第九十二話 ガイアク一行
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「テメェらどういうつもりだ!」
怒声を上げたのはハザンだった。血管が浮かび上がり、鬼のような形相でガイアクを見ている。
「どういう? は、何を言うかと思えば、そこの奴隷のガキが! こともあろうに御主人様であるこの私を殺そうとするから、反撃しただけだろう? 何が悪い!」
「黙れよ、そいつはもう元に戻っていた! 攻撃する必要なんてなかっただろうが!」
ハザンが激昂する。そういえば、この男が本気で怒るところを見たのは初めてかもな。
とは言え、バズに目を向ける。隣でシーラが腰を落とし、その手を握って涙していたんだが――
「いや、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「あ、あぁ、シーラ……ごめんよ。お兄ちゃん、もう駄目みたいだ。折角、僕を助けるために色々してくれたのに、でも、シーラが無事で良かった……」
「お、お兄ちゃん、嫌だよこんなの……」
「泣かないでシーラ」
「おい」
「うぅ、お兄ちゃん、私、1人はもう嫌だよぉ」
「おい」
「大丈夫、例えここで命つきようと、僕はずっとシーラの心のなかに……」
「いいかげんにしろお前ら! お前も勝手に死ぬな! おいメイ」
「はい御主人様」
「へ? あ、なにを、あぁあぁああ!」
「お兄ちゃーーーーーーん!」
なんだこの茶番! 確かに矢は胸に刺さったけど、上手いこと急所は外れてるからすぐにどうということはない。大体本当にやばいとこだったらそんな喋ってる余裕ないからな。すぐに意識失うから!
「大体お前もメイの治療魔法を受けた程度で変な声を上げるな」
「だ、だってこんな綺麗なメイドさんに直に触られたら、て、本当だ傷がふさがってる!」
「え? じゃあ助かるの?」
「だからそう言ってるだろう」
メイは私と違って学習した魔法が使えるからな。まぁ攻撃面に関しては大体殴ったほうが早いんだが、怪我を治す時ようにこういった魔法は覚えている。
まぁ怪我ならそれ用の魔道具もあるけどな。魔法で済むならその方が早い。
「チッ、余計なことしやがって! 折角仕留めたと思ったのに」
「……こいつ、とことん腐ってやがるな」
バズが助かったとわかり安堵したハザンだが、悪びれもせず口汚い言葉を吐き出すガイアクの態度に苛立ちを隠しきれていない。
「まぁいいじゃないですか。旦那様にあれだけのことをしたのですからあっさり殺すなんてもったいないですよ」
「はは、そりゃそうだな。こうなったら全員とっ捕まえて纏めて奴隷にして可愛がってやろう」
「お前らに私達が捕まる? 悪い冗談だ」
悪魔化が解けたことで随分と気が大きくなってるようだがな、私達を甘く見過ぎだ。
「生意気なガキばかりだな。少しは大人しくしとけばまだ可愛げがあるってのに、そっちの餓鬼に関しては悪魔みたいな化け物になるしな!」
「化け物? ふむ、確かにバズはお前に虐げられ続けたことが原因で一時的とは言え悪魔化した」
「あぁそのとおりだ。そして暴れまわり、私を殺そうともした。そんな化け物を駆除しようというのだから、本来邪魔されるのもおかしな話だ」
「だが殺されなかっただろう? それにだ、バズは悪魔化しても誰1人殺しても、それどころか傷つけてすらいないのだぞ? それだけバズの精神が強かったということだ」
「……世迷い言を」
「どう思おうと勝手だが、一方で貴様はどうだ? 悪趣味なチェスで無駄に人を傷つけ、バズにも拷問を繰り返し、これまでも多くの人間を傷つけてきたのだろう? 今だってバズを殺そうとした。そんな貴様がバズを化け物呼ばわりとは笑わせる。よく自分の顔を鏡で見て見るんだな、悪魔化していない筈の貴様の方が――よっぽど悪魔的で化け物みたいだぞ?」
「ぐぬぬぬッ! 言わせておけば餓鬼が生意気な口聞きやがって! 構わん、お前たちやってしまえ!」
どうやら核心を突かれて随分と頭に血が昇ったようだな。
「おいハザン、テメェは俺が必ずぶっ潰してやる!」
すると、あの執事だとか言われてたデカブツがハザンを名指しした。随分と拘りがあるみたいだな。
「兄弟、あのデカい野郎は俺がやっていいか?」
「あぁ構わんぞ。なら私はあのガイアクとやらを制圧するか。それとメイ」
「はい、露払いはおまかせを」
そして私達は動き出す。まぁ私の方は目的があいつだからな。敢えて様子見しながら近づいていく。
「よう、久しぶりだな暴球のドングラ」
「破斬のハザン、かか、まさかこんなところで会えるとはな」
ハザンがガタイのいい、執事兼門番兼……まぁなんでもいいが、そのドングラという男と対峙していた。
ハザンは当然新しい武器であるソードリボルバーを。そしてドングラという男は鎖付きの鉄球を手にして、頭上でブンブン振り回している。どうやらそれがメインの武器のようだ。
しかし、冒険者というのはそんなに二つ名が好きなものなのか? 暴球とか破斬とか聞いててちょっと恥ずかしくなるぐらいだが。
「その鉄球で護衛対象諸共ぶっ潰して何度もギルドから注意を受け、それで散々破壊し尽くして付いた二つ名がそれだったか。全く笑えねぇ話だぜ」
いやいや、それ駄目なやつだろ。なんで護衛の依頼を受けて護衛対象ごと破壊するんだよ。
「フン、おかげでギルドから除籍されちまった。まぁ、そのおかげで今こうしてガイアク様の下で働けたんだがな」
むしろ良く除籍で済んだなそれ。まぁあのギルドならわからなくもないが。
「ここにいる連中もお前が連れてきたのか?」
「そうさ。ガイアク様の指示でな。しかし馬鹿なやつだ。他の連中も元とは言え冒険者、俺ほどでないにしても全員それなりの修羅場をくぐった猛者たちだ。それをあんなメイド一人に任せるとは」
「あんな、ねぇ」
ハザンがボリボリと髪をかきむしった。呆れてるようでもある。まぁそれはそうだ。寧ろその仲間は明らかに外れを引いている。私はなんとなくメイの方を見るが。
「おお、なんだいかしたメイドのネェちゃんじゃねぇか」
「俺たちとやろうってのか? 勇ましいね」
「はい、御主人様の命によりメイドの務めをきっちりこなさせていただきます」
「はは、なら別なとこで俺たちの相手してくれや」
「……やはりゴミですね。しっかりお掃除させていただきます」
「掃除? おおだったらその柔らかそうな手と綺麗な口で、グベェ!」
ヘラヘラ笑いながら下品な言葉を口にし近づいてきた元冒険者の男だが、メイの回し蹴りで彼方まで飛んでいった。
生きてるかアレ? まぁそれなりに手加減はしてると思うが。
「て、てめぇこのアマ!」
「お掃除」
「ぎゃびん!」
「ぶっころして!」
「お掃除」
「きゃんたまがぁああぁああ!」
「ちょ、ちょっと待て、こんなの聞いてねぇよ!」
「なんだこのメイドやべぇ!」
「わ、悪かった! 変なこと言って俺たちが!」
「お掃除、お掃除、お掃除」
「「「ぐべらぁあああぁあああ!」」」
……うん可哀想になるぐらい無残な事になってるな。顎を砕かれたり、股間の大事なものが潰されたり、纏めて地面に釘刺しになったり、まぁご愁傷さまだ。
「お前の仲間、そのあんなメイドにコテンパンにやられているが?」
「くっ、情けねぇ連中だ。だがお前はこの俺がぶっ潰す! 積年の恨みを俺が晴らしてやる!」
ハザン側では、ドングラが振り回していた鉄球でハザンを攻撃し始めていた。返しが速いな。あれは並の冒険者だったら苦労しそうだ。
まぁハザンは並じゃないからひょいひょいと躱しているが。
「よっ、よっ、どうでもいいが、積年の恨みってなんだよ。俺は直接お前になにかしたことはないぞ?」
「そんなのは決まってる! お前がいるから俺が目立てなかった! 暴球の二つ名も破斬と比べるといまいちとまで言われる始末!」
「はは、そりゃお前の二つ名がダサいからだろう」
いや、私からすればどっちもどっちなような……。
「黙れ、折角俺自ら流行らそうと仲間使って言いふらしたというのに!」
自作自演かよ! あ、頭の痛くなるような男だ。
「そんなんだから、お前は三流なんだよ!」
「な、は、はぁああぁああ!? ば、馬鹿な、アダマンタイトで出来た俺の鉄球を斬っただとぉおおぉお!」
アダマンタイト? 古代に重宝された古臭い金属か。正直加工しにくいし合金と比べると脆いしマイフのノリも悪いしで私の中では三級品もいいとこだ。
しかし、そんなものでいい気になっていたとは可愛そうなやつだ。当然だが今ハザンが使ってる剣なら魔法の付与がなくてもアダマンタイトぐらい余裕で一刀両断出来る。
「そんなんだから冒険者を辞めさせられくだらない悪事に加担することになるんだよ、ま、暫く強制労働でもしてくるんだな!」
「ち、畜生ーーーー!」
ハザンが剣を振ると爆発が生じドングラが吹っ飛んでいった。うむ、中々の威力だ。もちろんある程度威力を調整して加減したようだが。
「さて、あとはお前だけだな」
「く、くそ、だが、お前みたいな餓鬼1人ぐらい! この私の鞭で!」
「あっそ」
「ギャアァアアアァアア!」
鞭を取り出し振ろうとしてきたが、マイフルで撃ち抜いたら情けない声を上げて黒焦げになって倒れた。電撃の魔弾さ。ピクピクと痙攣して、うわ、あんなものまで漏らしてるよ……。
まぁとにかく、これで不届き者は全て退治できたな。
新連載はじめました
『スポ根漫画を参考に球技を極めたら最強の武術だと勘違いされた!~魔球と必殺シュートであらゆる敵をぶっ飛ばす!~』
冒険者ギルドから追放されたおっさん冒険者がスポ根マンガをきっかけに球技を極め魔球や必殺シュートで群がる敵をふっ飛ばしまくる痛快無双スポ根ファンタジーです!
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