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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第二章 仲間との再会編

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第315話 商業都市の事は商業ギルドで

「とにかく大変ですぅ! マスターを助けにいかないとですぅ!」


 アレクトが半ば悲鳴のような声を上げた。両手には地図や工具が抱えられており、慌てすぎてどれから落とすかという勢いだ。

 このギルドのマスターが危機にあると聞けば、慌てるのも無理はない。だが――


「落ち着け、アレクト。まず、この自由商業都市というのはどんな場所なんだ?」

「え? 知らないですぅ?」

「あぁ。手紙にあったとおり、私は暫く山に籠もっていたからな」


 もう隠す必要もない。素直にそう話すと、アレクトは「あっ」と小さく口を開けた。驚いているようで、それでも説明を続ける。


「エクサスはこの国で唯一の商業都市なのです。議会というのがあって、そこにいる評議会代表が当主となっているのですぅ」


 議会か。

 三百年前には存在しなかった仕組みだ。人の世はこうも早く変わるものなのかと、改めて時の流れを感じる。


「確か商業ギルドの本部もそこにある筈ですぅ」

「商業ギルドか。そうなるとフレームに聞けば何かわかるかもしれないな」

「そういえば都市に入るにも厳重なチェックがあると聞いたことがあるですぅ」

「それなら、一度話を聞きに行ってみよう」


 こうして私たちは商業ギルドへ向かった。


 扉をくぐると、そこは人と声と匂いで溢れ返っていた。


 帳簿を抱えた書記が行き交い、店主と思しき男が商品の見本を掲げて値段を叫ぶ。

 磨かれた床には革靴の音が絶えず響き、香辛料の香りや油の匂い、紙とインクの匂いが入り混じる。

 誰かが笑い、誰かが値を釣り上げ、また別の誰かが小声で契約を結ぶ――この喧噪こそ、商業の心臓の音そのものだ。


「うぉ、混んでるな……」

「ボルボ領との交易が再開されたからかもしれませんね」


 メイの言葉どおりだった。鉱石運搬の商談、布商の契約、香料取引の確認など、各地からの商人でホールは身動きが取れないほどの賑わいだ。

 まるで金と欲の奔流の中に放り込まれたような感覚になる。


「これはこれは、エドソンさん!」


 聞き覚えのある声がした。振り向くと、ふくよかな体格の男が取引帳を抱えたまま笑顔で手を振っている。


「フレンズ。貴方も来ていたんだな」

「はいとも! エドソンさんのおかげでうちも大儲けですよ。アッハッハ!」


 彼の背後では、部下らしき若い商人たちが慌ただしく書類を束ね、契約印を押して回っていた。

 その姿を眺めながら、私は苦笑を漏らした。確かに景気がいい。


「それにしても人が一杯ですぅ。ボルボ領の効果が凄いですぅ?」

「勿論それもありますがね。プジョー男爵領の宝石、そしてエドソンさんが開拓した鉱山の取引――この二つが市場を動かしているんですよ」


 なるほど。とはいえ、あの鉱山の管理はいまハリソン家に任せている。

 領主が代わり、悪用の心配がなくなったのは何よりだ。


「ところでエドソンさん、今日は何か御用で?」

「あぁ。自由商業都市エクサスについて少し聞きたいことがあってな」


 そう言うと、フレンズの眉がわずかにぴくりと動いた。

 彼ほどの商人がこの反応――ただ事ではないな。


「……エクサス、ですか」

「知っているのか?」

「えぇ、まあ。詳しくは職員に聞いた方が確実でしょうが……あそこは、商売人なら誰もが一度は夢見る場所でしたからな」


 “でした”――過去形か。


「今は違うのか?」

「えぇ。最近は妙な噂ばかりです。もともとあそこは清濁併せ呑む街でしたが……近年は特に闇の動きが活発でね」


 フレンズが声を潜めると、周囲の商人たちもこちらにちらりと目を向けた。話題に触れたくない空気が漂っている。


「怪しい話が多いんですよ。商人の行方不明、夜ごと現れる黒衣の者たち、そして――吸血鬼の噂も」

「吸血鬼……?」


 その言葉に、胸の奥が一瞬ひやりとした。

 カミラの名が脳裏を過ぎる。まさか――と思いつつも、偶然とは思えなかった。


「それは私も耳にした。確か、当主を襲ったと」

「あぁ、そう。今の評議会代表、つまり都市の当主が襲われ、捕縛された吸血鬼がいると聞いてます。だが……」


 フレンズは声を落とし、周囲を見渡した。

 ざわめくホールの中で、彼の声だけが不自然に低く響く。


「それだけじゃないんです。あの街には、もう一人――いや、“別の吸血鬼”が潜んでいるという話もある」


 その言葉に、私たちは思わず息を呑んだ。

 商人たちの喧噪の中、ほんの一瞬、時間が止まったように感じた。


 ――吸血鬼が、二人。

 ひとりは捕らえられ、もうひとりはまだ街のどこかに。


 カミラの顔が再び浮かび、胸の奥が重くなる。

 やはり放っておけない。あの手紙の意味、そしてマースの叫びの理由も、そこに繋がっているのだろう。


「……フレンズ、情報感謝する。助かったよ」

「いえいえ。もし行かれるつもりならお気をつけて。今のエクサスは、“光と闇の天秤”が傾き始めている」


 その言葉を最後に、フレンズは人波の中に消えていった。

 残された私たちは、喧噪の中でひときわ静かに立ち尽くしていた。


 エクサス――吸血鬼――そしてカミラ。

 すべての糸が、そこへと繋がっている気がしてならなかった。

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