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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第二章 仲間との再会編

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第317話 連れていけない

 翌日、商業ギルドに行き、紹介状を書いてもらうことが決まった。


 そうなるとこちらも準備で忙しくなる。無限収納(インフレジー)リングには大抵の魔導具や小道具が揃っているから、新たに買い足すものは多くない。

 問題は――ギルドの仕事だ。ここを離れる以上、途中で止まっている案件は全て片をつけておかなければならない。


 今日は魔導ギルドの休日で、建物の中は静まり返っている。

 広い作業室に残っているのは、私とメイ、そしてアレクトの三人だけだった。


「ま、私とメイなら明日までには終わるだろう」

「お任せください、御主人様」


 メイがきっぱりと頷き、拳を軽く握る。その仕草だけで、安心感が広がる。


「こうなったら私も張り切るですぅ! 明日には出発なのですから、仕事は片付けておかないと!」


 元気な声を上げるアレクト。――が、私は思わず首を傾げた。


「……まさかアレクト、お前もついてくるつもりなのか?」


 その問いにアレクトが目を丸くした。


「そんなの当然ですぅ! うちのマスターがピンチなんですよ!?」

「それはわかるがな。お前は今、この魔導ギルドのマスター代理だ。お前までいなくなったら、誰がここを支えるんだ?」


 アレクトは口を開きかけ、言葉を詰まらせた。

 俯き、ローブの裾をギュッと握る。指先が小刻みに震えている。


「……本当は、わかってるんですよ。今自分までいなくなれば、このギルドは回らないって。でも、マスターのことが……心配で……」


 掠れた声が、静かな部屋に響いた。


「大丈夫だ。私とメイが一緒だ。お前がいなくても、なんとかなる。――それに、手紙にも私に来てほしいと書かれていた」


 言いながら、胸の奥が少し痛んだ。

 アレクトを置いていくことが正しいとわかっていながら、その表情を見ると、心が揺れる。


「……そんなこと、そんなことわかってるのですぅ!」


 アレクトが顔を上げた。潤んだ瞳がまっすぐに私を射抜く。


「私なんていなくたって、エドソンくんとメイさんなら、きっとどうにかしちゃうんですぅ! でも、でも――!」


 唇を噛みしめた彼女は、ぐっと肩を震わせて叫んだ。


「エドソンくんの、バカ! おたんこなす~~~~!」

「は? お、おいアレクト!」


 言い捨てて、アレクトは駆け出した。

 扉が勢いよく開き、閉じる音が静寂の中に残った。


「……ふぅ。御主人様の物言いは、いつも真っすぐすぎますね」


 メイが小さく溜息をついた。


「下手に期待を持たせるよりはいいだろう」

「ええ、そうかもしれません。でも……もう少し柔らかい言い方もありますよ」


 やれやれ。

 確かに不器用だったかもしれない。


「仕方ありません。私がアレクト様を探してまいります」

「あぁ、頼む。こういう時は、君の方が上手く話せるだろう」

「――大丈夫です。きっと、アレクト様も本心では理解しているはずです。自分の居場所がここにあることを」


 メイは静かに一礼し、外へと向かった。

 残されたのは、私一人。


 椅子に腰を下ろし、机の上に積まれた書類の山に目をやる。

 アレクトが組んだ術式の報告書。研究記録。改良案。

 その一枚一枚に、彼女の成長の跡が刻まれていた。


 中でも、目に止まったのは練習用の魔視紙(マジックシーパー)の束だった。

 試しに手に取って眺める。初期の術式は線も歪で、魔力の流れもぎこちない。だが、ページをめくるたびに、術式は洗練され、魔力の循環が滑らかになっていく。


「……まったく、見違えたな」


 最初は、頼りないと思っていた。

 けれど今は、私が教えた以上の発想を見せることさえある。

 素直で、真っすぐで、時々どうしようもなく空回りして――それでも決して諦めない。


 そんなアレクトを思い浮かべると、胸の奥が少し温かくなった。

 別れではない。いざとなれば、瞬間移動扉(テレポドア)でいつでも会える。

 ――それでも。


 これまで共に過ごした時間が長かったせいか、

 机の向こうに彼女の姿がないだけで、ぽっかりと穴が空いたように感じる。


「やれやれ。出る覚悟は決めていたというのにな」


 思わず、ひとりごちる。

 まったく厄介なものだ。弟子のようで、相棒のようで。


 気がつけば、彼女はもう私の中で――なくてはならない存在になっていた。

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