッタ伯爵家は呪いを受けている。伯爵家としてこの国に認められてからずっと。

 

 同時に繁栄も約束されている。呪いを受け入れて、条件を満たし続ける限りずっと。

 

 


「ねぇ、ベス。本邸が慌ただしいけど、今日は何かあるの?」

 

「はい。ヨキル様とソニア様のお誕生会が行われます」

 

 ベスの答えに私は眉をひそめた。

 ヨキルとソニアは私の弟と妹だ。2人は双子だから一緒に祝うのは理解できる。

 

「2人の誕生会は来週じゃなかったかしら?」

 

「そうですが、先にお客様をお呼びして行うそうです。来週はユア様もご参加されますので」

 

 ベスは淡々と答える。歯に衣着せぬ言い方は昔からですっかり慣れてしまっていた。

 

「なるほど。私は人前に出せたものでは無いから先に人を呼ぶことは終わらせてしまうのね」

 

「そうなりますね」

 

 ベスは相変わらず素直に肯定した。

 

「私にその知らせは無かったけれど、その辺はどう考えてのことなのかしら?」

 

 私は頬に手を当ててそう呟く。

 

「ユア様のご不興を買うことを恐れたのでしょう」

 

「黙って開催してそれが私にバレた時の方が不興を買うって思わなかったのかしらね」

 

「その考えは思い付かなかったのではないでしょうか?」

 

「お父様は本当に分かっていらっしゃるのかしら……」

 

 私はわざとらしくため息を吐き出した。

 

 

 私はクリカッタ伯爵家の呪いを一身に受けている。そのせいで目はまぶたの肉がたるんでとても細いし、鼻は恐ろしく長く曲がっていて、唇は見ていて不快になるほどテラテラとしている。顔だって老婆のように皺だらけだ。なのに、体だけは綺麗なラインを保ち艶々していたりする。あまりにもアンバランスで大抵の人は私を見ると具合を悪くしてしまう。

 こんな私とは反対にクリカッタ伯爵家は繁栄を約束されている。お金も人も信頼も名誉もその手に掴めるだけの豪運を手にしている。それを維持するためにはただ1つの約束事がある。

 

 呪われてしまった子を大切に慈しむ。

 

 表向きはこれだけ。これを維持していかなければこの呪いは家族にも広がる。

 

 5代前の記録では、その時の当主がどうしても呪われた娘を受け入れられず、最終的にこの呪いがその時の伯爵家全員に回ってしまい次々と自分の姿に耐えられず自害している。

 それでもまだ伯爵家があるのはその時の伯爵の弟が跡を継いだから。そして、伯爵家を継いだことにより呪いも引き継がれた。

 

 そして、今。

 私のお父様はそのことを知っているはずなのに、こうやって時々私を蔑ろにしているのではないかと思うことをする。

 

 

「それじゃ、本邸の様子でも見に行こうかしら」

 

 私がそう言うと、ベスは分かりましたと言って準備を始める。

 

 ベスは人にしか見えないが人ではない。この家の呪いを見届ける存在だ。父の姉のルア様にも仕えていたし、お祖父様の妹の世話もしてきた。私もいつからベスがいるのか知らない。なのに外見は変わらずずっと20代半ばの容姿を保っている。

 

 私は伯爵家の敷地内に別邸を与えられているけれど、この別邸はベスの魔力で保たれている。呪われた子を伯爵家は大切にしなければならないけれど、普通の人が世話をするのは難しい。何せ呪われた子を見ていると具合が悪くなってしまうのだから。

 だから呪いを見届ける存在であるベスが歴代の呪われた子を世話するようになった。

 伯爵家の者達は難しいことを何一つ考えず呪われた子をただ愛でていればいいだけだ。

 

 

「さすが、ベスね。まるで怖い物語に出てくる幽霊のような出来よ」

 

 別邸には鏡がたくさんあり、どこにいても私は自分の容姿を否応なく確認できる。その一つの姿見の前でくるりと回ってみる。白い足首まで隠れるワンピースには裾に銀糸で刺繍が施してあり、裾が揺れるとそれらが僅かにキラキラとする。頭からは顔が少し透けて見えるレースのベールをしている。どんなに装いを綺麗にしたところで、すれ違った人は恐ろしい印象を抱くに違いない。中身は呪われた醜い容姿の私なのだから。

 

「これで本邸の中を歩いたら皆とてもびっくりするでしょうね」

 

 ふふと私が口許に笑みをのせると、ベスも満足そうに笑う。

 

「いい性格をしてらっしゃると思いますよ」

 

 

 私は本邸をのんびりと1人で歩いていた。ベスは本邸には入れないらしい。よく分からないけれど、そういう制約があると言っていた。

 私は広間へは向かわない。行っても自分が不快な思いをするのが分かっているし、可愛い弟妹のお祝いに水は差したくない。こんな容姿の私なのに、弟妹は可愛い声で姉様と親しみを持ってくれている。心の奥底は分からないけれど確かに私は家族に大切にされてはいると思う。

 だから私はベスに言ったように誰かを脅かす為に来たわけではない。多分、外から人を招いたということはそれに紛れて彼も来ているだろうから。

 

 私を見かけた本邸で働く使用人は驚いてから、顔を青くして頭を下げた。私と目を合わせることや話しかけてくることはない。だから私も使用人に話しかけたりはしない。そんなことをすればかわいそうな思いをさせてしまうだけだから。

 

 私は目的の図書室に着くと扉を開けて中へと足を踏み入れる。本を眺めながらゆっくりと歩いていくと、書架の影から青年が出てきた。

 

「これは呪われた姫様ではありませんか」

 

 驚いたようなわざとらしい表情を浮かべながら、彼は手を横にすすっと動かしその手で床に触れる。瞬間的に図書室に隠されていた魔法陣が発動した。

 

「久しぶり、サージル」

 

 私は魔法陣が展開されるのを見届けてからそう声をかけた。

 

「ユア、会いたかったよ」

 

 爽やかな笑顔でそう言うサージルに嘘は見当たらない。

 

「私と会いたい変わり者はサージルくらいよね」

 

「みんな、呪いに騙されているだけなんだけどね。妖精の魔法は僕らには厄介だからさ」

 

 サージルは肩をすくめてみせる。

 

 サージルが私と会う時は、彼自身に暗示魔法を施しているそうで、そうすることで私と普通に話しても具合を悪くしなくて済むらしい。

 

「妖精、ね」

 

 クリカッタ伯爵家の呪いを施したのは妖精でほぼ確定している。何のためにとも思うが記録が少なく、どういう経緯があってこうなってしまったのか今ではよく分からなくなっている。

 

 

 3つ上のサージルとの出会いは2年前になる。私は13歳でサージルが16歳。

 サージルが私を見て最初に言った言葉は、“これは本当に酷いね”だった。

 普通なら怒るべきだったんだろうけど、お父様もいる場所で私に向かって言われたその言葉は、とても率直で思わず笑ってしまっていた。

 それまで誰も面と向かって私に容姿についてを言ってきたことが無かったから、とても新鮮に感じてしまった。ベスがずっと側にいたせいで辛辣な物言いに慣れてしまっていたのもある。

 

 何もサージルは私の悪口を言うために連れてこられた訳ではない。我が家の呪いを解くにはどうしたらいいのかを見つける為に呼ばれたのだ。

 サージルは当時16歳ではあったけれど、魔力は国内一で、しかも研究バカだった。寝ても覚めても魔法やそれに準ずるものに異常なまでの探究心と執着心を持っていた。

 

 呪われたとは言え、そこには何かしらの魔法契約のようなものがあるのではないかと考えたサージルが我が家に興味を持ったのは当然とも言えた。そんな訳で2年前から私はこうやってサージルと話すようになった。

 

 わざわざこうやって魔法陣を張ってその中で話すのは、この屋敷の敷地内がどうもその呪いをかけた存在の影響が強く、誰がどこで何を話したのかが筒抜け状態だからだそうだ。

 

 

「妖精魔法は僕らが使う魔法とは根幹が違うんだよ。だから伯爵家の呪いがどんなものなのか今まで誰も把握できなかった」

 

「そうね、だからこそ妖精が関わっているってことになったのだし……でも、ここまでは分かっていたことよね?」

 

「まぁね。でも色々と考えを整理していけば今まで分かっていなかったことも見えてくるかもしれないだろ」

 

 サージルは目をキラキラさせながら妖精の魔法の考察を続ける。私はそれを時々サージルの顔を盗み見しながら聞いていく。基本的に暗示魔法とやらがあってもサージルにとって私の容姿は気持ち悪いだろうし、私もあまりまじまじと見られたいとは思わないのでなるべく顔は横に向けている。

 

「ユアはこの妖精の呪いどんなものだって思ってる?」

 

「それははっきりしているじゃないの。伯爵家には1代に1人呪われた子が生まれる。必ず女の子でとても醜い容姿を持つ。代わりに伯爵家は豪運と共に繁栄が約束されている。呪われた子を大切にしてさえいればそれは永劫に続く」

 

 私がそう言うと、サージルは肩をすくめてみせた。

 

「確かにユアの言った通りだけど、本当にそれだけだと思ってる?」

 

「え?」


 私は困惑してサージルを思わず見返した。

 

「この家の呪いに……まぁ、僕は契約魔法だと思ってるけど、ユアが言った通りだけだとすると、妖精には得するところが何も無いことになっちゃうんだよ」

 

「……言われてみれば、そうね……考えたこと無かったわ」

 

「……でしょ? 最初にこの呪いのことを聞いた時から変な話だな、とは思っててさ。人がかけたのであれ、妖精であれ、契約するからにはお互いの利にならなきゃいけない。呪いなんて言葉に変換されちゃってるけど、それってつまり何かを対価に願いを叶えるってことだからさ……そうするとこの家にとっての得は繁栄とか豪運で、払っている対価が呪われた子。なら、妖精側は?」

 

「対価がこの家の繁栄を保証することだとすると、それで妖精が得るものって何かしら?  財産を払っているなんてこともないし……」

 

「妖精にとっちゃ人の使うお金なんてものには興味が無いよ……それに、妖精と関わったことがあっても記憶が消されてるんじゃないかと思ってたりもするだよね……なんならベスだっけ? ユアの侍女」

 

「ベスは侍女と言うより私の世話をしてくれる専属の付き人かしら? 彼女がどうかしたの?」

 

「その人、ルア様だっけ? それとユアのお祖父様の妹。その時も同じようなことしてたんでしょ? それって明らかに人ではないよね……彼女はじゃあ何者だと思っているの?」

 

「……ベスは……人ではないわね……私も普段からそう思ってはいるけれど……何者か、なんて考えたこと無かったわ……」

 

「ユアにこの質問をしたのは今のですでに4回目だよ? 覚えてない?」

 

 サージルが私を真っ直ぐと見つめてきて思わず視線を外してしまう。

 

「……嘘よ。初めて聞いたわ」

 

「いつもと同じ反応だね。つまりユアは……と言うよりも伯爵家の人達はベスについて深く知ることはできないんだよ。人ではないと認識できてもそれを怖れることも無いし、深く考えたりもできない。多分契約の一部なんだろうね。彼女こそ妖精か、もしくは妖精が作った存在なんだと僕は考えているんだよ。ちなみにユアや伯爵家の人もこの会話自体は眠るまでは覚えていられるのは確認してるよ」

 

「そんな……眠ったら忘れてしまうの?」

 

 私が訊ねればサージルははっきりと頷く。

 

「伯爵家の人は、妖精に関わることをある程度知りすぎると眠るとその記憶が消えてしまうっていうのは何度も確認してるんだ……つまり僕から見ると手掛かりになりそうなことも日をまたぐと振り出しに戻ってしまう感じだよね」

 

「それなのに話すの?」

 

「どれくらい伝えたら少しは覚えていられるのかな、って興味があるからさ。伯爵は言えば少しぼんやりと思い出せるようになってきてるよ」

 

「そうなの?」

 

「うん。伯爵が一番この呪いを解いて欲しいみたいだから、一生懸命覚えていてくれようとしてるよ」

 

「そう……お父様が……」

 

「ユアは伯爵が本当にユアを蔑ろにしていたりするように思える?」

 

「……分からないわ」

 

「これも呪いの一部だろうね……」

 

「え?」

 

 サージルは独り言のように呟いてから私の方へ真剣な目を向ける。私は居たたまれなくなり、思わず目を伏せた。

 

「ユアはこの世界に居たい? ユアがこの世界を選ばなければ、ユアはすぐにでも妖精の世界へ連れ去られてしまうかもしれない。次代のヨキルとソニアはまだ14歳で、結婚も子どもの話もないけど、ユアは僕と関わったせいでいつもより早くあっちに連れていかれてしまうかもしれない」

 

「何のこと? 急で話についていけないわ」

 

 サージルの真剣さは変わらないから嘘や冗談を言いはじめたわけではないのが分かる。それに言葉の端々に切迫した響きすらある。

 けれど話の内容は色々と説明が足りなすぎて何のことを言っているのか掴みきれなかった。

 

「……ユアは妖精の花嫁なんだ……こう聞いてユアは知りもしない妖精のところへ行きたいと思う?」

 

「……そんなことって……」

 

「ユア、思い出して。ルア様がどうやって居なくなってしまったか」

 

「ルア様は……あら……え? どうして、思い出せない……?」

 

 ルア様は私が5歳の頃までは私の母親代わりの様にとても可愛がってもらっていた。それまではいつも一緒にいて絵本を読んでくれたり、寂しい夜は一緒に眠ってくれたことさえある人だ。思い出は沢山あるはずなのに、ルア様がいなくなってしまった日が思い出せない。

 

「ユア、ルア様は妖精の世界へ行ってしまったんだよ」

 

「妖精の世界へ……何故?」

 

「ユア、妖精の呪いを受けるのは必ず女の子だ。そして、その家で一番可愛い子なんだよ」

 

 サージルは何を言い出すんだろう? 醜い容姿を持つから呪われているのだ。可愛いなんて言葉は私やルア様から対局の位置にある。どうやっても手の届かないものだ。

 

「からかってる?」

 

「真面目だよ? ユアの容姿はまやかしだよ。幻を常に被されて誰にも本当の姿を見られなくされてる。それがこの呪いの本当のこと」

 

「まさか」

 

 私は笑おうとしたけれど、サージルの顔は真剣なままでとても冗談を言っているようには見えない。

 

「そうじゃないと5代前の記録が不可解すぎる。それまで普通の容姿だったのに次々に容姿が変化するなんてあり得ない。それこそまやかしだよね」

 

「そういう魔法があるんじゃなくて?」

 

「ないよ。肉体なんて魔法でいじったら体の方がすぐに耐えられなくなっちゃうんだ。そういうことをしようとした記録はたくさんあるけど成功した例は無いんだよ」

 

「そんなに記録があるの?」

 

「綺麗になりたいって欲求って時には命より重くなることもあるんだよ」

 

「そうかも……でも、妖精ならそんなこと簡単にできてしまうんじゃないかしら。妖精の使う魔法って私達とは違うんでしょう?」

 

「基本は違うからあり得るかもしれないけど、体の変化をいじるってことはかける相手の体力や生命力を削ることに繋がるんだ。だから例え妖精でも無理なんじゃないかな」

 

「サージルはだからまやかしだって考えてるってことね」

 

「そういうこと。それを聞いてユアは妖精の世界へ行きたいと思う?」

 

「……そうね……それが本当で、ここより楽しいことが待ってるなら行ってもいいかもしれないとは思うかしら……」

 

「ユアの家族はそれを望むと思う?」

 

「分からないわ……大切にされているとは思うわ。でもそれは呪いが怖いからなんだって思うと……それに今日もパーティーがあるのは知らなかったわ。そうやって時々とても疎外感を感じるの。仕方がないって分かってはいても、私がいない方が家族にとっては幸せなんじゃないかしら、とは思うの……」

 

 サージルはため息を吐き出す。

 

「それが妖精の作戦だよ。伯爵は今日のことをちゃんとユアに伝えてる。僕がいる前で話してたんだからそれは絶対だよ。でも、ユアはそれを忘れてしまった」

 

「え? 忘れてしまった? 私が?」

 

「そうだよ、忘れるんだ……とにかく、妖精の世界へ人が行くにはまずこの世界に居たくないって思わせなきゃいけないんだ。妖精達の世界へと連れていくための絶対に外せない条件だよ。それをするための1つが醜い容姿。しかもずっと見てると具合が悪くなるおまけ付き。それなのにその子を慈しまなければならないという条件。僕はあまりに残酷だと思ってるよ……それが妖精らしさでもあるけどね」


「それってそんなに残酷なことなのかしら?」

 

 この容姿で誰にも省みられない方が残酷だと思える。条件があるから今までどこにも放り出されたり酷い目に合わずに過ごしてこれた。少しは寂しいと感じることもあったけれど確かに私は大切にされていると実感することだってちゃんとあった。

 

「残酷だよ。ユアの家族はちゃんとユアを想っているのに、直視し続けられなくて本能的に目を逸らしたりしてしまう瞬間ができるんだ。それに気が付けば多少なりともユアは少しずつ傷付く。挽回するためにどんなに家族が言葉を尽くしても、呪いがその態度を貫くことを決して許さない。いつしか溝は深まっていく。しかもその呪いはユアが家族から感じた愛情の記憶も少しずつ薄れさせるのを僕は確認してる」

 

「え?」

 

 初耳なことばかりだ。でも、私がそれらを忘れていくということが本当なら、明日になればこの会話も忘れてしまうんじゃないだろうか……

 

「……もしかして、この話も前に私にした?」

 

 問いかけるとサージルはにこりと笑顔を作った。

 

「ユアは頭がいいよね。ちゃんと僕の話を理解して毎回ここで同じ質問をするんだから。何度か失敗しちゃったけど今回は逃がさないよ?」

 

 そうして唐突に距離を詰められ、右手を掬い上げられる。

 

「今日で3度目。最初は真っ赤になって逃げて行っちゃったし、前回は場所が庭だったせいで妖精の横やりが入ってユアの気を失わせて記憶が飛んじゃったからね。今回はこっちの邸でしかもちゃんと厳重に結界を敷いたから逃がさないし、妖精にも邪魔はさせない」

 

 近距離でまっすぐに視線をぶつけられ二の句がつげない。ここまでの距離でしかも私に触れながら見られることなんて今まで1度も経験したことがない。いや、もしかしたらサージルが言う2回もこうだったんだろうか……

 サージルは魔力量もコントロールも完璧らしいけれど、暗示魔法とやらは私の容姿をここまで直視しても効き続けるものなんだろうか……

 

「ユア、僕は最初こそ未知の妖精の魔法に興味を持って君に近付いた。確かに初めてユアを見た時は顔をしかめたし、酷いことも言ったよ。だけどユアはそんな僕をただ笑い飛ばした。正直ビックリしたし、同時に強いんだなって思った。それに話してみればちょっと卑屈なところもあるけど素直だし、頭もよく回るから話をしていて飽きないし、それに僕の話をきちんと聞いててくれる。最初に話したことが忘れられちゃうって分かった時は悲しかったけど、それだってちょっと話すだけで思い出してもくれる。それにユアはちゃんと家族や他人を思いやれる心も持ってる。こんな生活させられてたらもっと性格が歪んでてもおかしくないのに」

 

 一気に話したサージルは私を射貫くように見つめる。

 そう、こんなことが前にもあったはず。それに対して私は答えることができなかった。逃げてしまったし、前回は倒れてしまった。でも多分、今回は私を逃がす気も妖精に邪魔をさせる気もサージルにはない。

 

「で、でも、私はこんな見た目だし、サージルには……」

 

 先に言われることを封じようと口ごもりながら後ろへと下がろうとするのを捕まえられた手が許してはくれない。

 

「ユア、僕は今ユアの見た目の話をした?」

 

「最初は……って……」

 

「あー、まぁそうだけど。僕が好ましいって思うのは見た目は関係ないってことだよ。でも、そうだね、確かに僕はユアの見た目にも惹かれてるよ」

 

 サージルは手を掴んでいるのと反対の手で私の頬をそっと撫でる。そんな感覚は本当に初めてで体がびくりとする。でも、全然嫌だとは思えない。泣きたいような感情すら湧いてくる。心臓は痛いくらいに早くなって今にも口から飛び出してきてしまいそうだ。

 

「な、に言ってるの。やっぱり、からかってるんでしょう?」

 

 やっとのことで声を振り絞る。こんなに近くでサージルに顔を見られたくない。今までずっと顔を合わせてきたから今さらかもしれないけど、それでもサージルに醜いとか酷い顔だって次に言われたら私はそれだけで立ち直れなくなる。初対面の時のようにもう笑えない。

 

「ここ、僕の結界の中。つまり僕の領域内。そんな場所で妖精のまやかしなんていつまでも許しておくわけないだろ。今のユアは本当の姿のユアなんだ。ユアは信じないかもしれないけど、本当に天使なんじゃないかってくらいに可愛いんだよ」

 

「ほ、んとうの姿?」

 

 声が震えるし、頭もくらくらしてきた。サージルの声がだんだん甘さを含んで、色気すら出してきて、私は考えが何も纏まらなくなる。

 

「そう。本当のユアの姿。目は緑でくりっとしてて、睫毛だって長いんだよ? 綺麗な鼻筋で可愛らしいピンクの唇。肌だって陶器みたいに綺麗で皺もシミも1つもない。うっすら頬がピンクなのがとっても愛らしい」

 

 サージルの温かい指が1つずつ壊れ物を扱うように優しく触れてくる。確かにサージルの指はいつも私が見ているのと違う顔の輪郭をなぞっていて混乱する。それじゃ、今まで私が感じて見ていたものはなんなのだろう……

 

「ユア、僕はユアを妖精になんてやりたくないんだ」

 

 サージルの声が急に切なく響く。本当にそう思ってくれている。それが分かって私の胸もぎゅうっと締め付けられたかのように感じる。

 

「サージル……」

 

「ユアにしてみれば急な話に聞こえると思う。僕はそれとなくずっと言い続けてきたけど、きっとそれはユアからは消えてるから。ユア、妖精の世界じゃなくて、僕を、この世界を選んで。きっと楽しいことだけじゃないけど、それでもこの世界にはユアを大切に思ってる人達がいるから。だから、ユアが心からこの世界に居たいってそう思って」

 

 懇願されている。サージルは今にも泣き出してしまいそうな顔になっていた。

 

「……そうすれば、私はずっとここにいられるの? あ、でもそしたら私はずっと妖精のまやかしを被ったまま?」

 

 それは嫌だと思ってしまう。サージルが言ったように本当の姿が別にあったとしても、サージルの作った結界の中にずっといることはできない。妖精のまやかしを被っている限り他の人達に辛い思いをさせてしまうなら、私は……

 

「そんなことはない。ユアの呪いを解く方法は分かってるんだ。でも、それはユア自身にここに居たいっていう強い気持ちが必要だし、何よりユアが誰かに恋をしなきゃいけないんだ。僕はユアが恋をする相手は僕じゃなきゃ嫌だって思ってる。僕はユアが好きだから、そんな立場誰にも譲りたくないって思ってる」

 

 サージルの声が強く響く。私の心の中にある蓋みたいなものが動いた気がした。

 そう、きっと実際に動いたのかもしれない。

 サージルは知り合ってから1週間と開けずに来てくれている。そして、色々な話をした。私から色々なことを聞くことが解決に繋がるかもしれないからと言って。でも、時にはサージルの魔法についての話をただ聞くことも多かった。

 そんなサージルに私は何も感じてこなかった訳じゃない。その度に少しずつ惹かれていくのは当然だとも思える。でも、私は自分でその気持ちに蓋をした。こんな容姿の私がそんな風に想ってはいけないと。それはきっと妖精にとっても都合が良かったはず。

 

 いつもサージルに会ってときめいて、部屋へ戻って鏡を見て絶望して、そしてその気持ちを消されて……またサージルに会えば同じことを繰り返す。記憶が消えてしまっても、私の心の疲弊は消えていなかったんだと思う。

 どんどんこの世界から消えてしまいたいって思ってしまっていたから……

 

「サージル……私もサージルが……好き、よ」

 

 言ってしまってから強い後悔に襲われる。もしかしたらずっとからかわれてて、『本気にしたのか、化け物』と罵られてしまう錯覚さえ覚えて、私は震えてしまう。

 

「ユア、気をしっかり持って。妖精はユアを連れていくためにありとあらゆる妨害をしてくるから。この結界も厳重にしてあるけど、完全に妨害を防げる訳じゃないんだ。もし、何か負のことを今思ってるならそれは妖精がユアに見せてる幻だ。ユア、何度も言うよ。僕はユアが好きだ。何よりもユアの心が欲しいって思ってる」

 

「サージル……」

 

 私がゆっくりと顔を上げると、サージルの心配そうなのに、私を離すまいとする執着のような光を持つ目にぶつかる。

 

「やっと僕の目を見てくれたね。ユア、僕を信じてくれる? 今から何があっても僕の声だけを聞いて、僕から目を逸らしちゃだめだよ? この世界に僕と居たいってそれだけ考えてて。結界を解くから」

 

「待って! そんなことしたら、私は……」

 

 また醜い姿になってしまう。恐れる私を安心させるようにサージルが私の頬を撫でる。

 

「大丈夫。僕はユアが欲しいから」

 

 何が大丈夫なのか分からない。説明になってもいない言葉が終わると同時にサージルが結界を解除する呪文を紡ぐ。

 この距離であの姿をサージルに見られたくなくて、私は泣きそうになりながら顔を背けようとしたけれど、サージルの手がいつの間にか私の両頬を挟んでいてそれを許してはくれない。

 結界が消えると急に辺りが煩くなった気がする。けれど、真っ直ぐにサージルに見られていて私はそれどころじゃない。今、私はどんなに醜い姿をサージルに晒しているんだろう。具合を悪くするほどの醜悪な姿をそんな目で見ないで……

 不意にサージルの顔が私に近付いて、そして、サージルの息遣いを、温もりを、唇の柔らかさを、私の唇が感じた。

 何も考えられないくらいに頭が一瞬で真っ白になる。サージルに触れているところからするすると何かがほどけて溶けていくような……

 

 どれくらいそうしていたのか、私には全く分からなかった。時間が止まってしまって永遠だったようにも、一瞬だったようにも感じる。

 

 サージルがゆっくりと離れていくのを私は呆然と見ていた。サージルはそんな私を見て顔をくしゃりと歪め、私を引き寄せて腕の中へ閉じ込めた。

 

「あぁ、ユア! 成功したよ。もう呪いなんて無くなった!」

 

 サージルはそう言って私をぎゅうっと抱き締める。

 そう言われても私に何が起きたのか理解が追い付かない。

 

「あーア。あとチョットだったのにナ~!」

 

 唐突に聞き慣れない甲高い声が響いて体がびくりとする。

 恐る恐る声の方を見るとそこには別邸から出られないはずのベスがいた。でも、さっきの声も話し方も今までのベスとはまるで違う。

 

「べ、ベス? こっちには来れなかったんじゃ……」

 

「そんなコトないサ! ソレくらいの条件がついてるって思ってた方が面白いダロ!」

 

 声はベスから聞こえる気がするのに、そのベスの口は動かない上に体が不自然にしぼんでいく。私は怖くなってサージルにすがり付いていた。

 すっかりベスがしぼむとそこには背中に羽を生やした小さな何かがいた。それは可愛らしいのにどこか凶悪な笑みを浮かべていて、そのアンバランスさが不気味だった。

 

「正体を現したか、妖精」

 

「くけっ! なーにが正体を現したか! だよ。笑わせんナヨー。まぁ、オマエはニンゲンのクセに楽しませてくれたから許してヤルヨ。ユアはモッタイナイけどナ~。でも、オイラが今までシテタコトやめたらコノ家どうなっちゃうかミモノだよナ! ソノトキまたヨンデくれよ! あ、ソノトキはユアじゃなくてそのコドモ、だからナ~。ニンゲンのテアカついたヤツなんかカチないからサ~。それじゃユアまたナ~」

 

 妖精は一方的にそう捲し立てるとゲラゲラという笑い声を残して消えてしまった。

 

 私は体が冷たくなっていくのを止められない。私が元に戻りたいなんて思ってしまったから、この家は妖精の恩恵に与れなくなる。どうして私はそんな簡単なことを考えられなくなっていたんだろう。家に、家族に迷惑をかけてしまうことに今さら恐怖が湧き上がる。

 

「ユア、心配はいらないから。僕をなんだと思ってるの?」

 

 サージルは私に不敵に微笑みかけてくる。けれど私から恐怖は拭えない。私は自分の子を犠牲に家を救って欲しいとあの妖精に願うことになってしまうのだろうか……

 

「……うん、思ってた通りあの妖精は自分の世界に帰ったね。これでこの家にもう妖精の魔法の残滓は無くなった。ユア、見てて」

 

 私は相変わらずサージルの腕の中に囲われたまま震えていた。何を、と問う前にサージルが何かの呪文を唱え始める。

 そうして難解な呪文が終わると同時にサージルは片腕を前に伸ばした。そうしてその伸ばされた先から魔法陣が展開していき、そしてガチャンと大きな音を残して消えた。

 

 私はそれを息をつめてただ見ていた。

 

「……何をしたの?」

 

 私がサージルを見上げて問うと不敵な笑みを返される。

 

「ユア、僕はこれでも歴史上の誰よりも魔力を持ってるって言われてるんだ。少し構築に時間がかかっちゃったけど妖精の世界とこっちの世界の間に開いた穴を塞いでカギをかけるくらいはできるんだよ? これでもう妖精なんかにちょっかいは出させない」

 

「え?」

 

 妖精の世界とこっちの世界に開いた穴を塞ぐ? カギをかける?

 

「あの妖精は焼き殺してしまえばよかったと思うくらいには嫌いだけど、魔法は興味深かったから色々研究させてもらったし、何よりユアと出会えたから、少しは感謝してやらなくもないけど……だけどやっぱりユアを苦しめたから無傷で帰すんじゃなかったな」

 

「え?」

 

「ユア、あの妖精が言ったことなんて気にしなくて平気だよ。伯爵はちゃんと優秀だから、自分の力でちゃんと今の地位を確立させてる。僕はここに招かれるよりもずっと前から伯爵にこの家の呪いを解いてほしいって依頼されてて、手始めに妖精の力が無くなると、本当に繁栄を失っていくのか少しずつ妖精にバレないように影響を減らしてみてたんだ。結果として、今は何の影響も出てないよ。確かに妖精の魔法があるからいい話が舞い込んで来やすかったけど、それをちゃんと活かしてきたのは歴代の伯爵達だったってこと。それにね、人脈や信頼性って魔法じゃ作れないのは妖精も同じだったみたいで、今のところどこからもこの伯爵家はそっぽなんて向かれてない。つまり、そこまで繁栄を約束したものじゃなかったってことだね。つまりユアの家系は本当に優秀だったんだよ」

 

「え?」

 

 立て続けに話し続けるサージルの言葉についていけない。

 そういえばサージルは魔法のことについて語り始めるとこれくらい勢いよく生き生きと話し続けていたことを思い出す。けれど、今はその時よりも情報がはるかに多すぎて頭はパンク寸前になってきていた。

 

「ユア! 無事かっ!」

 

 図書室の扉が勢いよく開いてお父様が飛び込んできた。そして、私を見つけると顔がどんどんくしゃくしゃになって涙を流しながらサージルから私を奪うように抱き締められた。

 

「ああ! ユア! やっと、やっと取り戻せた……」

 

 お父様に遅れてお母様、そして、ヨキルとソニアもやってきて私は4人に代わる代わる抱き締められた。サージルはそれを少し離れたところで笑顔で見守ってくれていた。

 

 

 

 

 

 あれから数ヶ月で私はすっかりと本邸に馴染んでいた。本邸とはいうけれど、不思議なことに私の呪いが解けると私が住んでいた別邸は消えて代わりに大きな池ができたのだ。

 

 サージルが言うには、妖精の世界は人の世界よりも濃い魔力濃度があって、普通の人が行くとその濃度に耐えられず長くは生きられないそうだ。

  

 別邸はこちら側と妖精の世界との狭間になっていて、私は幼少期からそこに住むことによって人の世界よりも魔力濃度の濃い場所にいたことになる。今まではそうやって少しずつ体をあちら側に慣らすための期間で、同時に少しずつこの世界に絶望する時間でもあった。

 

 家族とゆっくりと過ごす時間は私の知らないことや勘違いも多くて驚くばかりだった。

 

 まずは私の容姿。私は別邸にたくさんあった鏡で私の容姿はあの醜いものだ、と植え付けられていたけれど、本邸にいる間は少しずつ元の容姿に戻っていたそうなのだ。しかし家族はそれを私に伝えることが妖精魔法で禁じられていた。そして、別邸へ戻れば私はあの姿になる。本邸に私を留めおこうとしてもいつの間にか私は別邸へ戻っていたそうだ。

 

 届きそうで届かない。伝えたいのに伝えられない。

 そうしているうちに私は少しずつ疎外感を受ける。戻ればベスに遠回しに家族は私を疎んでいるような話をされる。

 

 ベスは他にも家族からの連絡や手紙をわざと私に教えたり教えなかったりと調整もしていた。あの日のパーティーのことも家族は私に手紙でも知らせていたという。私は受け取っていない。

 

 

「ね、ユア。聞けば聞くほど残酷だろう?」

 

 サージルと向かい合ってお茶を飲む。サージルとはよく会っていたけれど、こうやってゆっくりとお茶を飲みながら話したことは今までなかった。

 

「……そうね。信じられない気持ちもまだあるけれど、戻ってみたら私は本当に大事にされてるって感じるから、残酷だったのかも」

 

 気付かずに奪われたものはどれ程あったのか、そして私はそれをどれだけ欲しいと感じていたのか思いしるたびに悔しく思う。

 

「で、返事はいつ貰えるんだろう?」

 

「返事?」

 

 サージルはよくこうやって急な話題変換をする。私はよく分からずに首を傾げてしまった。

 

「一応プロポーズしたつもりでいるんだけど。僕はユアが欲しい」

 

 飾りも何もないかなり直接的な言葉に私は顔に熱が集まるのを自覚する。

 

「そ、それは……」

 

「そんなに赤くなってくれるから僕はすっかり気を良くしちゃうってユアは気付いた方がいいよ。ユアは僕のその言葉をちょっと疑ってるでしょ」

 

「だ、だって……私、サージルに好かれることなんてないと思ってたから……からかわれてるのかなって……未だに思ってて……」

 

 ぼそぼそと言い訳をするとサージルが私の隣へと座る場所を変えてきた。その近い距離に私はサージルの方を見ることができない。

 

「はぁ。呪いは解けたからユアが僕を好きでいてくれてるってのは僕に既に伝わってるんだよ? 僕がユアを好きでユアが僕を好きでいてくれなきゃあの方法で呪いを解くことなんてそもそもできてないんだから。僕はあの呪われてた姿のユアにキスできるくらいにユアのこと大好きなんだけど?」

 

 そう。サージルはあの醜い私に躊躇いもなくあの時口付けてくれた。それは呪いを解くためにサージルの魔力を私に渡す必要があったからなのだけど……思い出すと気恥ずかしくなってしまう。そもそもあの時の姿は見られたものじゃなかったのだから……

 

「ね? ユア、何も僕のところに来たら家族に会えなくなる訳じゃないよ。いつでも家族に会いに行っていいし、招いてもらって構わない。ユアの家族からユアをとりたい訳じゃなくてユアの家族の1人に僕も入れて?」


 甘さを含んだ声で優しく請われると頷いてしまいたくなる。今は失われていた家族との時間を取り戻しているところだから、何かを考える時に必ず先に家族を思い浮かべてしまうのをサージルはよく分かっている。

 

「サージル、そんな言い方ずるい」

 

「妖精からユアを掠めとるくらいには僕はずるいから、ユアが頷いてくれるまでいくらでもずるくなるよ」

 

 サージルは優しく私の髪を一房手に取ってわざとちゅっと音を立てて口付ける。もうこっちは余裕が無いのに勘弁してほしい。

 

「サージル、近いっ!」

 

「真っ赤になって言われると、もっとしたくなるんだけど? それに、伯爵からは節度を守ってくれるなら口説くのはいいって言われてるんだ。勿論結婚の許可もね。ただし、ユアがその気にならなきゃ駄目とは言われてるけど」

 

「うぅ」

 

 お父様は私を元に戻してくれたサージルなら安心して任せられると言っていた。でも、さっさと決断されると寂しいとも言われたけれど……

 

 不意にサージルの顔が真剣なものになる。

 

「ユア、僕のところに嫁いできて?」

 

 サージルの目の奥に切ない揺らめきを見つけてしまって私は陥落してしまった。

 

「……は、い」

 

 小さな声で答えるとサージルの顔がパァっと輝くような笑顔になる。

 

「ユア! ありがとう! そうと決まったら伯爵に報告に行かなきゃ」

 

 すっとサージルが私の手を取って立ち上がる。

 

「え? 今?」

 

「そうだよ。だって伯爵は婚約期間は最低でも半年って譲らないからさ。1日でも早くしないと」

 

 いたずらっぽく笑いかけるサージルに私は呆れるような嬉しいような気持ちになってくる。


 けれど、あの姿の私にも普通に接してくれたサージルとなら幸せになれる確信があった。

 

 

 お父様に泣き笑いしながら、やだとか良かったなと矛盾したことを言われながら祝福されて、家族もそこに加わって賑やかになるのはこのすぐあと。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん、童話の妖精ってこんな性格だよな
[気になる点] お祖父様の妹さんや、ルア様は向こうで幸せなのかしら? [一言] 童話のようなお話でステキでした。妖精コワイ…。 私も何故クリカッタ家が目を付けられたのか、きっかけが知りたいです。 …
[良い点] 絵本のような世界観に癒されました〜(^^) 主人公の見てる世界と周りの見てる世界の認識が異なる所が面白かったです! 妖精の無邪気な残酷さに怖々((((;゜Д゜))))))) もし機会があれ…
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