第324話 道中出会った意外な人物
メイの巧みな運転のおかげで、旅路は驚くほど順調に進んでいた。
エクサスに近づくにつれ、街道も舗装のされた綺麗な道に変わっていた。魔導車は揺れも少なく、一定の速度を保ったまま森と丘陵の合間を縫うように走っていく。
この調子なら――
あと半日もあれば、自由商業都市エクサスに到着するだろう。
そう考えていた、その時だった。
「た、たすけてくれぇえええぇ!」
甲高く、切羽詰まった悲鳴が風に乗って届いた。
即座に車内に搭載された魔導探査機を確認する。
地形の凹地に、二つの青い反応。
そして、それを取り囲むように点滅する複数の赤――
「囲まれているな」
「数は……七。いえ、八体ですね」
メイの声も引き締まる。
「メイ」
「はい、御主人様」
短い言葉だけで意図は伝わった。
メイは迷いなくハンドルを切り、街道から外れて丘の向こうへと魔導車を走らせる。
視界が開けた先は、すり鉢状の小さな盆地だった。
その中心で――
頭を抱え、地面にうずくまって震える男が一人。
そして、その前に立ちはだかるようにして構える、執事姿の男が一人。
周囲を囲むのは、赤褐色の毛並みを持つ魔物たち。
――レッドジャッカル。
群れで行動し、確実に勝てると判断した獲物だけを執拗に追い詰める狩猟魔物。
一匹一匹の戦闘力はさほど高くないが、数を揃えた時の厄介さは折り紙付きだ。
「水の精霊よ!」
執事が叫ぶと同時に、前方のレッドジャッカル一体の頭部が水の膜に包まれた。
呼吸を封じられた魔物が激しくもがく。
致命的な魔法だ。
だが――
「同時展開は無理か」
次の瞬間、残るレッドジャッカルたちが一斉に距離を詰めた。
仲間が倒れたことなど意に介さず、獲物へと牙を剥く。
執事の顔に、わずかな焦りが走る。
私はマイフルを構え声を張り上げる。
「そこまでだ――ショット!」
マイフルの引き金を引く。
放たれた魔弾は、空中で無数の光の帯へと分裂し、扇状に広がって群れへと降り注いだ。
散弾型魔弾。
ベンツの提案で改良した試作品だが、こういう場面では実に使い勝手がいい。
威力は分散されるものの――
レッドジャッカル相手なら十分。
光が走り、魔物たちの身体を次々と打ち抜く。
全滅には至らないが、完全に戦意を喪失させるには足りた。
「これ以上続けるなら、次は容赦しないぞ」
低く告げると、レッドジャッカルの群れは一斉に身を翻し、丘の向こうへと逃げ去っていった。
やはりだ。
連中は臆病で、相手が格上だと理解した瞬間に撤退する。
「御主人様、流石です」
「新しい魔弾の挙動も確認できた。悪くない成果だな」
マイフルを収め、私たちは二人のもとへ向かう。
「うぅ……こわいよぉ……食べられちゃうよぉ……」
地面に伏せたまま、男はまだガクガクと震えていた。
「御主人様、ご安心ください。もう魔物の群れは立ち去りました」
「ふぇ……? 本当?」
執事に声を掛けられ、男は恐る恐る顔を上げる。
周囲を見回し――
魔物の姿がないことを確認した瞬間、表情が一気に緩んだ。
「ほ、本当だ! いない! 君たちが助けてくれたんだね!」
勢いよく立ち上がった、その顔を見て――
私とメイは、同時に息を呑んだ。
「……ドイル?」
間違えるはずがない。
あの顔、この体格。
「ドイル! どうしてお前がここにいるんだ!」
「ふぇ?」
男は、間の抜けた声を上げてこちらを見る。
いや、待て。
ドイルは罪を認め、捕らえられ、連行されたはずだ。
混乱する私たちに、今度は男の方が驚いたように目を見開いた。
「ドイルって……あ、貴方はもしかして、兄さんを知っているのですか!」
――兄さん?
つまり。
目の前にいるこの男は――ドイルの弟だというのか。
新たな疑問が、静かに胸の中で膨らんでいった。




