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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第一章 フォード領編

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第四十六話 アダマン鍛冶店

 ガードの紹介もありマジックバッグの素材加工はなんとかなりそうだ。

 後は装備品の加工だが。


「実は職人にも心当たりがあります。というよりも、うちが仕事を任せているアダマン鍛冶店というのがあるのですが」

「なんだ、それなら丁度いいな」

「えぇ、まぁ、そうですね。とりあえずみてもらった方が早いかもですね……」


 なんとも歯切れの悪い回答だが、とりあえずそのアダマンのいる店までいくことにしたわけだが。


「……なんだこの匂いは――」


 ガードに連れられて、アダマンの下を訪れた私だが、肝心の鍛冶場には鼻につく酒の臭いが充満していた。


「ヒック、ウィ~なんだ、ガードさんじゃねっすか~ふへへ、なんだぁ? また追加注文ですかぁい?」


 そして私の目の前に姿を見せたのは鈍色の髪をした角ばった顔の男。作業着姿だが、鍛冶に使うハンマーの代わりに酒瓶を持ち、足下もフラフラだ。


「メイク……また酒を呑んでいたのか?」

「ヒック、へっへ、そりゃ呑みますよ~そこに酒があるんだからヒック、うぃ~」

「おい、こいつが本当に腕の良い鍛冶師なのか?」

「……面目ないことです。確かに昔は腕が良かったのですが今はこの調子ですっかり酒浸りに……」


 なんてこった。そんな男じゃまともに鉄も打てないだろう。


「ヒック、へっへ、何を言うかと思えば。鍛冶の腕? ギャハハハハハ! それはギャグのつもりかい? こんな誰が作っても均一に同じものが出来るような鋳造品に、腕が関係あるもんか。でも安心してくださいよっと、ヒック。例え酔っていてもこんな赤子でも出来るような仕事、しっかりとやって求められた数だけきっちり作りますよっとへっへ」


 そしてグビグビと瓶に口をつけて酒を呷る。この男、どうも自暴自棄になっているような、そんな気さえする。


 しかし、私は炉に目を向けるが、かなり古い型のものだな。耐火煉瓦と長い煙突、それに鞴か。私ならもっと効率的なものに出来るが、しかし、この手の鍛冶というのは設備が多少古くても腕でカバー出来る部分も大きい。


 だが――やれやれ炉は煤が溜まり傷みも激しい。メンテナンスもろくにしてないのか。これでは本当にただ仕事をしているだけだな。


 床には無造作に何本か剣が置かれていた。鎧もある。私はその内の一本を手にとり眺めるが。


「全くひどい物だな」


 自分で加工するような腕は持ち合わせていないが、それでもベンツという伝説級の職人の作り出す芸術品ともいえる品の数々を見ている。だから多少は物の善し悪しぐらいは判っているつもりだ。


 だが、これは詳しい詳しくない以前の問題か。鋳造品は鍛造に比べると性能は落ちやすいが大量生産に向いている。


 とはいえだ、ここまでいい加減とはな。


「どうです、酷いものでしょ?」

「はは、紹介したわりに随分な言い草だな」

「……最初ためらったのはこれがあったからですよ。でも、正直メイクがあぁなった責任は私にもあるのです。ドイルの口車に乗せられ、こんなものの作成まで請け負ってしまった……しかもドイルはこれを鍛造品として売れというのです。そのために中身は粗悪でも見た目だけは整えろというのだから……」

「なるほど、紛いものとはいえ、被せ物だけは色々な種類があるわけだ」


 ここで今作られている装備品は鋳物故に規格は決まってしまっている。だが、それでは安物としかみられないため、はめ込むだけで見た目の変化するお手頃な鋳物も別に用意されているというわけだ。しかし、こんなものでいくらごまかしても実践では意味がない。こんな武器や防具では魔物のちょっとした攻撃でもすぐ罅が入ったり破損したりすることだろう。


「仕事としてはとても褒められたものじゃないな」

「はん! ヒック、関係ねぇよ。こっちだってその分単価を限界まで下げられてんだからよ!」


 なるほどな。ただでさえ気に入らない出来損ないな鋳造品を作らされた上、金銭面でも余裕がなく、すっかりやる気がなくなったというわけか。


「それで今日はどれだけ発注があるんだ? あっとこないだの分はもう終わってるからな。全く数だけは馬鹿みたいに頼んでくるからな。まぁそのおかげで安い仕事でもなんとかギリギリ生活出来る程度にはさせてもらってますよ。飼い殺し万歳てなもんだ!」


 酒をグビグビと喉に流し込みながら、両手を広げてもう完全に焼けになってるな。


「……その件だが、悪いがもう鋳造の仕事はない。実はドイル商会と揉めて取引を止めたんだ」

「は?」


 へらへら笑いながら酒を呑み続けるメイクだったがその手がピタリと止まり。


「ふ、ふざけんなよテメェ! だったら今回納品予定だった武器や防具はどうすんだ! こっちはもう作っちまってんだぞ!」

「その分なら責任持って支払う」

「な、なら今後は、今後はどうなるんだ! これまで散々無理を聞いてきたのも、例え安くても量だけは発注があったからだ! ギリギリでもそれで食えていけたんだ! だけどな、それだってこっちはとっくに飛竜操業状態なんだよ!」


 飛竜操業というのは飛竜は翼を動かしている間は落ちないが、翼を止めてしまえば問答無用で落ちていくだけという点を喩えた言葉だ。


 つまりいま仕事を止めたらもうこの店はやっていけないと言っているのだな。


「別に仕事が全くないわけじゃない。ここにいるエドソンさんが今後仕事を与えてくれるかもしれない、のだがな……」


 ガードがチラリと私を見るが、私は大きく息を吐き出した。


「なんだそうかい。ヒック、だったらこれからも同じもんを頼んでくれるんだな? へへ、型はあるんだ。注文さえ貰えれば……」

「馬鹿言うな。私はこんなくず鉄にも劣る代物など頼む気はないぞ。冗談じゃない」

「……は? なんだと?」

「何だ、酔っ払って何を言っているかも判っていないのか? 私はこんな屑みたいな鋳物に金を支払うほど馬鹿じゃないと言ってるんだ」

「……ふ、ふざけんな! こっちはなこの型だって大量に仕入れさせられたんだ! その費用だって回収できてないのに屑だと!」

「お、おいやめろメイク!」

「そんなもの知ったことか。大体貴様もそれを断らず受け入れたんだろう? だったら貴様の責任だ」


 メイクが私の胸ぐらを掴んできて怒鳴り散らしてきた。酒に呑まれて見境がなくなっているといったところか。全く呆れた男だな。


「もうやめろよ親父!」


 すると鍛冶場の出入り口で一人の少年が叫んだ。顔はこの男に比べると整っている。髪はメイクと同じ鈍色だ。


「クリエくん……」

「ち、なんだクリエか。酒は買ってきたのかよ!」


 私の胸ぐらから手を放し、今度はクリエに向かって叫ぶ。だがクリエはそれを無視して私達の前までやってきた。


「親父が馬鹿なことばかり言ってもうしわけありません」

「……ふん、こんなものただの雑音みたいなものだ。ところで」

「あ、彼はメイクの息子なんですよ」

 

 私が目で問いかけるとガードが答えてくれた。なるほどな。どうりで面影はあるか……。


「おい! 酒は!」

「くっ、ほら!」

「おわっ! てめ! 落として割れたらどうするんだ気をつけろ!」


 クリエが投げつけた酒をキャッチし、文句をいいつつも蓋を空けまた呑みだす。息子は顔をしかめてるな。


「本当にすみません。あれでも昔は腕がいいって評判で、俺も尊敬してたんだけど……」


 ふむ、尊敬か……そういえば一つ気になっていたのがあるんだよな。


「……この剣はもしかして君かな?」


 私は壁にかけられていた一本の剣を取り、クリエに聞いた。他のみたいに床に転がっているわけではなく、手入れも行き届いていた。


「はい、俺が作ってみた剣なんですが……」

「ふむ」

 

 私は鞘から抜いてしっかりと眺めてみるが。


「ふん、ヒック、息子がまともな剣なんざ作れるものか。ただのガラクタだよ、ヒック、ガラクタ」


 酒の瓶に口づけつつ、吐き捨てるように言う。息子の作った物も興味なしか。


「あの、どうでしょう?」

「……出来はとても褒められたものではないな」

「ほらみたことか、ヒック」

「……やっぱりそうか……」

「だが――」


 薄ら笑いを浮かべるメイクに肩を落とすクリエ。しかし私は言葉を加え。


「クリエの腕は確かに未熟だろう。だが、この剣には例え未熟でも少しでも良いものを作りたいという強い意志が宿っている。それはここに転がっている大量のガラクタにはないものだ」

「な、なんだと!」


 メイクが酒焼けした顔を更に真っ赤に染めて私に詰め寄ってきた。


「貴様! いくら鋳造品とはいえ、この俺の剣が槌もまともに振れないようなこいつの玩具より劣るというのか!」

「あぁ劣るな。言っておくが私がもし仕事を頼むとしたら貴様には死んでも頼まん。今の貴様は自分の腕がどれだけ鈍らになったかも気づかない愚か者だからな。だが、息子のクリエになら任せてもいいと思えるぞ。彼には見どころがある。貴様などでなくもっとしっかりとした鍛冶師に教われば化ける可能性は十分にある」

「ほ、ほぉ、言ったな。だったらそれを証明してみろよ! だがそこまで言ってもし息子が俺より落ちるようならこれまで卸していた分を10倍の単価で一生貴様に面倒見てもらうぞ!」

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