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『普通が一番』なんて笑う人が多くいるけど、一体何を基準とした『普通』を指しているんだろう。
千篇一律?異口同音?個性なんて押し殺した、量産型の生き方?
…何が面白いんだろう。男尊女卑も軽減された現代…『十人十色』の方がずっと有意義だと思うのに。
なんて愚痴を零せば、フェンス越しに校庭を見下ろした隣の男は「まあ確かにな」と小さく息を吐いた。
「この国は『昔ながら』を重視するからな。それが良い方に転ぶ事もあれば、『新しさ』を求める人間を縛り付ける事もある」
「結局悪い方向じゃん。…変なの、いつまでも過去に囚われたままなんて」
「知らねえよ。崩壊しつつある現状を認めたくないんだろ」
「なら尚更新しい体制に入れば良いのに。…おかしいと思わないのかな。勝手な拘りが自分の首を絞めてるの」
「…」
黙り込んだ私達を、強くも優しくもない六月の日差しが小馬鹿にするように空で笑う。
無言でフェンスから手を離した男は、私の隣に腰を下ろすと…ふと「…お前、それ誰に言ってんの?」と随所に雲の残る青を仰いだ。
「何、この国に決まってんじゃん」
「嘘つけ、お前自身にも重ねてた節あるだろ」
「…そんな事言ったら燕にも当てはまるじゃん」
「ハッ、逃げは良くねえぞ」
薄く笑った男の言葉にむうと頬を膨らませると、「燕のバカ」と彼から身を離すように立ち上がる。
「つれねえな。…一応付き合ってるってのによ」
寂しげに紡がれた隣の言葉には、聞こえないフリをして。
横山綾架と夏咲燕、私達は付き合っている。
アセクシャルとトランスジェンダー…社会に認められないからと互いの傷を舐め合う、都合の良い間柄として。