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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第一章 フォード領編

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第三十二話 追い風

「それで、結果はどうだった?」


 戻ってきたフログに早速確認してみた。フログは明らかに面白くなさそうな顔で私を見ると査定結果を伝えてきた。


「再確認を取ったが、今回持ってきたアロイ草は全て引き取るという結果になった。良かったな」

 

 ここにきてまだそんな上から目線で来るとはな。本当に今の立場というものを理解して――


「やった! 凄いエドソンくんってばぁ! 今まで一度も認められなかった採取を認めさせたよぉ!」

「は? て、おい!」


 こいつ、後ろから突然私を抱きしめて、何か柔らかいものが頭に、いやそうじゃない!


「おま、離れろ!」

「きゃ! な、何するんですかぁ~」


 私が払いのけると、アレクトは目をうるうるさせて不満そうにしていた。こいつ、本当にこんなことで喜んでいるのか?


 そして何故か側では両手を広げたメイが立っていた。いや、何をしている?


「…………しゅん」


 しゅんとしたぞ! どうしたメイ! 


「ふん、どうでもいいが、馬鹿騒ぎはギルドを出てからにしてくれよ。それと今回の報酬は借金の返済に回しておくぞ。じゃあな」

「待て! まだ話は終わってないぞ!」


 ちゃっかりこの場から離れようとするフログに言葉をぶつけた。こんなことで話を打ち切られてたまるか。


「ふぇ? まだ何かあるんですかぁ~?」

「お前は……今の話を聞いて何も思わんのか!」

「はい、おかげさまで借金が減りました。嬉しいですぅ」

「……わしこの子のことよう知らんが、これで本当に魔導ギルドの責任者なのか?」

「信じられないかもしれないが本当の話だ。見ての通りかなりのポンコツだがな」

「酷い!」


 全然酷くないぞ。初対面の薬師にポンコツだと見抜かれるぐらいなんだからな!


「全くこれ以上何があるというのだ? こうみえて私は忙しいのだぞ」

「そうは見えんがな。とにかく、不満はさっきお前が口にした借金のことだ」

 

 私が指摘するとあからさまに嫌そうな顔を見せ。


「なんだ? まさか全部を借金返済にまわすのはやめてくれとでも言うつもりか? 図々しい奴らだ。少し依頼が成功したからといってすぐ調子に乗るのだからな。言っておくが貴様らの借金は今回のことぐらいじゃ何の足しにもならんほど膨れ上がっているのだぞ。それを少しは考えろ」


 全く、よくもいけしゃあしゃあとそんなことが言えたものだ。


「私が言いたいのはそんなことじゃない。そもそもその借金からして納得がいってないのだからな」

「なんだまだそんなことを言っているのか? 何を言われようと契約書がある以上だな」

「契約書のことはこの話と関係ない。問題なのは今回のようなことがこれまでもあった可能性の話だ」

「は? 今回のようなことだと?」

「そうだ。何せお前たちは私たちが持ち込んだ2万束ものアロイ草を一旦は全て引き取れないと判断したのだ。しかし、今回ロート氏の立ち会いもあって手のひらを返したように全て引き取ると言いだした。そんなことを平気でやるギルドだ。当然以前この女が採取した分の魔草も本当は何一つ問題が無かった可能性がある。いや、むしろその可能性の方が高いとさえ私はみているのだ」


 私が指摘すると、顔を歪め、忌々しげに私を見てきた。


「勝手なことを……いいか、猿も木から落ちるように、ギルドだって時には多少のミスをすることだってある!」

「お前らにとって2万束ものアロイ草の鑑定をミスすることが多少なのか?」


 ロートの指摘を受け、フログがぐぅと唸った。


「そういうことだ。1本2本のミスなら些細な話でも済むのだろうが、数が2万だ。そんなものもはや簡単なミスで済む話ではないだろう」

「だ、黙れ黙れ! 何を言われようとその女が採取したアロイ草は査定の結果不適当とされたのだ! その結果は覆らんぞ!」

「ならば証明してもらおうか」

「しょ、証明だと?」


 フログが目を丸くさせるが、さぁここからだ。


「そうだ。そこまで言うのならお前たちが査定した結果を見せてみろ。当然あるのだろ? 査定した記録が。保存していないとは言わせないぞ。ギルドにはそれを保存する義務がある」

 

 これは冒険者ギルドでも商業ギルドでもあらゆるギルドで共通していることだ。紛失したなどの言い訳もしてやしないだろう。そんなことが発覚すれば後々面倒なことになるのはわかりきっているからだ。


「……そんなもの、貴様らに見せる義務はない!」

「それは筋が通らんだろう。これだけの間違いをおかしておいて、これまでの査定を信じろという方が無理な話じゃ」

「だ、黙れ! 何を言おうと過去の査定が覆ることはないし記録も見せたりしない!」

「そんなこと言わず見せてやれよ」

「……何?」


 声は私たちのものではなかった。私たちの後方、そう、遠巻きから我々とこのフログとのやり取りを見ていた冒険者から発せられたものだ。


「さっきから聞いてれば、どう考えてもそこの連中の言い分の方が正しいだろう」

「大体2万束も間違うとかあり得る?」

「何か子ども相手に大人気ないしね」

「不正がないなら堂々と記録簿を見せてやればいいだけの話だろ?」

「そうだそうだ! 見せてやれよ!」

「な、な……」


 フログが驚きに目を丸くさせていた。そして私からしても以外な流れだった。まさか残ってる冒険者が擁護してくれるなんてね。


 どうやら冒険者の中にも良識のある者はいるようだな。全員が全員チンピラみたいな連中ではないということだ。


 さて、これはいい感じに追い風になったな。フログはどうする? また脂汗がダラダラとこぼれ落ちているが――


「待てよ――」

 

 直後、何かを思いついたようにフログが目を丸くさせた。


「ふふ、そうだな。判った記録簿を持ってきてやろう。ちょっと待っていろ」

「おお、やったな!」

「まったくだやるじゃねぇか坊主」

「本当、こんなにかわいらしい子どもなのにあのカエル野郎に一泡吹かせるなんて大したもんだよ」


 すると何人かの冒険者がやってきて背中を叩いたりしながら嬉しそうに私たちを讃えてくれた。

 

 どうやら冒険者からもあの男は嫌われていたみたいだな。判らんでもないけど。


「でも、まさか私が採ってきたものが本当は大丈夫だったかもしれないなんて思いもよりませんでしたよぉ」

「全く、そんなことだからあんなわけのわからない借金を背負わせられたりするんだ。少しは相手を疑うことも覚えろ」

「うぅ、今回ばかりはぐぅの根もでないのです」


 ふむ、少しは堪えたようだな。そうでないと困る。今後もすぐ騙されるようじゃたまったものじゃないからな。


「随分と勝手なことばかり言ってくれてるようだな」

「「「「ゲッ! もう戻ってきた!」」」」

「戻ってきたら悪いのか? お前らの顔、しっかり覚えておくぞ」


 言われてそそくさと離れていく冒険者。一時は擁護に回ってもくれたが、個別に睨まれるのは出来れば避けたいといったところか。


「さて、お前たちの望み通り持ってきてやったぞ」


 すると他の受付嬢も引き連れてやってきたフログがカウンターにどんどんと記録簿とやらを置いていった。


 しかし分厚いな。未だに皮紙なんてものをメインに使っているからそうなる。植物の繊維から魔導で加工して作成すればこれよりもっと薄く小さく出来るというのに。


 今、それを言っても仕方ないがな。とにかくそんな無駄に分厚い帳面が何十冊と積み上げられていった。


「お、おいおい一体何冊あるんだ?」

「あれ、チェックだけで相当時間が掛かるわよ」

 

 カウンターにのる帳面の量に、見ていた冒険者が囁きあう。ふむ、そんなにもか。


「さぁこれで全部だ。言っておくがお前たちが我々の査定が信用出来ないと言い出したのだからな。お前たちでしっかり調べろよ」


 つまりギルドの連中は一切手を貸さないといいたいらしい。


「やれやれ、これは随分と手間取りそうじゃな。仕方ない、一旦借りて持ち帰ったらどうかな?」

「おっと、冗談はよしてくださいよ。これはうちの大事な資料でもある。貸し出すなんて無理だし、見せられる時間にも限りがある」

「限りと言うとどれぐらいだ?」

「ま、1時間といったところか」

「え! これを1時間!?」

「馬鹿言うな! そんなもの無理に決まってるだろう!」


 話を聞いてロートが抗議してくれたが、フログは得意気にそれでいて不敵な笑みを浮かべて言った。


「そう言われてもねぇ。こっちにも事情があるのだからそれ以上というのはちょっとねぇ。大体そっちから言ってきたことなのだから」

「ロート氏、気にしなくていい。何、1時間もあれば十分だ」

「……は? 何だと?」

「さっさと済ませてしまおう。メイ頼んだぞ」

「はいご主人様」


 メイがカウンターから記録簿を取り、パラパラパラと捲っていた。いや、正確に言えばシャシャシャかもしれない。恐らく周りからは何をしているかわかってないだろう。それぐらいの速さだ。


 そして1冊に1秒もかかることなく、次々と手に取り捲っていく。結果、1分とかかることなく全てのチェックが終わった。


「確認完了致しました」

「……は、はは、これはお笑い草だ! まさか今のでチェックしたとでも宣う気か! 全く愚かな連中だ!」

 

 すると案の定フログが文句と付けてきた。ま、予想は出来たけど。


「でたらめでも何でもないぞ。今のでメイは全て完璧に把握した」

「でたらめをいうな! そんなこと不可能だ! 貴様らの魂胆は判っているぞ! 見てもいないのに見たと言って文句をつけてくる気なんだろ。全くとんだクレーマーがいたもんだ!」

 

 クレーマーと来たか。どう考えてもギルドの管理体制に問題があるだろうに。


「それなら証明致しましょう。その中のどれでも宜しいので適当なページを言ってみてください。そこに書かれてる内容を答えますよ」

「は! 面白いじゃないか!」

「え? ほ、本当に大丈夫なんですかぁ?」

「心配するなメイを信じろ」


 アレクトが不安そうにしているが、私が作ったメイドロイドだ。この程度問題ない。


「ならばこれだ! これの43ページが何か答えてみろ!」

「3月6日冒険者パーティー『縁の下の力持ち』への護衛依頼。護衛対象は商業ギルドのルネコ氏、商業ギルドの登録証明書NOはCJ62154789651。依頼料は――――以上ですね」

「な、なんだと? く、偶然だ! ならこれだこの28ページ!」

「東のマゾ山にてゴブリンの巣を発見。討伐依頼として――」

「な、ならこれだ!」

「今日、またカエル顔の上司にお尻を触られた。これで3度目、もう本当最悪! いつも脂っぽい汗で不潔だし溜まったものじゃない。本当さっさとカエルみたいに潰れてしまえばいい――」

「な、な、なんだこれは!」


 フログが怒鳴った。うん、確かに何だこれ? 

 だが、そこへ慌てて受付嬢が駆け寄ってきてヒョイッとその帳面を取り上げ。


「あ、もしかして私の日記が混じって、ご、ごめんなさい!」


 そう言って走り去っていった。フログの顔が真っ赤だな――

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