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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第一章 フォード領編

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第六十六話 約束の日

「ふむ……」

「ど、どうですか?」


 私は今、しきりに剣を眺めていた。鉄製の剣と魔法銀製の剣が1本ずつ。そんな俺を窺うように見ているのはクリエ。アダマン鍛冶店を営むメイク・アダマンの一人息子だ。


 実はちょいちょい仕事の様子は見に来ていたが、いよいよ明日が約束の日になるからな。剣の出来を見に来たわけだが。


「……うん、いい出来だと私は思う。まぁ、その辺はベンツの方がより詳しいんだろうがな」

「は、当然この俺が打っていいと言ったんだから最低限度のもんは作れてるさ。勿論、俺からすればまだまだ粗もある。出来はCランクってところだが、この短期間でやったにしちゃそこそこだ」

「そ、それでもそこそこなんですね」


 クリエが苦笑しているが鍛冶にこだわりのあるドワーフの中でも神様のような扱いを受けるオーバードワーフのベンツだ。


 その判定基準はとても厳しい。そんなベンツがCランクとはな。恐らく人族で言えばかなりのものだぞ。


「うん、クリエくん頑張ったもんね」

「ろ、ローレルさんにそう言って貰えると、う、嬉しいです!」


 ふむ、ベンツの娘に褒められて随分と嬉しそうにしてるな。ほうほう、ここにいる間に随分と親しくなったみたいじゃないか。


「ベンツ、この剣はやはりこの辺りに問題があるんじゃないか?」

「そうだな。あいつごと炉に入れれば良くなるかも知れない」

「なぜ僕ごと!」

「昔は魔剣を作る時に人も炉に放り込んだというしな」

「何か怖いこと言ってる!」


 まぁ、そのやり方は全く意味のない愚かな間違いだったわけだが。

 

「言っておくがお前はあくまで鍛冶見習いとして来てるんだからな? 忘れるなよ」

「も、勿論わかってます、はい……」


 うん、凄い威圧だ。しかし、ベンツもやはり娘の事となるとムキになるもんだな。ただでさえ厳つい顔が更に険しくなって魔王みたいになってるぞ。


「ふぅ、全く、私になど何の出会いも無いというのに」

「ご安心ください。ご主人様には私がいますから」

 

 思わず愚痴っぽいことを口にしてしまった私にメイが言った。フォローしてくれているんだろうが。


「いや、お前はなんというかそういうのとは違うだろ?」

「……」

「あぁ、エドソンくんってば酷いんだぁ」

「は? え、エドソンくん?」

「がっはっは! お前は見た目が子どもにしか見えねぇからな」

「え? 子どもではないんですか?」

「ん? あ、あぁ」

「いやいや、子どもだよねぇエドソンくんは」


 あぁ、そうだ。クリエは私の正体など知らないからな……。

 ベンツがしまったという顔をしているがローレルがカバーしてくれた。


「で・も、メイさんにそんな言い方はないと思うな」

「は? いや、そう言ってもな。大体メイだってそんなこと気にしてないよな?」

「――ツーン」

 

 は? そっぽを向いて、な、なんだ? 私がそんな不機嫌にさせることを言ってしまったというのか?


「め、メイ、そのなんだ、え~と……」

「……ふふ、冗談ですご主人様。慌てるご主人様が可愛くてつい意地悪したくなりました」

「え? な、なんだそうか……」


 ふぅ、それなら良かった。良かった、のか? 

 ま、まぁ細かいことは気にしないでおこう。それより随分と人間らしくなったものだと成長を喜ぶところだろうしな。


「それじゃあ、明日迎えに来るからな」

「はい、明日に備えて更に調整してよりいいものにしてみせます!」


 うむ、いい目だな。心意気もいい。


 そして翌日、私はクリエを迎えに行き、ハザンも一緒にアダマン鍛冶店に向かった。


「よく来たな、息子とは言え逃げずにやってきたことは褒めてやる」

「……逃げないよ。今の親父に負けるとも思ってないし」

「は、どうやらどこで修行したかは知らんが口だけは立派になったようだな」


 父と子の戦いは舌戦からってところか。ま、実際口だけ達者でも意味はないがな。


「全く、父と子で争い合うことになるなんてな」


 既に来ていたガードが呆れたように言う。


「時にはそういうのも大事ってことだ。俺なんて昔はしょっちゅう親父とやりあってたぜ」

「あぁ、何か判る気がするぞ」


 昔を懐かしむ様にハザンが言うが、この男の場合わりと想像がつくな。


「ま、いつまでも言い合っていても仕方ない。早速始めるとしようか。お互いの剣を出してくれ」

「はい、俺はこれです」


 先ずクリエが台の上に剣を2本置いた。昨日私も確認したが仕上がり具合が更に良くなってるな。


「俺はこれだ。言っておくがこれは俺がこれまで打った中でも最高の出来、最高傑作が出来たと思っている。いくら修行したと言ってもたかだか1週間程度で覆せるもんじゃねぇ!」


 ほう、随分な自信だ。だが、確かに置かれた剣も中々の出来だ。鋳造ではなく鍛造だという点は勿論、少なくとも最初にここで見た剣とは出来が明らかに違う。


 酒も断っていたようだし、真面目に取り組んでいたのは事実なのだろう。


「う~む、これは見た目にはどっちもかなりの出来だと思うぜ」

「確かに……メイクが打ったものは以前とは比べ物にならない程だが、息子のクリエが打った方も見た目には遜色が無いほどにいいと思う、だが――いや、とにかく両方共このままでも十分高値がつきそうな出来だ」


 ハザンとガードが1本ずつ手に取り、ためつすがめつ確認している。ハザンは素振りしたりもしているな。


 ただ、ガードは何か思うところがあるのかもしれない。ハザンもそれぞれの剣を振った上で、細かな違いを感じ取っているようだが。


「何か違いがある気もするけどよぉ、やっぱ素振りだけじゃ判断がつかないな」

「だろうな。だからお互いの切れ味がよくわかるようこれを用意させてもらった。メイ」

「はい、ご主人様」


 そしてメイが準備を始める。台を用意し、その上に試し切り用の的を立てた。


「なんだこれは? ただの藁?」

「あぁ、藁を束ねたものだ。だがただの藁ではない、ヤワラカイネという東方の国で育つ稲を利用したものだ」

「……そんな名前のが素材で大丈夫なのか?」

「むしろ鉄の剣の切れ味を確かめるならこれほど適したものはない。この藁は柔軟な分切れにくい。前にみたような鋳造の鈍じゃ弾いて終わりだ」

「あぁ、判る気がするぜ。実際固いのより柔らかい物の方が切りにくいんだ。木を切るより1枚の紙を切る方が難しいのと一緒だな」


 ハザンのいうとおりだ。尤もだからこそ剣を持つ方の技量も試されるんだが、そこはBランク冒険者のハザンだからな。問題はないだろう。


「ちなみにこの藁束は鉄の剣を確かめるためのものだ。魔法銀の剣用には他の用意がある」

「はぁ? なんだそれ。まさか、息子に有利になるようにとかじゃないだろうな!」

「そんなマネはしない。だがそんなに心配ならこの藁束もしっかり確認するといい。2束用意してある。なんなら好きな方を選んでも構わないぞ? 先がいいか後がいいかもな。勿論このあとの魔法銀でもよく調べてかまわない」

「……ふん」


 メイクがまじまじと藁束を確認する。そして――


「なら俺が先だ。こっちを切ってもらおうか」

「あぁ判った。ならハザン頼んだ」

「頼まれた」


 さて、いよいよだな――

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