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第三十九話 狩場と囮

「ギャァ~~~~~~食べられちゃいますぅ!」

 

 頭上から迫るショクヨークに、アレクトが情けない悲鳴を上げた。お前、一応魔法使えるだろうに……。


 ショクヨークは口が異様に大きいのが特徴の魔物でもあり、その口からは3本の舌が伸び始めていた。


 あの魔物はあの舌を上手く使って獲物を掴まえ捕食する。このまま黙っていればアレクトもあの舌の餌食になるだろう。


 しかし、ここで見捨てても寝覚めが悪い。仕方ないな。

 

「おい、お前の好物はこっちだぞ!」


 私は敢えて目立つように声を上げ、ショクヨークに向けて歩みを進めた。私の姿を認識した途端、魔物は巨大な翼を一振りし、軌道を変えて私に向かってきた。


「狙い通りだ」


 私はマイフルを構え、照準をショクヨークの口に合わせた。大きく口を広げたところで指に力を込める。


 射出された弾丸は口の中に飛び込み、上顎を貫いて僅かばかりの脳髄を蹂躙し、頭蓋に穴を開けて抜けていった。


 結局私を襲う前に命を絶たれた魔物は頭上を通り過ぎ、そのまま地面に墜落、土煙を上げながら地面を滑り直に止まった。


「ほぇ~……」


 腰が抜けて地面に尻をつけていたアレクトが、顔だけをこちらに向けて間の抜けた顔と声で反応した。まじまじと私が撃ち殺したショクヨークを眺めているが。


「しししし、しぇえええぇええ!」

「やかましい!」


 急に奇声を上げるな奇声を。


「いいい、一体何があっとんでしゅか! 意味がわかりません!」


 また噛んでるし、狼狽え方も残念だ。


「いや、わかれよ。前も見せただろ? これで仕留めたんだよ」

「で、でもそれって煙を出す杖ですよね?」

「違う! それに杖じゃない。お前に貸したリボルバーと一緒で弾丸によって効果の変わる魔導武器だ」

「ほえぇええ、もしかしてエドソンくんって凄いお子様だったのですかぁ?」

「アレクト様、気づくのが遅いかと」


 メイが若干呆れ顔にも見える。尤も私は当たり前のことをしているだけで特段凄いと言われるようなことはしていない。


「う~ん、でもどうして途中で狙いを変えたのかなぁ?」

「ショクヨークは特に子どもの肉が好きだからだ。腹立たしいが私の見た目ならこっちに来ると思った」

「なるほど、それでお子ちゃまの方へ、でもとんでもない魔物ですねぇ」

「だが、そのおかげでお前は助かった、て頭を撫でるな!」


 よしよし、と何故か頭を撫でてきたから振りほどいた。残念そうな顔をするな残念そうな顔を。


「でも一撃で仕留めるなんてすごいねぇ……どんな効果だったんですかぁ?」

「これはDK弾だ。ダマスカスといえば判るだろ? それで作った弾丸だよ。あまり複雑な魔法効果は付与できないが、単純な威力ならこの方が高い」


 魔法耐性の高い相手などにも有効な弾丸だ。今回は出来るだけ傷つけずに速やかに倒したかったのでこれを使用した。


「うむ、中々いい状態で仕留められたな。これはマジックバッグのいい材料になるぞ」

「え! これがですか?」

「そうだ。ショクヨークは食欲旺盛な魔物で、胃の伸縮性が高い。マジックバッグの素材にピッタリだ。その上、ショクヨークは拡張しても更に食い続け入り切らない分は無意識で胃の仮想領域を作り溜め込む性質がある。これはつまり空間系の魔法に適応出来るということで、魔核が役立つ」


 マジックバッグは空間に作用する術式を構築し作成する。本来効果を大きくしたいならこの程度じゃ力不足だが、容量1000kg程度のマジックバッグであればこれで十分事足りる。


 つまりこのショクヨーク一つで主要な素材が手に入ってしまうわけだ。


「ほぇ~魔草を採りに来ただけなのにこんな素材が手に入るなんてタナボタですねぇ」


 タナボタか……ちなみにこれは有名な逸話の一つで、ある村にタナトルという青年がいて、村一番の美少女を想い続けていた。そんなある日、一大決心で彼女に告白を試みたが緊張のあまり告白しようと駆け寄った拍子に転んでしまった上、その手が彼女の服のボタンに引っかかり弾けとんでしまい、その豊満な胸が顕になってしまった。しかし、それにより責任を取らされることになったタナトルは見事彼女と結婚できたとそういう話だ。そこから思わぬ幸運が舞い込んだときにこう言われるようになったわけだ。


 ちなみに元の呼び方は『タナトルが村一番の美少女に告白しようとしたら、転んだ拍子に彼女のボタンがはじけ、胸もはだけ、もうオワタ!と思ったら何故か責任取らされて結婚できた件』だったな。あまりに長いのでタナボタと略される事になった。


 と、そんなとりとめのないことを思いつつ。


「言っておくがこれはタナボタでもなんでもないぞ。最初から判っていたことだ」

「ふぇ? 判っていたのですかぁ?」

「そうだ。エスイッヒは山の頂上付近に生える。それを狙う人間はショクヨークにとって格好の餌だ。だからショクヨークはエスイッヒが生えてる場所の周辺を縄張りにする性質がある」

「えぇ! それじゃあやっぱりここは危険だったのですねぇ!」

「あぁ、ここは絶好の狩場だ!」

「……え~とぉ」

 

 ん? 何かアレクトが不可思議といった顔をしているぞ。そもそもここが危険って、一体どこがだ。全く、大体お前が作る魔導具の為にやってることだというのに。


「とにかく、そういうわけだから、ここで暫く狩るぞ」

「え? あのエスイッヒは?」

「馬鹿か。お前、話を聞いていなかったのか? 重要なのはここで手に入る素材、つまりショクヨークだ。エスイッヒなんてものはおまけにすぎん」

「え~……」


 なんだその残念な物を見るような目は。お前にだけはそんな目を向けられたくないぞ。


「とにかく作戦を言うぞ。先ずお前がエスイッヒの前で適当に彷徨け。いつもみたいに馬鹿っぽくうろちょろしてればいい」

「馬鹿っぽくって酷いですぅ! 大体それに何か意味があるのですがぁ?」

「ある。ショクヨークがお前を襲う」

「まさかの生き餌! 酷いですぅ! 大体相手が子ども好きならエドソンくんが囮になればいいじゃないですかぁ」

「馬鹿かお前は? 私が囮になったら誰がアレを仕留めるんだ」

「私がぁ」

「無理だ」

「うぅ、ならメイさんが……」

「使えないこともありませんがマイフルに関しては、ご主人様の方が腕が遥かに良いのです」

「そういうことだ」


 まぁ実際は私が囮になってもやってきたのをすぐ仕留める自信があるが、私がそれをやりすぎると魔物が警戒を強める可能性がある。一方こいつは見た目全く強そうに見えず警戒心も弱く、チョロそうだからな。警戒心なんて持たんだろう。


「私の腕は間違いない。心配するな」

「それでもし私が食べられたらどうするんですかぁ」

「黙祷ぐらい捧げてやる」

「それだけ!?」


 それからもブツブツ言っていたが、いざとなったらメイが必ず守るという話になって納得した。私が信じられないのにメイなら信じるのかこいつは。


「ケエエエェエエエェエエエ!」

「どっひぇええぇええッ!?」

「ケェエエエエエェエエェエエエエエ!」

「ひゃぁああぁあああッ!?」

「ケェエエエエエエェエエエエェエ!」

「あぴょぉおおぉおおッ!?」


 あれからショクヨークが面白いようにつれた。そしてアレクトは何度でも同じように素っ頓狂な声を上げて何度でもひっくり返った。しかも振りではなく素でだ。いい加減慣れろと思わなくもないが、そのおかげで全くショクヨークが警戒しないところを見るとこれも一種の才能ではないかと思えてくる。


「ううぅうう、驚き疲れましたぁ。まだやるんですかぁ?」

「そうだな、ま、50匹は狩れたしとりあえずはいいだろう」

「そんなに狩れてたんですか!」

 

 まだまだ狩れないこともないが、しかし周辺にはもうショクヨークがいない。狩り尽くしたか。魔物は時間が経てばまた生まれるがな。


「さて、ついでにエスイッヒを採取するか」

「何かついでと目的が入れ替わってるような……」


 何を言っているのか。元から目的はこっちだというのに。


 とにかく、エスイッヒに近付こうとした私たちだったが。


「うおおおぉおおぉお! ついたぞ頂上! おい! 大丈夫かエドソン!」


 何か大声を上げながら暑苦しい男が猛ダッシュでやってきた。うむ、誰だったかこの男は?

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