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 再度の予想外の攻撃にヴェルニーナは、生まれ持った生真面目な性格と培った精神力すべてを動員して耐えた。精神と体を切り離し気を静めることに成功し、毅然とした態度を守り抜く。あまつさえ少年の手を握りつぶさずに、とっさにゆるく握り返せたのは称賛されてもよい。


 わ、わわ!

 手、やわらかい、ちっちゃい


 脳内の言語機能は、子供、というよりほぼ幼児並に退行していたが、決められた手順であったのが幸いして腕輪をはめることに成功した。


 あれはわざとからかってたりするのかしら


 ヴェルニーナのやたら早口な呪文を聞きながしながら、リズリーはじっと少年を観察する。どうも腑に落ちない少年の行動にそんな疑問が浮かんだが、それ以外に少年に変なところもなく、考えすぎかと思い直した。いずれにせよ腕輪ははめられ、売買契約は成立したので深入りしすぎるつもりもなかった。


 一方ヴェルニーナは、一仕事終えて少し落ち着いていた。そして自分の腕輪が嵌められた少年をみなおして、この少年を手に入れたという喜びとこれから先の期待に胸を膨らませていた。


 腕輪は「証明の腕輪」と呼ばれるもので、所有権の証明と位置情報を割り出す機能がついているものだ。逃走防止機能が付いた腕輪もあり、リズリーにはそちらを勧められたが、それらの腕輪は大なり小なり苦痛を与えるものであった。

 そうしたもののほうがむしろ一般的ではあったが、ヴェルニーナはそれでもって少年を縛るのはどうしても気が進まなかったので、もっとも制約がゆるい腕輪を選んだのだった。


 いずれにせよ自分の印はついていて他の者は手を出せないのだ。

 この少年は自分のものである、という証明でヴェルニーナは十分満足だった。


 しかし、この子は私を本当に受け入れてくれるのだろうか、ヴェルニーナは少年の手をやさしく握りながら不安を覚える。まだ成長途中の、男性にしてはちいさな手からは、緊張が伝わってくるけれど、少年は拒絶の気配も見せずに相変わらず大人しくされるがままだった。


 あたたかくてやわらかい感触と、静かにじっと見つめてくる少年の様子にヴェルニーナは少し勇気づけられた。異性に対して前向きな気持ちになるのは、本当に久しぶりのことだった。

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