第七十三話 再び商業ギルドへ
「これで大分揃ったな」
「はい、いよいよですね」
「あぁ、そうだなメイ」
「うぅ、ヘトヘトです~」
アレクトがぐったりしていた。机に突っ伏してもう動きたくないといった様子であり。ここ最近働き詰めだったしな。
「アレクト、今日は魔導具作成は休んでいいぞ」
「え! 本当ですか!」
ガバっと起き上がり満面の笑顔を見せた。単純な奴だな。動物みたいだ。
「その代わり商業ギルドにはついてきてもらう」
「ふぇ? 商業ギルドですかぁ?」
「そうだ。今後人を入れるにしてもこのギルドにおいてメインの魔導具師はお前だ。リーダーであり管理職といった立場になるわけだから同行してもらう必要がある」
「ふ、ふぇえええ! わ、私がリーダーで、か、管理ですか」
「はい。責任のあるお仕事になると思いますが、アレクト様ならきっと上手くやれると思います」
私の話を聞いてやたらとあたふたしているな。しかし、こいつそもそも元ギルドマスター代理だからな。本来管理ぐらい出来ないとおかしいのだ。
「さて、そうと決まれば早速征くぞ。さっさとブランド化を決めて本格的に魔導具を売りに出さないとな」
そして私たちは魔道ギルドを出た。店の前には休業の立て札をぶら下げている。
尤も顧客には前もって伝えている。今日ブランド化の再申請にいくこともな。多くの人間がブランド化が認められることを期待している。
申請が受理されなかったら商業ギルドに乗り込むとまで言っていたぐらいだ。そのおかげで顧客になってくれると言ってくれた者たちからは署名だけではなく、推薦状みたいなものまで貰ってしまったしな。
「これはエドソンさん、お待ちしてましたよ。いよいよですね」
「あぁ、そうだな」
待ち合わせ場所でフレンズと合流する。商業ギルドには彼も同伴してもらう必要があるからな。
「それにしてもここのところの魔道ギルドの人気は素晴らしいですね。冒険者ギルドより魔導ギルドの方が親身になって接してくれると評判も上々なようです」
ふっ、当然だろうな。客を客とも思わない不遜な態度で更にいい加減な仕事で終わらせることも多いという冒険者ギルドに客がついていくわけがない。
「それにですよ、まだあの魔導具は売られないのかと、どこかで話を聞いた人からも問い合わせが殺到してますよ。それにマジックバッグも再度入荷した分が直ぐに完売いたしましたし、はは、確か今、魔導具作成を行っているのはアレクトさんでしたね。まだまだ依頼は多くなりそうですので頑張ってくださいね」
「ひぃいぃいいぃい――」
笑顔で暗に仕事を催促するフレンズにアレクトが悲鳴を上げた。今日は休みを上げたがこれも嵐の前の静けさのようなものだからな。
「そういえば美人な受付嬢がいるとも噂になってました。いや流石はメイさんですな」
「……いえ、私などにそのような評価もったいないです」
そういいつつも、少し嬉しそうだな。メイは容姿にも徹底して拘ったアンドメイドだからな。しかし、メイを生み出した身としては嬉しい話でもある。
さて、歓談も程々に我々は商業ギルドに向かった。以前はあの眼鏡が随分と強気に出ていたが今回はどうかな。
「……いらっしゃいましたか」
「うむ、リベンジに来てやったぞ」
商業ギルドに入ると、あの眼鏡の男がやってきて応じてくれた。ちなみにこの男、名前はフレームと言うようだ。
「……それで預り金はご用意出来たのですかな?」
「いや、そんなものは用意していない」
「……お話になりませんね。どうぞお引取りを」
「お待ち下さい。全く話も聞かずにそれはあんまりでは?」
フレームが立ち上がろうとするとフレンズが異を唱えた。眼鏡の男の神経質そうな瞳が私に向けられる。
「話を聞いてどうにかなるとでも?」
「思っているさ。むしろお前たちの方がここで話を聞かなければ後悔するぞ。このギルドにとっても莫大な利益を生み出す、私たちのブランドにはそれだけの価値がある」
私は男に向けてはっきりと言った。こういう時曖昧な言い方では駄目だ。特に商業ギルドのようなところには聞いて損がないと少しでも思わせる必要がある。
「……そこまで言われるなら話をお聞きしましょう。しかし、ブランド化もまだな貴方がどうやって私に利益を生むと証明するおつもりですか?」
「これだ」
「……これは――」
私はカウンターに持参した用紙を並べてみせた。魔導ギルドが開発した魔導具を、ブランド化された暁には購入すると約束してもらい署名してもらった用紙だ。
「……これは、一体どういうことですか? まさか無断で魔導具の販売を?」
「それは違います。魔導ギルドはこれらを販売しておりません。ですが作成した魔導具は実際に問題がないか試す必要がある。そこでエドソン殿は魔導ギルドを頼ってきた依頼人の許可を取り、魔導具を使用してみせたのです。実演のようなものですが、直接販売をしていなければ問題はないでしょう」
「……確かにそれであれば、魔導具販売の規定に違反しているとは言えませんな。勿論本当に魔導具を販売していなければですが」
「それは私が保証いたしましょう」
「なんならここに署名頂いた人物に直接聞いてもらっても構わぬぞ。私にはやましいことなど何もないのだからな」
フレームは眼鏡の弦をクイクイっと上下させ。
「……まぁいいでしょう。しかしこれはあくまで約束事、署名はされてますがブランド化されたからと本当に購入するとは限りません。何より安全性など不安は拭いきれません。それである以上――」
「こういった物もあるが?」
この程度では納得できないといった態度を見せるフレームに私はもう一つの武器を取り出して並べた。
「……推薦状ですか」
「はい、この通り魔導ギルドのブランド化には多くの人が期待し、支持してくれています。これでもまだ信用できないと?」
「……確かに、多くの推薦を貰っているようですが、しかしブランド化に預り金が必要という制度はギルドの決定――」
「ちなみに推薦者にはこういった者もいるのだが?」
私は推薦状の中から1枚取り出しフレームに手渡した。それを受け取りしげしげと眺めるが。
「……これは、フッ、なるほど。あいつはこんなものまで書いたのか」
ここに来て、初めてフレームの顔に笑みが浮かんだ。
「その様子だと、私が行っていたことも知っていたのか?」
「当然だ。貴方だってわかってやっていたのだろう? ふふ、私の妻は掃除が苦手で、しかしそれがある日家に帰ったら見違えるほど綺麗になっていた。妻は魔導ギルドに依頼したおかげといい、なんでこんなすごい魔導具の販売を認めないのなんて責められたものだ」
「ほえ? それってつまり、え~と」
「はい、ご主人様が請けた依頼人の中にフレーム様の奥様もいたということですね」
そう。そしてそれは勿論私も知ってのことだったわけであり。
「ついでに言えば、うちのマスターからも言われていたのですよ。話ぐらい聞いてやれってね。貴方、マスターの奥方からの依頼も請けたのでしょう? あくまで試験という名目で貸してもらったという魔導具の効果で、お腹が引き締まって体重も減ったと喜んでました」
ふむ、どうやらMMSベルトの効果はあったようだな。
「しかし、最初は聞く耳持たずといった様子でしたが?」
「それは私にも商業ギルドで査定を任されている責任がありますからね。妻が言っていたからと甘い顔は出来ません。ギルドマスターにしてもそうです。いくら上が言おうと自分でしっかり話を聞き、判断しなければ」
なるほど。悪く言えば融通の効かない男だが、良く言えば自分をしっかり持っている生真面目な男と言える。
だがこういうタイプなら納得さえしてもらえれば。
「それで、今までの話を聞いてどうだったかな?」
「……そうですね。これであれば、流石に無視は出来ません。署名にしても例え全員が購入しなかったとしてもこの中の1割が顧客になったとしても相当な利益を生みますから。しかし、これを見るに今後相当の数の魔導具を作成する必要があると思いますが大丈夫なのですか?」
「問題ない。魔導具作成についてメインで活動するのはこのアレクトだが、こいつはこうみえて仕事に対する姿勢は真面目で常に真摯に向き合える女だ。抜けてるところもあるが魔導具の作成に関して言えば信頼たる人物だ」
「えぇ! エドソンくん、そこまで私のことを――」
何か感動しているようだが、当然こんな状況で悪く言うのはいないからな。尤も、以前に比べたら十分仕事はこなせるようになっているがな。
「……正直本来なら貴方のような子どもの言葉など耳をかさないのですがね」
「な!」
くっ、また見た目か!
「ですが――妻も貴方のことを妙に気に入ってましたし、マスターの奥方も同じようなことを言ってました。ですからいいでしょう。わかりました。このブランド化の申請は通させていただきます」




