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38 ◆

 僕は、しばらく固まってニーナの出て行った扉を見ていた。しばらくそうしてたけど、ポケットから緑の石を出して、玄関の鍵をあけて、庭にある大きな岩までいってその下でうずくまった。この岩からはなんだかニーナの匂いがして、お気に入りの場所だった。


 岩にもたれて、膝をたてて顔を隠して、さっきのニーナを思い出す。いままで見たことない顔をして、とても悲しそうで、僕は胸がはりさけそうだった。なでてくれた彼女の手は、少しふるえていて、とても冷たく感じて、僕は彼女の熱をもらえなくて。彼女になでられて、そんなのは初めてだったから、僕はとても怖くなった。


 ある僕が怒ったような顔で、黙って僕のほうをにらんでいた。


 もう一人の僕が、代わりに悲しそうな声で話しかけてきた。

 だから、いったじゃないか。余計なことをしなければ、やさしい彼女はきっとずっと手をつないでくれる。そうしたらまた笑ってくれるさ。


 僕は、怒った顔から眼をそむけて、そうかもしれないとうなずいた。ニーナに嫌われてしまうくらいなら、そっちのほうがずっといいと思った。彼女が帰ってきたら、今度はちゃんと笑えるようにしようって。怒った僕は、なにか言いたそうだったけれど、僕は聞こうとしないで、最後にはそっぽを向かれてしまった。


 彼女は剣を持ってあわてて出かけていった。大丈夫だろうか、危ない仕事じゃなければいいけれど。そう彼女が気になって考えていると、また暗闇に僕とニーナが頭に浮かんできた。


 ニーナと僕の間には、やっぱり白線が引かれていて、その線はなんだか前よりもっとはっきりくっきり見えるようになっていた。僕の手は彼女が引いてくれていて、線にそって、ずっと歩いて行くけれど、線のむこうの彼女の隣立っているのは、僕じゃなくてあの人で……。

 その僕は、うつむいてそっちのほうは見ないように、でも彼女の手は離そうとしないで……。


 これは夢だと僕は夢の中で気が付いた。

 でも、それでもこの光景を見るのが僕はとてもいやで、ニーナに会いたくなって、ニーナに―――――


 急に鈴のような音がした。驚いて目をあけると、周りはすっかり暗くなっていた。丸い月が岩を照らしていて、僕は自分が眠ってしまっていたのに気が付いた。鈴のような音は、岩から出ているようで、ちょっと大きいけどうるさいわけではなくて、なんだかやさしい感じがした。


 音はすぐに止み、すると後ろで足音がした気がしたので、振り向くとニーナが立っていた。彼女の銀色の髪が弱く光っているみたいで、とてもきれいに見えた。


 でも、彼女は手が届かないところで立っていて、そのせいで僕は夢で見た白線が広がっていってその手前で彼女が止まったような気がして……。

 けれど、彼女はすぐにいつものように近くまで来てくれて、僕の両手をつないで握ってくれた。その手はいつものようにとても暖かくて、同じようにもと通りになった気がして、僕はほっとした。


 ニーナは左手に包帯がしているのに気が付いて、驚いて彼女の青い目をみて名前を呼んだ。すると、彼女は安心させるように包帯の手で僕の手をぎゅっと強く握ってくれた。僕は安心して、今度は心配させないように、余計なことを考えないように、できるだけ頑張って上手に笑ってみせた。

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