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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第一章 フォード領編

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第三十五話 首謀者はアイツ

「でも、本当に大丈夫でしょうかぁ? 冒険者ギルドの折角の好意を断ってしまってぇ」


 冒険者ギルドからの帰り道、アレクトがそんなことを口にし眉を落とした。


 やれやれ本当に呆れたやつだ。


「お前は本当に馬鹿だな」

「な、なんでですかぁ。もうエドソンくんはお子様なのに口が悪すぎませんか?」

「ですが私はそんなご主人様も大好きです」

「え~~~~」


 アレクトが大げさに驚く。メイの言っている意味は主従としての意味合いでしかないのだけどな。


「アレクト、一ついいことを教えてやろう」

「なんですかぁ?」

「お前を借金漬けにした件、あれの首謀者はあのドルベルだ」

「へぇ、そうなんですねぇ、て! ええええぇえええぇええええ!?」


 素っ頓狂な声を上げて、おかしな構えで飛び上がりアレクトが驚愕した。いちいち大げさな奴だ。


「で、でもどうしてですかぁ? あの人、借金が不当なことも認めてくれたし、報酬もしっかりいただきましたよ?」

「はぁ、お前は一応は魔導ギルドの管理者だろ? 立場的にはマスターなんだからもっとしっかりしろよ」

「ふぇ? 私、マスターなんかじゃないですよぉ?」

「は?」


 アレクトの発言に今度は私の方が間の抜けた声を発してしまった。違うのか?


「じゃあマスターは他にいるのか?」

「はい、今はちょっと留守にしてますけどいますよぉ。私はマスターがいない間の留守番を任されてるんです」


 そうだったのか……だが納得はいった。この女にマスターは流石に無理がある。


「どうでもいいが、あんた留守番任されていたのに魔導具の権利を勝手に借金の支払いに当ててよかったのか?」

「それなら問題ないです。あの権利は全部、元々私のですからぁ」


 ロートの問いかけにアレクトが答える。それは私も判っていた。権利を売る契約書にはこいつ個人の名前が記されていたからな。魔導ギルドの所有する権利ならギルドとしての取引となるだろう。


 実際購入する形をとった冒険者ギルドはギルド名と承認者としてあのマスターの名前があった。


「そのマスターはいつごろ戻られる予定なのですか?」

「わからないですぅ。4年前に出ていったっきり戻ってくる様子はないので」

「……それ、無事なのか?」

「時折、手紙は届くのでぇ。それにマスターは昔から割と適当でしたからぁ」

 

 そうなのか。しかしこの女に任せて4年以上とか無謀もいいとこだろ。よくこれまで潰れなかったなと不思議に思うほどだ。


 正直、エルフからしたら4年など大した時間ではないが、人間からすればそれなりのものだろうに。


「ところで坊主、今言っていたことは間違いないのか?」

 

 ロートからの問いかけ。その意味はあのギルドマスターが本当に首謀者なのかってことだろう。


「間違いないだろう。もしこれが着服だけなら、あのフログが勝手にやった可能性もあったが、魔導具を買い取る契約書はドルベルがしっかり承認している。つまりあいつは魔導具が売却されることも含めて知っていたということだ。だからこそ前もって契約書を持参してもいたのだろう。アレも含めてあの男は用意が良すぎた。契約書は勿論、借用書、それに報酬も渡すつもりでいたのだろう。フログと我々の会話を見ていて必要になるものは用意していたのだろうさ」

 

 それにあの男は最初フログに対して無様と言った。あの言葉はただ不正を知っただけで掛ける言葉としては違和感がある。だが失態をおかした相手にということなら得心がいく。


「でも、そうだとしてもしっかりお金を取り戻せてよかったですね」

「馬鹿かお前は。魔導具の権利があればあれ以上の稼ぎがあった可能性だってあるだろう」

 

 私からすればあんなものに価値があるのかといった思いもあるが、あのマジックバッグでも金貨500枚もの値がつくぐらいだしな。


「そういえば嬢ちゃんはどんな魔導具を扱っていたんだ?」

「え~と、例えば魔法の薬研なんかは私の作った物ですねぇ」

「おお! あれは嬢ちゃんが作ったのか! なんとまぁ、頼りない嬢ちゃんだとは思ったが……いや、あれには世話になってるよ」


 なんでもすり潰した薬草や魔薬の量がひと目で判るようになっている薬研なのだとか。


 私ならむしろ薬をすりつぶす作業そのものを自動化させるがな。


「あぁ、でも最近少し調子が悪いんだ。見てもらうことは可能かい?」

「はい! お持ち頂ければ!」

「お前、見るのはいいが、権利を売ってしまった以上お金はとれないぞ?」

「え? 元々取るつもりありませんから問題ないですよぉ」

「いや、流石にそれは悪い気がするな」


 アレクトは商売が下手そうだな。だからこそ権利に頓着がないのかもしれないが。


「そうだ、この際だから今後、うちは魔草を魔導ギルドから仕入れるとしよう。そのための依頼も勿論出させてもらう」

「いいのか? 冒険者ギルドに目をつけられることになるかもしれんぞ?」

「構わんさ。それにアロイ草があの状態で手に入るなら他の魔草にも期待が持てる」

「それはありがたい申し出だな。勿論受けるだろ?」

「は、はい! ありがとうございます!」


 これで冒険者ギルドを通さなくても魔草採取の仕事が入ってくるな。


「そうだ、これ約束の魔草」

「おおおおぉおお! こ、これはまさに伝説のカンブリアリリリー!」


 腕輪から出した鉢植えを渡すと、ロートが小躍りして喜んだ。実は冒険者ギルドまでついてきてもらう為にこれを一つ上げる約束をしていたのだ。


「しかし、こんなものがそんなに嬉しいのか?」

「当然じゃ! もうとっくに絶滅した古代種とされていたからな!」


 絶滅? エルフの森にいくらでも生えてたものだぞ。私の屋敷にも沢山生えてるし。


「ふぁ~最高じゃ~まさか生きている間に拝める日がくるとは」

「喜んでくれたなら何よりだ」

「うむ! よし、こうなったらわしから他の仲間にも呼びかけておこう! 魔草採取を魔導ギルドに回せるようにな!」

 

 そして私たちはロートと別れた。必要な魔草をチェックして後日依頼は出してもらえそうだな。


「それでは私たちはどうしましょうかぁ?」

「一旦魔導ギルドへ行こう。そこでお前の作った魔導具を見せてもらう」

「え? 私のですか? 別に構いませんがぁ」


 そして私たちはアレクトのギルドまで戻り、そしてこの女が作ったという魔導具を確認する。


「ふむ……」

「あの、どうですかぁ?」

「全然駄目だな。材料の使い方もなってないし術式の構築も甘い。パッとみただけで20箇所以上修正すべき点があったぞ」

「はぅ! お子様にここまで言われるなんてぇ……」

「アレクト様、ご主人様は見た目こそ子どもですが、魔導具づくりに関しては天才です。そのご主人様からみて修正点が20箇所以上程度なら誇ってもよろしいですよ」

「ふん、流石にそれはいいすぎだぞメイ。だが、これなら教えれば多少は使い物になるか」

「え? お、教える?」

 

 アレクトがキョトンとしているが、マスターが別にいるにしても今このギルドにいる魔術師はこの女だけだしな。


「お前には販売用の魔導具を作ってもらう」

「え? でも、権利はもう売ってしまって……」

「それはお前の持っていた権利だろ? 安心しろ。あの程度失ったところで痛くないほどにこの魔導ギルドには成長してもらう。そのための第一歩としてお前には先ずマジックバッグを作ってもらおう」

「え? ま、マジックバッグって、前に話していたあのマジックバッグですかぁ~~~~~~!」






◇◆◇

sideドルベル


「マスター、ドイル商会のムーラン様がお見えに」

「判った。今行く」


 もうやって来たか。全くこういうときは早い男だ。


 仕方ない、私が下に降りると絵に描いたように不機嫌そうなムーランが立っていた。


「話は聞いたぞ。どういうことだ失敗したとは!」

「もうしわけありませんな。フログが少々暴走してしまいこのような結果に。勿論あの男にはそれ相応の責任を取らせましょう」

「あの男のことなどどうでもいい! アレクトとあのガキの側にいたメイが手に入るよう動けと言っておいただろう!」

「……残念ですがメイという女に関しては私は聞き及んでおりません。アレクトに関してもどうもフログが勝手に引き受けてしまったようで、ギルドとしては何も判ってないのですよ」

「な、なんだと!」

 

 ムーランが目を剥き地団駄を踏んだ。やれやれ落ち着きのない男だ。


「私がお前たちのギルドにどれだけ世話してやっているか! 忘れたわけではあるまいな!」

「勿論ですムーラン殿。ですからせめてものお詫びに、ある情報をお伝えしましょう。それをどうするかは貴方の自由です」

「そんなもので私が納得すると思っているのか!」

「ですのでもう一点。今度うちにも新しい受付嬢が入ってくる予定になっております。折を見てその新人を挨拶に(・・・)向かわせますよ」

「ふん、新人か……だがそんな受付嬢など!」

「その受付嬢ですが、実は例の孤児院育ちでしてね。気に入って頂けるとは思うのですが」

「例の、孤児院だと?」

 

 散々文句を言っていたムーランの動きが止まった。そして一考しニヤリと笑みを浮かべる。


「ふん、ま、そういうことならな。だが、アレクトのこともやはりな」

「ですので、この情報です。上手く扱えれば――」

「ほう、それは、面白いではないか――」


 話を聞き、最後は満足げに去っていった。全くわかりやすい男だ。おかげで御しやすいわけだが。


「マスター、ところでフログの処遇はどういたしますか?」

「あぁ、そうだな。耐えられるか判らないが、アレに回してみるか」

「わかりました、ではそのように……」


 これでとりあえずの面倒事は片付いた。しかしあの小僧、随分と偉そうなことを言っていたが、あんな潰れる寸前のギルドに何が出来るものか――

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして、こんにちは。 明るくコミカルで、肩ひじ張らずに読めて、楽しませていただいております。 ありがとうございます。
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