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31 ◆

 その日は、目が覚めるとニーナはまだ眠っていた。ニーナの寝顔はあまり見れないので、僕はおこしてしまわないように注意して、銀色の髪をこっそり触りながら、ずっと眺めていた。


 あの日から、一人でいるとあの嫌なものが僕の中から湧き出してくるようになった。でも僕は、なぜだかニーナにそれを知られたくなかった。


 ニーナに触れていると、彼女の体温で僕の体も熱くなって、するとそのうち消えてなくなってしまうから、それまでの少しの間だけ注意していた。おかえりをいうといつも笑ってくれたから、そんなに大変じゃなかった。


 昨日も笑ってくれて、手をつないでくれて、頭をなでてくれて、後ろから抱きしめてくれて、銀色の髪をとかしてあげて、また手をつないで一緒に寝てくれて………。

 だから僕の中の嫌なあれは、すっかりなくなっていた。


 彼女の寝顔は、僕はいつまでも眺めていられそうだったけれど、しばらくしてニーナは目を覚ました。ゆっくりまぶたがひらいて、でも青い眼は焦点がぼんやりとしていた。そのせいか、いつもより深い色のように見えて、僕はとてもきれいだと思った。


 羽のようなまつ毛がぱたぱたして、すると、しっかり目が覚めたようだったから、僕はおはようを言った。少し前にニーナと一緒に練習して、僕は言えるようになっていた。すると彼女は笑ってくれる。寝起きの彼女の笑顔は、まるで子供のようで新鮮に感じて、僕はまた胸が苦しくなった。


 朝食を済ますと、ニーナは出かけないで家にいた。休みのようで僕はまたずっとニーナがいてくれると思ってうれしくて仕方がなくなった。


 ニーナが何か楽しそうに僕に話しかけて、ソファに座らせると、絵本を指さした。ニーナはときどき一緒に絵本を読んで、言葉を教えてくれていた。僕はその時間がすごく好きなので、ニーナに向かって返事をしてうなずいた。


 ニーナが絵本をひらいて、大きい文字に白い指をゆっくり沿わせて、きれいな声ではっきりと読み始める。僕は話の内容はわからないけれど、楽しくてしかたがなくなって、ページをめくるのを手伝いながら、白い指を目で追った。ときどき絵に描かれているものを指さしたりする。すると彼女は、その絵と文字とを交互に指さして、繰り返して声に出してくれる。彼女はいつもそうして教えてくれるので、僕はいくつかの絵の名前と文字を覚えることができていた。



 ――――カンカン


 急に聞いたことがないうるさい音がして、ニーナのきれいな声を遮った。壁にかかってた小さな板から出てるみたいだった。


 ニーナが立ち上がって、白い指で板の真ん中についている石のようなものに触れると、音がやんで、かわりに人の声がした。僕は驚いたけれど、どうやらここでの電話のようで、彼女といくつかやり取りをしていた。二人の声が少しあわてているようで、僕は心配になった。


 ――――あの男の人の声だ


 何度もやりとりを聞いているうちに、僕はそれに気づいてしまった。


 急に体の熱が逃げて行って、体が冷めたくなっていくようで……。

 あの嫌なものが、また僕の中からどんどんあふれてきて止めたいけど、止められない。


 ニーナは話がおわると、鎧に着替えて出かける準備をして玄関に向かった。なにか大切な用事なのはわかって、だからあの嫌なものを抑えようとしたけれど、僕は上手くできなくて……。


 彼女は急いでいたようで、いつもしてくれたように手をつないでも、頭をなでてもくれなかった。だから僕は彼女の熱をもらえなくて、それでも彼女を安心させようとしてみたけれど、結局上手に笑うことができなかった。

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