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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

流星湯切りオンライン

生タピオカとJC

作者: nullpovendman

「生タピオカひとつ、『()』でお願いしまーす!」

 一人のJCが注文した。

 タピオカ屋には似合わない、強面の中年店主が訝しむように、しかしどこか納得した表情で注文を繰り返す。

「生タピオカひとつ、『()』ですね? 本当にいいんですね?」

 JCの表情は晴れやかだ。

「もちろんです! この日のためにダイエットもしてきたんですよ?」

「お客さん、初めてですよね? 知っているかもしれませんが、『中』で何が起きてもうちは責任はとりませんよ?」

「はい! もちろんです!」

 店主はふむ、と頷くと、首を振って、顎で中に入るように指示を出した。

 JCはそれはそれは生タピオカを楽しみにしているようだ。鼻歌を歌いながら、「中」に続く666段の階段を下りて行った。


 JCの姿が見えなくなると、店主は「中」の店員に連絡すべく、マイクの電源を入れた。

「ブラボーから『中』全員へ告ぐ。ブラボーから『中』全員へ告ぐ。お前ら、久々の『中』の客だ! 気合入れて行けよ! オーバー!」



 **********


 666段の階段の先に出たJCは、『中』の広さに感心していた。

「ひっろーい! さすが生タピオカの聖地だ!」

 目の前に広がるのは、テニスコート程度の闘技場である。

 中央に白いテーブル、そしてパイプ椅子が二つある。その手前には体中に刀傷や銃創、ねじ傷、火傷などがある、どう見ても堅気ではない風貌の中年男性が4人立っている。

 一番左にいる鉢巻をした大柄な男性が最後のチャンスだ、といった表情で声をかけてくる。

「ここから先は何が起きても自己責任ですぜい? 引き返すなら今のうちですぜい?」

「いいんですよ、わたし、早く生タピオカに会いたいです!」

 鉢巻の男性はしぶしぶといった表情で他の3人に指示を出し、奥の鉄格子を開けていく。

 鉄格子を開け終わった4人は、急いでその場から退散した。


 しばらくすると、鉄格子の奥から、3メートルほどの黒っぽい球体がゆっくりと姿をあらわす。

 JCは動きやすいように鞄と上着を隅に置くと、臨戦態勢を整える。

 黒っぽい球体は開いた鉄格子を抜け、闘技場のテーブルの奥までやってきた。やがて二本の鎌状の突起物を2メートル程の高さで生成すると、コオオオオオオ、と呼吸するかのような音を立てつつ、強い殺気を放つ。


「螳螂拳ですね! その高さから鎌を振り下ろされると、さすがに当たると死にますね!」

 人間でもないのに螳螂拳も何もあったものではない。

 JCはパイプ椅子をつかみ、生タピオカに近づいていく。振り下ろされる2本の鎌をパイプ椅子でさばきつつ、ローキックを決める。

 めしゃり、と弾力がありそうな体に似合わない音を立てて、生タピオカの下腹部が大きくゆがむ。

 生タピオカが苦しげな声をあげつつ右の鎌を大きく振り上げ、JCめがけて振り下ろした。

 JCはパイプ椅子で防ごうとしたようだが、思い直してパイプ椅子を放り投げ、大きく後ろに跳躍した。この時、いつでも反撃ができるように両手の構えを忘れない。初手はパイプ椅子に頼ったものの、JCはもともと拳法家である。

 鎌に当たったパイプ椅子は、音を立ててひしゃげるかと思いきや、ひゅん、と降りぬかれた鎌によって、あっさりと二つに切断された。これこそが生タピオカの螳螂拳の威力である。人間でもないのに螳螂拳も何もあったものではないのだが。

 右の鎌が大きく振りぬかれ、やや態勢が崩れたところで再び近づき、貫手を放つJC。

 右の鎌の根元に貫手が深く突き刺さり、引き抜いたと同時にミルクティーが噴出する!

 左の鎌の動きに気を付けつつ、JCは肘、裏拳、ミドルキックからのハイキックと攻撃の手を緩めない。ふらついた生タピオカからはさらにミルクティーが噴出する!

 JCは大きく前に跳躍した。右の鎌に抱きついたJCは、生タピオカの腹部に両足を乗せ、体重をかけて踏ん張った。みちみちと音を立てていた右の鎌であるが、やがて根元から裂けてしまう。

 さらに噴出するミルクティー! 驚くほど濃厚!

 ごあああああ、と大きな声をあげ、失いかけた意識を取り戻した生タピオカは、残った左の鎌を使っての反撃を試みる。左のアンダースロー投法を思わせるように体を低くかがめ、左の鎌をJCに向けて大きく下から跳ね上げる! みたか人類、これが3メートル級の体格から放たれるサブマリンだ!

 しかし、JCは一歩右にずれただけでこれを回避した。左の鎌の中央部に手刀を叩き込む。

 JCは毎日の鍛錬で、この手刀を磨いてきた。その切れ味はもはや鋼鉄製のナイフといっても過言ではない。無論、生タピオカの左の鎌は為すすべもなく中央から切断される。

 生タピオカの鎌からどんどん噴き出すミルクティー! これでほぼ無力化に成功した! 

 左右それぞれからどんどんミルクティーを噴出する生タピオカは、怒り狂ったように体をよじるものの、2メートル程の高さにある、左の鎌の付け根部分しか残っていないため、脅威はほとんどない。

 JCは切り落とした左の鎌を拾い、暴れまわる生タピオカに近づいた。タイミングを見計らい、飛び掛かって兜割の如く鎌を振り下ろす。

「ほあちょおおおおおおおおおお」


 生タピオカはこれまでの人生を振り返っていた。生タピオカだけに生タピオカ生とでも表現すべきだろうか。生まれた時には小さかった生タピオカであるが、見世物として戦わされ、何度も死地を経験してきた。最近は体も大きくなり、逆に人間を捕食する存在として、君臨するようになった。「中」に来る人間も少なくなり、少々退屈を覚えていた。確かに生タピオカは人間を食うことができるようになった。だが、本来は人間に食われる、弱い生き物だったはずだ。人間に食われていった両親! 兄弟達! ああ! 懐かしい顔ぶれがすぐそこに見える!

 やがて生タピオカの無限に思われた回想も終わりを迎える。生タピオカに残された唯一の攻撃手段である、鎌の付け根が切り落とされた瞬間である。

 ぶるんぶるん、と生タピオカはミルクティーを噴出しながら悶える。

 やがて生タピオカは倒れてしまう。もはや闘技場はミルクティーまみれである。

「では、いただきます!」

 JCは全身ミルクティーまみれになりつつも、生タピオカに馬乗りになり、ミルクティーの噴出部分に噛り付く。



 **********


 やがて生タピオカを頭からつま先まで堪能したJCは、鞄からタオルと着替えを取り出した。

 着替えが完了し、店主達に感想を述べて帰路に就くJC。

「ごちそうさまでした。おいしかったです!」

 命のやり取りをした生タピオカに感謝を忘れることはない。


 生タピオカと人間、食うか食われるかの死闘は、今日もどこかで繰り広げられている。


 終

 ※この物語はフィクションです。実在の人物や組織とは関係ありません。


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― 新着の感想 ―
[良い点] タピオカドリンクがこんなに命の戦いの末に飲めるものだとは思いませんでした。 手軽飲めるほうは「小」ということで養殖されたものなのでしょうか。 「中」を飲むためには武道の嗜みが必要そうですね…
2019/10/20 19:01 退会済み
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