世界で一番幸福な朝
窓に引かれたカーテンの隙間から、真っ白な朝日が差し込んでくる。
ユージンはその眩しさに顔をしかめ、眠りから覚めた。
しばらくぼんやりしていたが、昨夜のことが急速に蘇り、素早く腕の中を確認した。
ほっと安堵の息を漏らす。
そこでは、ともにめくるめく夜を過ごした、彼の愛しい人がすやすやと寝息を立てていた。
昨晩かなり無理をさせたせいか、目元が赤くなり、涙の痕が頬に残っている。掛布の下の白い身体には、ユージンの独占欲の証が無数に散っていた。
「……んん」
イリーシャが小さく呻き、ユージンに体をすり寄せる。しばたくもぞもぞ動いていたが、ぴったりと彼に抱きつくと、安心したように淡く微笑んだ。
ユージンは愛おしさに胸が締め付けられるのを感じた。起こさないように慎重につむじにキスを落とす。花のような香りがして、またユージンの頭をくらくらさせた。
ひとしきり幸福を噛みしめていると、そういえば、とそもそもこうなった原因を思い出す。彼にとってはさして重みのあることではなかったから完全に意識の外にあった。
手のひらで首元をさする。ずっと感じていた、呪いによる苦痛が綺麗に消えていた。
そっと身を起こし、壁に掛けられた鏡に自分の姿を映す。首からは、長年彼を縛めていた呪紋が跡形もなく拭い去られていた。
「……は」
口元を手で覆い、昏い笑みを噛み殺す。鏡の中の男は、世界で一番幸福だった。




