表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第一章 フォード領編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/316

第三十三話 追い詰められたフログ

 日記帳を持ち去る受付嬢を憎々しげに見ていたフログだが、そのまま別な帳面に手を付けた。


「くそ、なんてやつだ! とにかく次だ!」


 そしてフログが次々とページを指摘していくが、メイはどのページの内容も事細かに答えていった。


「ば、馬鹿な、こんな馬鹿なことが……」

「ちなみに、今持たれてるその記録簿の23ページと56ページと88ページに誤字が、また55ページの計算にミスがあります」

「な、なんだと?」


 フログがペラペラと捲っていき内容を確認した。


「くっ、確かに……」


 顔を歪め、悔しそうにつぶやく。まさか間違いまで指摘されるとは思わなかったことだろう。


「ふん、これはもうお主の負けじゃな。その子の記憶力は完璧じゃよ」


 ロートの後押しもあり、これでメイの記憶力に疑う余地などないはずだと判っただろう。


「……なるほど。なるほどなるほどなるほど! 素晴らしい! だが、それは逆に証明してしまうかもなぁ」

「証明だと?」

「そうだ。さぁメイと言ったか? 答えてみろ。この記録簿の中に、そこの女、アレクトの名前はあったか?」


 アレクトの名前か……あったかだと?


「どうなんだメイ?」

「……それは、ありませんでした」


 無かった? どういうことだ?


「おい、以前アレクトが持ってきたアロイ草も査定したのだろう?」

「あぁしたさ。だが、言っただろう? 査定は通らなかったと。つまりその分は商品としても扱えない分、故に報酬も発生しない。である以上、わざわざ記録に残す必要もない!」

「なんだと? 馬鹿を言うな! 貴様らは借金だけはしっかり残しているだろうが!」

「それはそれ、今回の件と借金はまた別の話だ。ここにあるのはギルドで発生した仕事の案件がメイン。ギルドのメンバーでもない女が、しかも失敗したアロイ草の記録など残しておく必要もないのさ!」


 勝ち誇ったように笑う。腹の立つ男だ。だが、私も最悪そうくる可能性は読んでいた。勿論アレクトの名前が残っていない可能性も。


 だがな……。


「なるほど。つまり貴様はこう言いたいのだな? アレクトが持ってきたアロイ草は商品にならないほど酷いと。ならば聞くがお前たちはその酷い状態のアロイ草をどうしたんだ?」

「は? そんなもの廃棄したに決まってるだろう? とても売り物になどならない状態だったのだからな」


 よし、しっかりとこの耳で聞いたぞ。こいつは確かに今、廃棄したと言った。


「メイ、この男はこう言っているが実際はどうだったんだ?」

「はいご主人様。確かにアレクト様の名前はこの中にはありませんでしたが、奇妙な点ならございました」

「き、奇妙な点だと? はは、何を馬鹿な」

「アルクト」

「ギクッ!」


 メイがその名前を発すると、フログがぎくりとした顔を見せた。


「その名前がどうかしたのか?」

「はい。これは記録簿の中に残された冒険者の名前ですが、奇妙なことにこの冒険者はこれまでアロイ草の採取しか依頼をこなしていないのです」

「ほぅ、それはなかなかに興味深いな」

「そ、それの何がおかしい! 別に魔草採取しかやってない冒険者がいてもおかしくないだろう!」

「しかし他にそのような冒険者はいませんが?」

「だからどうした。一人だけそんな変わり者がいるんだよ!」


 急に必死になったな。それにしてもずっと思っていたがこのフログという男は見ててなんともわかりやすい。


「メイ、そのアルクトという冒険者はこれまでどの程度のアロイ草を採取してきたんだ?」

「記録ではこの冒険者はこれまでアロイ草を5585束採取していますね。全て承認されております」

「アレクト、この数に記憶はないか?」

「え? え~と、え~と……あ! そういえば私がこれまで採取してきた数に近い、いや同じ? え~とそんな感じですぅ」

「やはりな」

「な、何がやはりだ何が!」


 ブログの狼狽えぶりが見ていて滑稽だな。


「その記録はどれだメイ?」

「ま、待て!」

「こちらです」


 フログが手を伸ばすがいち早くメイが記録簿の山の中から目的の物を取り出し、私たちに該当のページを見せてくれた。


「ふむふむ、なるほどなるほど。はは、アルクトか、これは面白い」

「何が面白いのですかぁ?」

「いいから見てみろ。お前、この文字に記憶ないか?」

「だから待てと言ってるだろう! それはギルドの重要な機密情報だ! 軽々しく見て良いもんじゃない!」

「今更何を言っておる? お前が見て良いと持ってきたものじゃろうが」

「ぐ、ぐぎぎぎぎ!」


 両手を握りしめぎりぎりと歯を食いしばる。ロートの言うとおりだ。この量なら内容など確認できるわけがないと最初は高をくくっていて、読んだら読んだでアレクトの名前がなければ気づかないと思ったのだろうがいろいろと詰めが甘い。


「え~と……」


 すると該当箇所を読んだアレクトがコテンっと首を傾げ。


「なんだか私の文字に似てます。不思議ですねぇ~」

「お前、そこまで判って出た感想がそれか……」

「なんとも残念な娘さんじゃな。胸はおっきいというのに」


 爺さん、年の割にしっかりそういうところはチェックしてたんだな……。


「アレクト様、ではこの線を1本隠してみてはどうですか?」

「え? あ! これ私の字だよ!」

「だそうだが?」

「な、何がだ! 一体何がいいたいんだ貴様らは!」

「なんだそこまで言わせるのか? 全く仕方のないやつだ。いいか? この記録簿に閉じられている依頼書、受注欄にアルクトと明記されているこれは元はアレクトが記入した依頼書だということだ。それを後から書き足してアルクトにしたのだろう? 全くこれには流石に驚いたぞ。まさかこんな杜撰なやり方で本当にごまかせると思ったのか?」

「だ、黙れ黙れ! 一体何の根拠があって!」

「銅貨1枚と青銅貨1枚」

「な!」

「はは、お前の反応を見ているのは面白いな。この依頼書には1束あたりの報酬が青銅貨1枚になっている。お前たちの誰か答えてくれ、普段アロイ草の報酬は青銅貨1枚であっているか?」

「うん? あぁ確かにそれであってるがそれがどうかしたのか?」

「いや、それが判ればいい。ありがとう」


 答えてくれた冒険者にお礼を述べ、再びフログに顔を向けるとものすごい形相を答えた冒険者に向けていた。


「え~と、つまりどういうことですかぁ?」

「アレクト、お前は本当にポンコツだな……」

「ひ、酷いですぅ!」


 目をうるうるさせてるけど、そこは気づけよと。


「アレクト様、つまり本来ならアロイ草1束で青銅貨1枚の報酬が与えられるはずが、貴方には銅貨1枚しか提示されていなかったということです」

「そういうことだ。本来で言えば、今回の報酬だって青銅貨2万枚にはなる話なんだよ」

「え! 青銅貨って銅貨10枚分じゃないですか!」

「凄いな。それは判るんだな」

「それぐらい当たり前ですぅ、馬鹿にしないでくださぁ~い!」


 いや、今までのポンコツぶりを考えるとわからなくても不思議ではないと本気で思ったのだけどな。


「てか、何あの子、銅貨1枚でこの依頼を請けてたのか?」

「マジかよ……1束銅貨1枚ってよくそんな仕事引き受けたな……」

「子どものお使い程度でももっと貰えそうなもんだが……」


 そして段々と冒険者の同情が集まってきた。主にアレクトに対してだ。


「い、いい加減にしろ! まるで私が不正を行っているようではないか!」

「いるようじゃなくて行っているのだろう?」

「黙れ黙れ! そんな文字、たまたま似ているのが他にいただけだ! 何の根拠にもならん!」

「ですが、冒険者名簿にアルクトという名前の冒険者は載っていません。これはどう説明されるおつもりですか?」

「は? ぼ、冒険者名簿だと?」

「はい、こちらです」


 メイが冒険者名簿を掲げてみせた。フログの目が大きく見開かれ、受付嬢を見回すようにし怒鳴る。


「貴様らどういうつもりだ! なぜ冒険者名簿がここにあるのだ!」

「え? ですが、フログ職長が関係資料を全て持ってこいと……」

「黙れ黙れ! そんなもの記録簿だけ持ってくればいい話だろうが! どいつもこいつも馬鹿ばっかりか! お前ら全員奴隷に堕ちてしまえ!」


 今の一言で場が静まり返った。受付嬢の目が総じて冷たい。あ~あ、よりによって奴隷になどと口走るとは、これで少なくとも受付嬢は敵に回したな。


「全くお前は酷い男だな。受付嬢だって真面目に仕事をしているだけだというのに」

「こう言ってはなんですが最低なクソ野郎ですね」

「メイさん、結構辛辣ですぅ……」

「だがその蔑むような目がえぇ!」


 爺さん年を考えよう……いや、よく考えたら私の方が年上だった!


「さて、話を本筋に戻そうか。この通り名簿にも名前がないわけだが、これでもまだ言い返すことがあるか?」

「ふ、ふん! 言い返すも何も、アルクトという冒険者は最近辞めたのだ! だから名簿に……」

「え~? 私アルクトなんて名前の冒険者知りませ~ん」

「な、だ、黙れ! 口を挟むな!」


 受付嬢の一人が教えてくれた。さっきので本気で受付嬢敵にまわしてんだなこいつ。


「どちらにせよ、その言い訳は苦しいでしょう。もし本当に辞めたのなら届け出が出てるはずです。他の冒険者がそうですから」

「ふん、うちの受付嬢は揃いも揃って馬鹿ばっかりだからな! きっと処理し忘れたんだろう!」


 うわ、最低だなこいつ。さっきのを根に持ってるのか、開き直ったのか、受付嬢を自ら貶めだしたぞ。


「どちらにしろ無理があるな。処理を忘れてるならこの名簿に残ってる筈なのだから」

「うぐ、そ、それはこの馬鹿どもが名簿から消した上で辞めた際の書類手続きを忘れたんだよ!」


 遠くでヒソヒソ話してるぞその受付嬢たちが。軽蔑の目が凄いぞ。


「とにかく! こんなもので私を追い詰めたつもりなら大きな間違いだぞ」

「あぁ、その話だが、言っておくがお前、とっくに詰んでるぞ。もう随分前の段階でチェックメイトだ」

「……は?」


 フログが間の抜けた声で返事してきた。全く意味がわかってないといった表情だな。


「全く無様だなフログよ」

「え? あ、ま、マスターーーー!」


 すると、頭上から声が落ちてきた。何かと思って顔を向けると、フログが驚きの声を上げ、なんとも厳かな雰囲気のある男が2階から降りてきたわけだが――

ちなみに異世界語にすると

「V」これが「レ」

「/V」これが「ル」です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ