後日談5 ◆
市場を一周して馬車に戻ってきた。その馬車は、ニーナとはじめて会ったときのものよりは少し天井が高くて広く、つながれている馬に角もついてなかった。
ニーナに手を引いて乗せてもらってから、僕と彼女の手はそのまま一緒につながれたままだ。彼女の手から熱がゆっくり流れ込んでくる。
ニーナは窓の外を眺めていた。馬車の窓から夕陽が差し込んできて、彼女の胸から上のあたりを照らしている。彼女の髪に柔らかい光が反射しているような、でも通りぬけているような。いつもは銀色に見える彼女の髪に、光の粉がまとわりついているようだった。彼女が少し微笑んでいることに気が付いて、僕はこっそり、その顔を盗むようにして見つめた。
僕はニーナに何をしてあげられるのだろう。
彼女の笑顔に見とれながら、僕はふと、そう考える。
初めて落ち着いて穏やかに、でもしっかり見たこちらの世界だったけれど、たくさんの人が生活していた。市場の露店では、僕と同じくらいにみえる子供が、手伝ったり、一人で働いたりしていた。大柄なこちらの人たちだから、もしかしたら僕より年下かもしれない。
馬車の窓に見える建物がゆっくりと流れていく。座っている椅子が固いせいか、車輪から伝わる振動をはっきりと感じる。車の中に響く音もあの日よりガタガタと大きく耳に入ってくる。
露店で見た青い石は、ニーナにとても似合いそうだった。ニーナに言えば買ってくれると思ったけれど、僕はそうしてほしいとは思わなかった。けれど、僕が自分で手に入れられるわけでもなかった。
こちらに初めて来たときは、なんだかずいぶん前のことであまり覚えてはいない。そのあとの、ニーナと一緒の暮らしは、毎日が夢をみているみたいにきらきらしてて、僕はいつもとても楽しい。
だけれども、いつもいる家の外のこちらの世界は、もっとずっと現実的に思えて……。 僕は、知っていたはずなのに、この世界に自分がいることにもう一度気が付いた。
その日から僕は、ニーナの隣でいることを、彼女とずっと一緒に手をつないでいることを、初めてきちんと考えるようになった。




