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奪還

 部屋の中をゆっくりと見渡し、ユージンはおおよそ事情を把握したようだった。こぼれた茶、長椅子に寝そべるイリーシャ、そのそばに寄り添うルファス。


 こつり、と革靴の踵で床を叩き、ユージンはルファスを見下ろす。その首を一巡りする呪紋が、いつもより禍々しく映っていた。


「我が妻を返してもらおうか」


 淡々と、けれど危険な目つきで言う。さきほどまで居心地の良かった部屋の温度が、急に下がったようだった。


 ルファスが音もなく立ち上がる。慈愛に満ちた微笑を浮かべ、


「イリーシャさまは、神殿に救いを求めにいらしたのですよ。あなたと離縁するために。お引き取りください」

「そうか、知らんな」


 ユージンはルファスに一瞥をくれることもなく、長椅子のそばに跪いた。眉間にシワを寄せてイリーシャの顔を検分する。


「俺には、体調を崩した我が妻が、偶然神殿に運び込まれたように見える。介抱に感謝する。彼女は俺が連れて帰ろう」


 ユージンがイリーシャの背中と膝裏に手を滑らせ、ふわりと抱き上げる。そのまま迷いなく、部屋の入り口へ向かった。


「お待ちなさい! イリーシャさまを神殿に渡せば、あなたの呪いを解くとお約束しましょう。だから、彼女を置いていけ!」


 彼の背中にルファスの声が追いすがる。だが、ユージンは首だけ振り返ると、冷然と言い放った。


「……それで?」


 ユージンの腕の中、イリーシャの喉がヒュッと鳴る。それはその場に額づいてしまいそうなほど恐ろしい声だった。


 ルファスの足が止まる。ユージンはそのまま、誰にも止められることなく、神殿をあとにした。


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