第322話 浮遊城
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side ヴィクター
帝都の聖堂と浮遊城の聖堂を繋ぐ転移装置を抜けると、そこには広大な庭園が広がっていた。
一歩踏み出した瞬間、空気が変わる。
地上よりも澄み切った、どこか冷たさすら感じさせる風が頬を撫でた。
島全体はさらに周囲を山々に囲まれており、ただでさえ高所に浮かぶこの浮遊島の中でも、城は最も高い位置に鎮座している。
――高さ、高さ、高さ。
ここに立っているだけで、世界を見下ろしている錯覚に陥りそうだ。
普通に歩いて城まで向かおうとすれば、それなりに骨が折れる距離だろう。
だが、この島には城へ直結する転移装置が点在している。
利用すれば一瞬で辿り着ける仕組みだ。
「まあ、急ぎでもないし。たまには景色でも楽しみながら行こうか、クルス」
「承知いたしました、マイマスター」
クルスが恭しく頭を下げる。
何度か訪れてはいるが、この島の景色は何度見ても美しい。
雲よりも高い位置に浮かび、眼下には帝都が小さく広がっている。
天界というものが実在するとしたら、きっとこんな光景なのだろう――そんな感想が自然と浮かぶほどだった。
浮遊城として有名なのは城そのものだが、実は島の内部には街も形成されている。
もっとも、ここで暮らせるのはごく一部の選ばれた者だけだ。
それでも人口は一万人を超えているという。
帝都全体では五千万人以上が暮らしているのだから、一万人という数字は確かに“選ばれた人間たち”の街と言っていい。
「ヴィクター!」
そんなことを考えながらクルスと歩いていると、不意に声がかかった。
振り向くと、天使の翼を模したような金属製の翼を背に生やした鎧騎士が、地面を蹴ってこちらへ滑空してくる。
鎧は白銀を基調とし、各所に刻まれた魔導紋が淡く発光していた。
装飾性と実用性を両立させた、いかにも“帝都製”らしい造形だ。
その背には、一人の少年が乗っている。
癖のある銀髪。
年齢は十三歳のはずだが、顔立ちはそれよりも幼く、無邪気さが前面に出ている。
「来てたんだね、ヴィクター! それなら僕と遊ぼうよ!」
そう言うが早いか、鎧騎士の十本の指がこちらへ向けられた。
指先から、光弾が連射される。
「マイマスター!」
クルスが即座に前へ出た。
龍鱗に覆われた右腕が膨張し、盾のように展開される。
放たれた光弾はすべて弾かれ、空中で霧散した。
「悪戯が過ぎるぞ、ケイ」
クルスの声に殺気が乗る。
普通の人間であれば、立っていることすら出来なくなる圧だ。
だが――。
「えぇ~? だってここ、退屈なんだもん」
ケイは気にも留めない様子で、鎧騎士の背の上で足をぶらぶらさせている。
「ヴィクターなら遊び相手になってくれると思ったのにぃ~。あ、そうだ! クルスが僕の相手をしてよ!」
名案とばかりに言い放つ。
この少年、ケイ。
十三歳にして円卓の騎士に選ばれた天才だ。
魔導人形技術に精通し、今乗っている翼付きの鎧騎士も彼自身の手による作品。
先ほどの魔弾も、この鎧の能力のほんの一端に過ぎない。
「ごめんね、ケイ。これから陛下に会うんだ」
「えぇ~、アーモン兄ちゃんに? つまんないなぁ」
口を尖らせて不満を漏らす。
皇帝を下の名で、しかも兄ちゃん呼び。
そんな真似が許されるのは、この少年くらいだろう――まあ、僕を除けばだけど。
「じゃあさ、用事が終わったら遊んでよ!」
「うーん、考えておくね」
「本当!? 絶対だよ!」
そう言い残し、ケイは鎧騎士と共に空へと飛び去っていった。
自由奔放。
だが、その裏にとんでもない才能を秘めている。
「……そろそろ、口の利き方というものを教えるべきでは?」
「まあまあ。ケイはあのままでいいよ」
笑って返す。
クルスも本気で手を出すつもりはない。
あれは挨拶みたいなものだ。
「さて、行こうか」
僕たちは転移装置へ向かい、そこから城内へと転移した。
視界が切り替わり、次に現れたのは豪奢な城内。
「相変わらず豪勢だねぇ」
「ええ。過剰ではなく、計算された上品さがございます」
高い天井。
柱や壁に施された装飾は華美すぎず、だが威厳を損なわない。
床下には魔力循環の術式が張り巡らされ、城そのものが一つの巨大魔導具のようだ。
やがて、重厚な扉の前に辿り着く。
扉の上には輝石の嵌った紋章が淡く光っていた。
『ヴィクターとクルスかい。よく来てくれたね。今、開けるよ』
軽い調子の声が響く。
次の瞬間、扉がゆっくりと開き――。
僕とクルスは、謁見室へと足を踏み入れた。
あけましておめでとうございます。
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