第四十三話 ガード商会
「まさか、俺のゼーツンゲにそんな欠点があったなんてな……」
ハザンががっくりと肩を落とした。しかし此奴も使っていて気づかないもんか。疑問には思っていたようだが。
「ハザンさん、どんまいです! 人には向き不向きがありますからねぇ」
「え? あ、あぁ……」
アレクトは、今ので励ましてるつもりなのか? 明らかにハザンは戸惑っているぞ。
「ハザン、私に聞きたかったことというのはそれだけなのか? その武器が使えるか使えないかということが判ればそれでいいのか?」
重しを乗せたようにしょげているハザンに語りかける。欠点を知るのも大事だが、それをどう克服するか考える必要があるだろう。
「……いや、そうじゃないんだ。実は、俺もBランク冒険者になって結構経つんだが、その上のAランクにどうしても届く気がしなかったんだ」
ふむ、冒険者ランクはよくは知らんし興味もないが、己の強さに限界を感じてきたってところか。
「それで、勿論自分の実力もまだまだ未熟な点があったかもしれないが、武器を変えてみても見えてくるものがあるんじゃないかって思ったんだ。ただこの剣も折角苦労してダンジョン攻略して手に入れたものだから、中々決心がつかなくてな」
「ふん、物に愛着を持つことを悪いとは言わんが、自分にあってない武器を使用して怪我を負ったり死んでしまったら元も子もないだろう」
「あぁ、確かにそのとおりだ。だから、今ので決心がついた。それで、改めてお願いしたいんだ。俺にあった魔導武器を作ってくれないか?」
「――ほぉ」
中々興味深い話だ。この男は脳筋ではあるが、より活躍できる武器の作成か。
勿論、そんなものこの私に掛かれば造作もないことではあるがな。
「ふむ、別に受けてもかまわんぞ」
「本当か! 良かった。あ、勿論その分の金は支払うからな。こうみえて結構稼いでるんだぜ」
そう言ってニカっと笑う。ふむ、Bランクというのはそんなに稼げるのか。だが、冒険者ギルドは私にとってはあまり気分のいい組織ではないが。
とは言え、それと一個人との付き合いは別だからな。ただし。
「予算は後で聞くとして、一つだけ言っておくことがある」
「なんだ? 必要なものがあれば、なんなら俺が狩ってくるぞ!」
「そうではない。言っておく内容は作り手のことだ。その魔導武器について術式を構築するのは、ここにいるアレクトだ。アレクトにやらせる」
「うん? その嬢ちゃんがか?」
「へぇ~そうなんですかぁ。私が、わた、えええぇええええぇえ!」
アレクトがつま先を軽く持ち上げた状態から斜めに飛ぶように驚いた。うるさいな。
「何を驚いている? お前も魔導具の術式は構築出来るだろう。マジックバッグも、まだまだ拙いが作ってるのだし」
「で、でもぉ、私魔導武器は作ったことがぁ」
「そうか。良かったな。何事も挑戦だ。これでまた新しい術式を覚えられるぞ」
でも、でも、とアレクトが頭を抱えるが。
「私も教えはするが基本的なことはメイが教えてやってくれ。勿論マジックバッグと並行でな」
「承知いたしました」
メイは気持ちいいぐらい素直に応じてくれた。一方アレクトは泣き言を口にしているが、人間やればなんとかなる。
「え~と、本当に大丈夫なのかあの嬢ちゃんで?」
「不安になる気持ちもわからんでもないがな」
ただ、私もしっかり見ているから安心しろとは補足しておいた。
そこまで話した後、ハザンは、よろしく、と言い残し帰っていった。
私も、ちょっとフレンズ商会に顔を出しておきたかったし丁度良いか――。
◇◆◇
side???
「これはどういうことだガード!」
「も、申し訳ありません……」
魔導ギルドの件もあり、私は報告のためドイル商会に向かった。最初はニコニコしてどうだったどうだった? と聞いてきたが、私の話を聞くなり烈火のごとく怒り出し、怒鳴り、机の上に乗っていた灰皿を投げつけてきた。
私の頭に当たっても気に留めることもなく、頭を上げることなく罵詈罵倒の数々を背に受けた。棒状のものでも散々殴ってきた。
判っていた、この男はこういう男だと。だけど報告に来ないわけもにもいかない。より怒りを買うだけだからだ。
「ふぅふぅ……糞が! 使えない人間などゴミクズと変わらんのだからな!」
「も、もうしわけありません……その上で、大変心苦しいのですが、白金貨の件、なんとかなりませんでしょうか?」
「あん? お前は馬鹿か? なぜ私が使えもしないゴミクズの為に白金貨2500枚も工面する必要がある?」
「そ、そんな……そもそも、あの依頼書だって用意したのは」
「なんだ、悪いのは私だとでも言うつもりか?」
「……そ、そういうわけでは……」
「お前がやった失敗だ貴様でなんとかしろ。だが、こっちにもしっかり落とし前はつけてもらうぞ。そうだな、私にも同額の賠償金を支払え」
「……は?」
「聞こえなかったのか? 失敗の償いとして、私に白金貨2500枚支払えと言っているんだ」
「そ、そんな無茶な!」
「何が無茶なもんか。ふん、だが私も悪魔ではない。そうだな、10日ぐらいは待ってやる。その間に用意しておけ。当然だが私の前に魔導ギルドに支払うなんてことがあったら許さんぞ。それともし支払えなかったら貴様の店は当然うちのものだ。後は特別にうちで働かせてやってるお前の娘も奴隷として売り払って借金の足しにしないとな。お前の妻もそこそこ見れる顔だったから少しは足しになるか。お前は、ちょっとキツめの鉱山にでも出向させよう。うん、私は優しい男だ。借金が払えなかった相手に働き口まで用意するのだからな」
私は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。この男は冗談でこんなことは言わない。本気だ。本気で支払わなかったらこの非情とも言える仕打ちをやってのける。
「言っておくがもし妻や娘だけでも逃がそうと考えるならやめておくことだな。そんなことをすれば、期日関係なく行動に移させてもらう。私から逃げられるなんて思うなよ?」
なんてことだ、こんなやつの、こんなやつの口車に乗ったばかりに、一体どうしたら――
◇◆◇
sideエドソン
「また、厄介な相手に目をつけられましたね」
フレンズ商会にはブランドの件もあってきたわけだが、書類は既に用意されていた。仕事の早い男だ。
そして世間話ついでに、魔導ギルドに来たあの依頼についても話したわけだが。
「やはりアレクトを狙っていたドイル商会というのが関係しているのか?」
「十中八九。あの男は欲しいと決めたものはどんな手を使ってでも手に入れようとする男です。話を聞くにメイさんも狙われているかもしれません」
「だとしたら命知らずなことだ。メイを狙うなら軍隊レベルの兵力でもまだ足りんと言うのに」
「はは、あの見た目に反して、そこまでお強いとは恐れ入ります」
他の人間と違ってフレンズは否定から入ったりはしないのだな。メイの実力に関しても特に疑っている様子は感じられない。
「しかし、Bランク冒険者のハザンもドイル商会をあまり良くは思ってないようだったな」
「そうですね……あまり同業者のことは悪くは言いたくありませんが、ただあそこはやり方がかなり強引で」
「強引?」
「はい、ここ数年で大きくなったのは元から町にあった商会を次々自分の傘下に加えていったからです。しかしその後傘下に入った商店の質は下がり値段があがったりするのですが、それも契約書を盾に強引にやらせていたりするのです」
なるほど強引というのはそのあたりか。
「ところで、話を聞いていて思ったのですが、その依頼に来た方ですがこんな顔でしたか?」
フレンズが紙にスラスラと似顔絵を書いた。この男、絵が上手いな。
「あぁそうだ。この男だ」
「やはりそうですか……」
「知っているのか?」
「はい。ガード商会を営んでいる男です。装備品をメインに扱ってますね」
「私に求めてきたのは水虫の薬だったがな」
「それは恐らく魔導ギルドを陥れようとして選んだだけでしょうね。薬は扱ってない筈です」
「そうなのか。なら全く金にならんだろうに、どうするつもりなのか。白金貨2500枚」
「はは……あの、その件ですが、私に任せて頂いてもよろしいですか?」
「うん? 任す?」
それから私はフレンズに話を聞いたわけだが、なるほど。確かにその方が利点はあるかもな……。