第316話 商業ギルドで出会った意外な人物
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フレンズとの話が終わってしばらくして、ようやく私たちの順番が回ってきた。
カウンターには、きっちりとまとめた黒髪に、銀のフレーム眼鏡を掛けた若い女性が座っている。制服の袖口までしっかりと整え、胸元にはギルドの徽章を留めていた。背筋を正した姿勢と静かな笑みが印象的で、真面目な性格が一目で伝わってくる。
「はじめまして。お話ができて光栄です、エドソン様」
落ち着いた声。だがどこか緊張を含んでいる。
「おや? 私をご存じで?」
「はい。父からお話を伺っておりますので」
父から――。眼鏡の奥の瞳を見つめた瞬間、なるほどと合点がいった。
理知的な雰囲気の中に、どこか見覚えのある面影がある。
「もしかして、フレームさんの?」
「はい。いつも父がお世話になっております」
「えぇえ!? フレームさんの娘さんだったのですか!」
「こんなに可愛らしい娘さんがいたなんて驚きです」
メイが柔らかく微笑みながら言うと、女性――レンズが耳まで赤く染めた。
緊張していた口元が、少しだけ緩む。
「そ、そんな……可愛いなんて」
なんとも初々しさがあるな。
「私はレンズと申します。最近、この商業ギルドの受付として働かせていただくようになりました」
なるほど、見覚えがなかったのも納得だ。
「そうか。こちらこそよろしく頼むよ、レンズ君」
「はい。精一杯対応いたします。それで本日は、どのようなご用件でしょうか?」
おっと、そうだった。つい父娘の話題に引き込まれてしまった。
「実は、自由商業都市エクサスに興味があってね。見識を広めるため、そして魔導具の取引の可能性を探りたくて、一度訪ねてみようと思っているんだ。詳しい情報を聞ければ助かる」
「……なるほど、エクサス、ですか」
レンズの表情がかすかに曇った。フレンズの話していた嫌な噂が頭をよぎる。
「エクサスは商人にとって憧れの都市とされています。商業ギルドの本部もそこにありますし、各国から取引人が集う交易の要です。ですが――今はあまり、お勧めできる状況ではありません」
やはり、同じことを言うか。
「理由は、商人の失踪事件や吸血鬼の噂、だろうか?」
「さすがエドソン様。すでに耳に入っているのですね」
レンズは軽く頷いた。眼鏡の奥の瞳は、若いながらも確かな判断力を感じさせる。
「そう、それも理由の一つです。けれど、それ以上に問題なのは“闇商会”の存在です」
「闇商会?」
アレクトが首を傾げ、メイも静かに目を細める。
「ええ。非合法な取引を行う裏の商人たちです。奴隷の売買、臓器取引……それに、最近は“闇の魔導具”というものまで扱っているらしいのです」
「闇の魔導具……!?」
私の声が少しだけ上ずった。メイとアレクトが顔を見合わせる。
「御主人様の好奇心に火がついてしまいましたね」
「魔導具と聞いた瞬間にスイッチ入ってるのですぅ」
アレクトが呆れ顔でため息をつく。だが、否定はできない。
魔導具師として、“闇の魔導具”という響きは放っておけない。
「話によれば、使うだけで相手を服従させる道具や、悪魔を呼び出す品まであるとか。ですが、あくまで噂でして……私たちも確かな情報を掴めてはいないのです」
「使うだけで服従……悪魔召喚……なるほど」
私は思考を巡らせた。
服従の魔導具なら、恐らく精神干渉系。魔力干渉や共鳴結晶を応用した術式だろう。
だが悪魔召喚――もし本当に召喚なら、それは禁術の領域だ。あるいは、感情を媒介にして“悪魔化”を誘発させるタイプか。いずれにせよ危険極まりない。
「話はわかった。その闇の魔導具だけでも、行く理由ができたな。魔導具師として、放ってはおけない」
そう言うと、アレクトが力強く頷いた。
「マスターも、カミラさんも放っておけませんしね!」
「ええ、御主人様の力が必要とされているのです」
メイの穏やかな声に背を押され、心の決意がより固まる。
「出来ればすぐにでも出発したい。だが初めて訪れる都市だ。紹介状を書いてもらえると助かるのだが」
そう頼むと、レンズは一瞬目を見開き、それから真剣な表情に変わった。
「……本気なのですね」
「当然だ」
「わかりました。皆様のご活躍は父からもよく聞いております。紹介状は父に頼む形になりますが、明日には用意できると思います」
「助かる。よろしく頼むよ。フレーム氏にもよろしく伝えておいてくれ」
「はい、必ずお伝えいたします」
しっかりとした声。小さく頭を下げた姿は、若いながらも確かな誇りを感じさせた。
こうして紹介状を書いてもらう約束を取りつけ、私たちは商業ギルドを後にした。
外に出ると、夕方の街路はまだ賑わいを残している。
明日には出発の段取りを整えねばならない。
エクサス――闇の商会――そして、カミラ。
すべての糸が、再び動き出そうとしていた。
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