漫才【ペット】
ボケ=A(エー/小太り)
ツッコミ=B(ビー/細身)
A/B「よろしくお願いしますー」
A「あのさぁ、ごめんね、すごい……事後報告になっちゃうんだけど」
B「何よ改まって。怖いな」
A「私この度、ペットを飼おうと思いまして……」
B「ペット? 何だ、そんなこと? ってことはもう買ったの?」
A「ペットショップに見に行こうと思った次第です」
B「事前に報告ありがとうね」
A「よろしい、でしょうか?」
B「よろしいも何も別に一緒に住んでる訳じゃないんだから、好きにしたら?」
A「いやでもビーくんよくうち来るから、アレルギーとか平気かなって」
B「あ、そこまで考えて? 大丈夫よ金輪際お前の家行かなきゃいいだけだし」
A「ええっ! かわいい猫ちゃんとか、ワンちゃんくるかもしれないのに」
B「さっき言ってたけど僕アレルギーなんですよ。でもエーくん飼いたいんでしょ? だったら飼ったらいいじゃない、僕のこと気にしなくていいから」
A「ずるいよね(石を蹴る)」 B「えっと、何がですか?」
A「そう言えばアタシがビーくん選ぶって、知ってる癖に」
B「エーくん……、反吐が出るよ」
A「まず第一段階『相方の許しを得る』クリア。しゃっ、よっしゃハイスコア!」
B「おめでとうございまーす(棒)」
A「次、え何何、『飼育できる環境が整っている?』何言ってんだこいつ」
B「お前誰がそれ書いたんだよ」
B「要はペット可な物件かとか、部屋は清潔かとかそういうことでしょ」
A「なんだそんなこと? うちはペットOKだし部屋も綺麗ですよ。ね?」
B「いや、前者はともかく後者は……お世辞でもお前んち汚えじゃん」
A「お世辞はどこ? そうか~? ま、じゃあそこは掃除するとして……う~ん」
B「ほんとに大丈夫? 何かすっごい心配なんだけど」
A「へぇきだってマジで! 超綺麗にしてビーくんマジ驚かせっからっしょ!」
B「チャラ男のそれ。だめだ口出す気なかったけど、やっぱ心配だわ」
A「本当心配性なんだもんなー、俺なら大丈夫だって」
B「お前じゃねえよペット! お前に飼われるかもしれない哀れなペット!」
A「ええ(困惑)」
B「大体お前しつけとか世話とかちゃんと出来んの?」
A「ウー、ワンワン!(じゃれつくようにBの足を掴む)」
B「やらねえよ!? やるにしても俺が、犬役だろうが、離れろ」
A「ちょっと待って何でビーくんがそんなしつけとか世話とか言うの? 畜生の所有権は買った人間にある! モノをどう扱おうと他人からとやかく言われる筋合いはないわァッ!」
B「奴隷商人かお前」
A「確かに、言われてみると覚悟が足りなかったかもしれない」
B「そうよ、ただ可愛いだけじゃないのよ。病気になったり、年も取るんだから」
A「ビーくんあれだね、アレルギーなのに、えらく詳しいというか」
B「実家の方でね、今飼ってますから。あれ、言ったことなかったっけ?」
A「ああ~、確か、ミチコとかいう?(上目遣い)」
B「ボケたよ、って顔をするな」
A「じゃちょっと教えてよ。新しい家族を迎えるにあたって必要なもの、何かある?」
B「いやそもそも何を飼いたいの? 僕が知ってるの犬くらいですけど」
A「カワウソ、かな」 B「川が要るよ」
A「ライオンなんて」 B「許可が要るよね」
A「やっぱ犬かなあ」 B「何かボケろよ」
B「まずやっぱケージだよね。トイレとかしつけには必要でしょう」
A「ふんふん、刑事、トイレ……と」
B「エサとかシートはまあ分かるでしょ……、あと散歩にリードはいるよね」
A「三歩のリード、と」
B「あと何だろ、あっ待てよ子犬ならエサよりミルクかな?」
A「刑事、トイレまで三歩リード。固形物ではなくミルクが出る、と」
B「耳にも脂肪詰まってんのか」
B「もうホント大丈夫? 留守番とかもさせなきゃいけないからね?」
A「あ、そうか、例えば今こうしている間にも――」
B「そうよ家で待ってるから飲みにも行けないし、夏は涼しくしといたり」
A「うわめんどくっせ」 B「ん?」
B「ごめん聞き間違いかもしれない今何て?」
A「飲みに行きたいし、クーラーつけっぱとかめんどくせぇし電気代かかるから、犬は飼わなくていいって言った、ん、だよッ」
B「……小さな命を一つ救ったと前向きに捉えよう」
A「猫どう? 散歩ないから楽だしエサはちゅ~るでもあげときゃいいっしょ?」
B「馬鹿なのかお前。もう止めとけ、犬猫とか哺乳類はお前無理だわ」
A「ええ~、じゃあ俺帰ってきたときに何を愛でたらいいのよ~」
B「ヘビとか爬虫類もダメだしな。……魚類とか?」
A「ぎょ! ぎょる、ぎょる、ギョルギョル!」
B「それさかな〇ンの真似してるなら0点だからね」
A「水槽洗うの大へ――クッソめんどい」
B「なんでより好感度が悪くなる言い方したんだよ」
A「しかもただいま~つっても口パクパクしてるだけでしょ?」
B「なんか熱帯魚飼ってる人に怒られそうだけど、まイメージはね」
B「あ、じゃあ昆虫とかどう? カブトとかかっこいいじゃん」
A「カブトムシ~? ……いいかも、エサはゼリーでいいもんね」
B「ただ夜行性だから夜ガサガサ言うし、ちゃちなカゴだと脱走するから気を付けてよ」
A「あるある。俺子どものころ夜中カーテンにくっついてたもん。却下で、あいつらにはナラクヌギの樹液すすって生きて行って欲しい」
B「飼えないね~」 A「そうね~なかなかね~」
B「おっと(音がしてスマホを取り出す)」
A「なになにちょっと! 漫才中ですよ」
B「『はいはいごめんねぇ~いまおやつあげまちゅからね~(小声)』」
A「はっ? ちょっとビーくん気持ち悪いですよ、なにしてんの?」
B「すいませんね……、ああこれ? エーくん電子ペットって知ってる?」
A「キャラクターの生首付きのお菓子なら」
B「それ森永ペッツだね」
A「たまごっちとかデジモン、みたいな」
B「そうそう。今そういうのスマホでもできんのよ。そうだ、ちょうどいいじゃんエーくんもやろうよ。今なら紹介で双方5000ジェム貰えるからお得――」
A「い、いやぁ俺は遠慮しとこうかな……」
B「いいからスマホ貸して僕が登録してあげるから(強引)」
A「わあ気持ち悪ッ! 目ぇ覚ませビーくん、そんなもん所詮データやぞ!」
B「5000ジェムあれば、もっと、もっといいエサが買える……!」
A「バカこのジェム廃人!」 B「痛っ!」
A「そんなニセモノの命育てて何が楽しいか、ビーくん。それこそ死んじゃっても『また次育てればいいや』ってなるでしょ。希薄だよ命の繋がりが。寂しいよ、それは……」
B「(スマホのゲーム画面を見せる)」
A「……だから! ――基本料金無料で今なら登録するだけでいち、1万ジェム……!? その上アバターや着せ替え衣装も豊富……だと……!? さらにオンライン交尾システム搭載により気になるあの子と異種間での――なんてこった……」
A「エーくん! 登録だ! 今すぐにッ!」
A/B「どうもありがとうございました」
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