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第四十五話 ガードの役立て方

「疑るようで申し訳ないが、本当にこれで大丈夫であろうか?」


 ドイル商会を出ると、ガードが不安そうに私に聞いてきた。大丈夫かとは恐らく、この程度であのドイルが諦めるか? という意味だろう。


「そんなに心配なら少しだけ脇にそれて待ってみるか」

「え?」

「もしあの男が私が想像している通りの男なら間もなく悲鳴が聞こえる」


 怪訝そうなガードと一旦路地裏に入り、暫し待つ。とは言え、30秒もすれば。


「ぎ、ギャァアアアァアァアアァア!」

「ほらな?」

「い、一体何が?」

 

 ドイル商会から聞こえてきた悲鳴に、ガードは目を丸くしている。理由が知りたそうでもある。


「ご主人様のお使いになられた裁きくんの判決は生涯つきまといます。つまりあの男が今後ガード様に何かしようと考えれば今のように悲鳴をあげることになるということです」


 ガードやその家族も含めて、あの男がこの件で何かしようとしたなら不可視の雷で全身に衝撃が走る仕組みだ。しかもこの雷は本人以外は傷つけず外傷も伴わないものだ。


 回りからすればなぜあの男が悲鳴を上げているかさっぱりわからないことだろう。実際ガードも何が起きているかまでは理解していない。


「判ったかな? これでもうあの男はお前や家族に手出しが出来ない。命令しようにもそのまえに悲鳴をあげることとなり伝わらない。紙に書いても罰するしな」

「そ、そんなことが……信じられないが、どうやら私は貴方に救われたようだ。感謝してもしきれない。本当に何と言ったらよいか……」


 今度こそ本当に安心したのか、緊張の糸が切れたようにガードの表情が瓦解し、涙まで流し始めた。


「全くこんなところで泣くやつがあるか。メイ」

「はい、どうぞお使い下さいませ」


 メイがハンカチを差し出す。ガードはそれを受け取ったが。


「はい、はい、ありがとうございます(チーン!)」

「「…………」」

「あ、これはちゃんと洗って返しますので」

「いえ、どうぞ差し上げます」


 涙を拭ってついでに鼻をかんだそれは彼に進呈することにした。その後、一旦私たちは魔導ギルドに戻ったわけだが。


「ですが、あれだけのことをしたのに……なぜ私を?」


 テーブルに座り対面したところでそんなことを切り出してきた。


「勘違いするなよ。伊達や酔狂で協力したわけじゃない。当然目的がある」

「目的ですか?」

「そうだ。今後ここで作る魔導具はブランド化する予定だ。その中には装備品も含まれることになる。それを取り扱って欲しい」

「取り扱いですか……やはり素材などは細かく指定されるのでしょうか?」

「なんだそれは? 意味がわからないが、寧ろ必要なものがあれば言ってくれていい。それに別に作ったものを問答無用で売れとも言わない。気に入らなければ気に入らないといってくれていい」

「……え? それでいいんですか?」

「は? 当然だろう。寧ろ不満があるのに気を遣われるようなやり方の方が迷惑だ。そんなことではこちらも成長が見込めないからな」

「は、はぁ……」


 何か、目をパチクリさせて不思議そうにこっちを見ているな。まぁいい話を進めよう。


「それと魔導具の作成において核の加工や術式の構築は出来るが、素材の加工やガワの作成を任せられる職人がいたら紹介して欲しいんだ」


 実際のところベンツに任せれば早いのだが、それは私が頼むからこそ出来ることだ。今後のことを考えれば町に頼れる職人がいるならそうすべきだろう。


「どういった物を作られるので?」

「今作成しているのはマジックバッグだ。後はハザンという冒険者から武器を頼まれているが、あいつは防具も貧弱だからな。今度話して受注出来れば取り扱うことになるだろう」

「なるほど……しかしあの破斬のハザンまでも顧客とは驚きましたね……」

「……いや、なんだそれは?」


 思わず聞き返してしまった。そういえばあのとき、この男はハザンを見て随分と驚いていたな。それはそれとして、その妙な冠が気になったのだが。


「え? ですから破斬のハザンですよ。Bランクの腕利き冒険者の彼のことですよね?」

「……破斬が異名なのか?」

「はい。異名持ちは冒険者にとって一流の証ですからね」

「その異名は本人は納得してるのか?」

「え? 嬉しいんじゃないですか?」


 そうなのか……名前を2回言われてるようなものだが……まぁ本人が納得してるなら問題ないか。


「ところでマジックバッグの件ですが、うちの妻でもよければ……実は裁縫が得意で妻が作った服や小物も評判がいいのです」

「それは丁度いいな。会うことは出来るか?」

「はい、では今からでもよろしければ」

「わ、私も行っていいですかぁ?」


 するとアレクトが同行を申し出てきたが。


「お前、術式はどうなってる?」

「え、え~とだから、小休止で……」

「メイ、しっかりケツを叩いてやらせろ」

「承知いたしました」

「ふぇええぇえええええぇえん」


 アレクトはメイに任せておけばいいな。さて、それじゃあ早速いくか。





「妻のドレスです」

「主人が色々とお世話になったようで、本当にどうもありがとうございます」

「…………」


 私がガードについていき、商会につくと黒髪の若々しい女性が三つ指ついて出迎えてくれたわけだが。


「娘か?」

「妻といいましたよね?」

「……随分と年下の女性を掴まえたのだな」

「いや、3歳しか違わないのですが……」

「うふふ、幾つに見えますか?」


 ドレスが興味深そうに聞いてきた。うむ、あくまで人間で見ればだが。


「22歳か23歳?」

「あらあら、うふふ」

「いや、妻のドレスは35歳ですよ」

「……貴方――」

「いや、本当のことだろう!」

 

 キッと睨まれてガードがたじろいだ。とはいえ、見た目なら10歳は若くみえるだろうな。

 うん? 35歳?


「まてまて、やはりおかしいぞ。妻が35歳ということはガードは38歳ということになるだろう!」

「え~と、そうですか……」

「……うそはいかんぞ」

「本当ですよ!」


 その後、嘘発見器を試したが本当だった。


「てっきり50代は間違いないと思ったのだがな……」

「くっ、老け顔なのは昔からなのですよ。おい、お前笑うな!」


 何か怒っているようだが妙に仲睦まじくも見えるな。クッ、羨ましくなどないぞ!


 さて、その後はドレスが裁縫した物を何点か見せてもらったが、確かに言うだけあってその腕は確かなものだった。


「御役にたてそうでしょうか?」

「うむ、これなら十分だ。マジックバッグの素材が集まったら是非とも頼みたいが、魔物や魔獣の皮でも大丈夫か?」

「はい、昔冒険者時代に一通りの素材は触れてますので。おかげで生剥のドレスなんて異名で呼ばれもしましたが」

「え? お前、冒険者だったの?」

「あら、言わなかったかしら?」


 いや、確か異名持ちは一流の証だったよな?

 これもしかしてあの男が誰か差し向けてもなんとかなったのではないか……。


「まぁ、それなら腕が確かなのもわかる。うん、それならば今後宜しくお願いしたい」


 話を聞きガード商会にお願いする事に決めた。そのあと娘のブラも紹介された。


 これまでドイル商会で働いていたが今日で辞めて当然仕事がないわけだが経理が得意なようなので丁度いい。魔導ギルドの経理をお願いすることにしたら喜んでいた。


 アレクトの経理はとても経理と呼べるものでなかったからな。アロイ草の採取を1束銅貨1枚で受けていたあたりから判ってはいたが。


 それにしても娘のブラは奥さん似で良かったな……黒髪が綺麗な美人な娘だった。


 さて、これでマジックバッグに関してはなんとかなりそうだ。後は剣や防具に関してだが――

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