第309話 月光石を採取しよう
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私が目を覚ましたときには、すでに昼を回っていた。メイがおはようございます御主人様と、太陽のような笑顔を見せてくれた。
アレクトも私と似たようなもので、起きてすぐに「お腹が減ったですぅ」と騒いでいた。
昨晩あれだけ食べたのに、起きてすぐ食欲につながるのは凄いなと思ったが、寝ていた時間を考えれば当然なのかもしれない。
目覚めた私たちを迎えてくれたボラグ子爵は笑顔だった。アレクトのお腹の音を聞くなりすぐに昼食を用意してくれたのだから、もはや彼の中に不信感は残っていないようだ。
「本当によく寝ていたゲロ」
食堂にはすでにフログの姿があり、呆れたような目を向けてきた。
昼食を摂りながら話を聞くと、午前中には子爵家の私兵と冒険者が合同で鉱山の調査に向かっていたという。
最初は本当に封印に成功したのかと半信半疑だったようだが、鉱山の変化を目にして確信したらしい。
あれほど溢れていた魔物の姿は減り、蛙人も無力化。さらに、事前に私が説明しておいた封印の魔法陣も確認できたことで、鉱山の問題は解決したと判断されたのだ。
「お前たちのおかげで採掘作業も再開できる。本当に感謝している」
「いえ、我々にも利があってしたことですから――ところで、ハザンとエバの姿が見えませんが?」
私の疑問に、メイが答えてくれた。
「お二人は必要な素材を集めに行かれております」
そういえば月光石ばかりに気を取られていたが、他にもピンククィーンフロッグの唾液やウィッチスネークの肝臓が必要だった。どうやらこの領にもそれらの魔物は棲息しているようで、二人が狩りに出てくれたらしい。
「私が寝ている間に気を遣ってくれたのか。……悪いことをしたな」
「お二人は『体を解すのに丁度よい』と言っておられました」
なるほど、いかにもあの二人らしい。
「フログさんは一緒に行かなかったですぅ?」
「私は月光石の方が気になるゲロ」
アレクトの問いに、フログが胸を張って答える。どうやら私たちが起きるのを待ち、一緒に採掘へ向かおうと考えていたようだ。
「鉱山にはいつでも入れるよう伝えてある。感謝の気持ちだ。月光石以外にも必要な物があれば、自由に持って行くとよい」
「ありがとうございます」
私たちはボラグ子爵に礼を述べ、昼食を済ませると、少し休んでから鉱山へ向かった。
鉱山の前には兵士が立っていたが、彼らも笑顔で迎えてくれ、感謝の言葉を口にしてくれた。
中に入ると、討伐に来た冒険者たちの姿も見えた。彼らも私たちのことを知っているらしく、興味津々といった様子で声を掛けてきた。
「おいおい、あんたらがワグラートスを封印したって本当か?」
「どうやったんだ? やっぱりすげぇ魔法を使ったのか?」
その瞬間、待ってましたと言わんばかりにフログが前に躍り出た。
「聞きたいゲロか! よーし、なら特別に教えてやるゲロ!」
「お、おいフログ……」
止める間もなく、フログは身振り手振りを交えながら語り出す。
「まずあの化け物を前にして、皆震えていたゲロ! だが私だけは冷静に状況を見極め――」
「いやいや、震えてたのはお前だろ」
「しっ、黙るゲロ! 物語は盛って聞かせるのが肝心ゲロ!」
冒険者たちは大笑いしながらも、面白がって耳を傾けていた。どうやらフログの調子に乗った語り口が妙にツボに入ったらしい。
挙げ句の果てには「フログさん! もう一回投げられるところの再現してみせてくれよ!」と囃し立てられ、本人は得意げにピョンピョン跳ねてみせていた。
「……まぁ、あれで場が和んでいるならいいか」
「流石フログさんですぅ。役に立ってる……のかなぁ?」
そんなやり取りもありながら、私とアレクト、メイは鉱山を進み月光石を探した。
私の鑑定眼鏡で光を宿す鉱脈を見極め、見つければアレクトのマジドローンとメイの手で採掘する。
フログはというと……冒険者たちに囲まれて「私がいなかったら封印は失敗してたゲロ!」などと胸を張っていた。まぁ、話し相手になっている分、場を盛り上げる役にはなっているだろう。
そうして時間をかけて鉱山を歩き回り、ようやく両手で抱えられる程度の月光石を集められた。
「う~ん。これ以上は厳しいかな」
途中から観察虫や七変化の小人たちにも探索を手伝わせ範囲を広げたが、それでも成果はその程度だった。
「これで足りるゲロ?」
「どうかな。薬の材料にする分には、なんとかなるかもしれない。……とにかく持ち帰ってロートに判断してもらうしかないだろう」
月光石を抱えつつ、私は心の中でため息をついた。
後はハザンとエバの帰りを待ち、素材が揃ったらシドの町に戻り、ロートに託すしかない――。
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