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愛しているから

「離縁、ですか……」


 自分が呆けたような声を出したことに気づいて、ルファスはパッと口を片手で押さえた。それくらい、ユージンの答えは衝撃だった。


 ユージンは気だるげに脚を組み替え、長椅子の背にもたれかかった。ひらひらと手を振り、


「そうだ。俺はイルに離縁を言いつけた。結婚契約書も破棄されている。もはや彼女とは他人なのでね、どれほど権力を振りかざして引き渡せと言われても不可能だ」

「イリーシャさまは、どこへ……?」

「さあ? 俺の知ったことではない。ただ先の舞踏会ではマリアンヌ嬢と仲良くなっていたようだからな。頼るとしたら彼女じゃないか」


 その名を耳にして、ルファスは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。第一王子の婚約者。すなわち未来の王妃候補だ。そこに身柄を預けたとしたら、おそらく第一王子の息もかかっているのだろう。ユージンがイリーシャと離縁した以上、神殿の正当性は削がれている。これ以上、何の策もなしに揉め事を起こすには、分の悪い相手だった。


 ルファスはぎり、と歯噛みした。ユージンを険しく睨みつける。


 彼はまったく堪えていないようだった。涼しい顔をしてグラスを取り上げ、鮮やかな赤色のワインを飲んでいる。どこから見ても平穏な、くつろいだ気色だった。


「……あれほど執着していたのに、なぜそのような真似ができるのです」


 ルファスは狼狽を押し隠し、吐き捨てるように言葉をぶつけた。


 ユージンには微塵も動揺したところが見られない。逆にそれが恐ろしかった。嵐が来る前の、妙に凪いだ海のようで。


 ルファスはいくらかでもこの男の余裕に罅を入れたくて、懸命に言い募った。


「手放したのなら、きっともうイリーシャさまはあなたの手元に戻ってこない。あなたの目の届かないところで新しい人と出会い、別の人生を歩むでしょう。そのうちにあなたは死に、イリーシャさまはほんの少しだけ感傷的になり、時間が経てば忘れ去る。それに耐えられるのですか? また無理やり彼女を娶っても、神殿はあなたの婚姻を受理しませんよ」


 彼の描いた悲惨な未来予想図にも、ユージンは肩をすくめるだけだった。ちら、と唇の端に笑みがかすめる。


 ユージンは全てを理解した様子で落ち着き払い、当たり前のように言い切った。


「そんなの決まっているだろう? イルを愛しているからだよ」

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