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 二人を乗せた馬車は、目的地であるヴェルニーナの家に到着した。

 手綱からの指示を受け、商館指折りの高級馬はしつけられたとおり文句も言わずに歩みを止めた。あわせるように車も乗客にほとんど影響をあたえることなく静かに止まった。


 年配の御者が年齢を感じさせないきびきびとした動きで、扉をあけた。すると入り口に近い席にいたヴェルニーナが軽やかにステップを降りたった。すぐに振り返って顔を覗かせたシンへと両手を伸ばす。シンがヴェルニーナの手に身を預けるようにして乗り出すと、重さを感じないような手つきでヴェルニーナがしっかり受け止めて地上に降ろした。


 馬車はゆっくりとした歩みだったために本来よりずいぶん時間がかかった。その間ずっと狭い車内でいたため、さすがにヴェルニーナは疲れを感じていた。


 んー……もう着いちゃったか


 体を伸ばして解放感を得ながらも、わがままなことを思った。しかしながら馬車での時間は途中から、お互いの名前をひたらすら呼び合うだけという、ヴェルニーナにとってかつてない至福のひと時であった。


 彼女は隣に寄り添うようにして佇んでいたシンの手を引いて門へと向かった。


 ヴェルニーナの家は、小さめのお屋敷といってもよい一軒家だった。少なくともこの街では、高級住宅と言える程度には大きく部屋数も多かった。さらに庭は比較的広くとられており、大きな岩がまるで主のごとく堂々と鎮座していた。


 ヴェルニーナが門にある魔石に手をあてて鍵をはずすと、御者が心得ていたとばかりにうやうやしく門扉をあけた。軽く礼をいいヴェルニーナはシンの手を引いて屋敷へと向かう。その後ろを、すばやく荷台から荷物を取り出した御者が追いかけた。御者が抱えているのは、穴無し用の特殊な商品でリズリーがシンのために用意していたものだった。


 シンは、興味深げに家や庭をきょろきょろと見回していた。ヴェルニーナは、少年が首を振るたびにはねる黒髪を微笑ましく眺めつつ、好きにさせていた。


 気に入ってくれるといいんだけど……大丈夫そうでよかった


 ヴェルニーナはシンの興味津々といった様子に少し安堵する。そして家の玄関をあけて御者に礼を言いながら荷物を受け取った。荷物は、御者が、両手で持ちたくなる程度には重かったはずだが、ヴェルニーナは片手で持ち抱えた。つないでいる手は離す気はないようだった。


 ヴェルニーナはシンを伴って屋敷で一番広い部屋へ案内する。

 その部屋はヴェルニーナ自慢のリビングとキッチンと書斎と仮眠室の機能を兼ね備えた―――要するに彼女が日常的な生活の大部分をすごす部屋であった。他に使用するのは浴室とトイレと寝室が主ですべて一階にあった。


 ちなみにヴェルニーナの家にはその大きさにもかかわらず、使用人の類は存在しない。実際、一人で住むには大きすぎる家ではあるが、とある事情から彼女にとって大変便利な家であった。


 一階以外の大部分の部屋は、高価なものを置いておく物置として、もしくは高価でないものを置いておく物置として使用しているので問題ないのであった。

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