第百九十六話 アレクトVSフレッシュゴーレム
「アレクト様今です!」
「ひ、ひぃぃぃいいい!」
メイがタイミングを合わせるとアレクトが悲鳴を上げながらインパクトハンドを使用した。
発生した衝撃で毒ガスが霧散しアレクトに影響はない。うむ、しっかり予定通りだな。
毒ガスは脅威だが衝撃などで吹き飛ばせば影響は受けない。そういう意味でインパクトハンドはうってつけの魔導具だったわけだ。
「また来ます!」
「ひぃ、ひぃッ!」
あいつ、ひぃひぃ情けない声上げてる割にタイミングはある程度理解してる。これも天然故か。
一応失敗した時のために私も浄化弾をマイフルに詰めておいたがな。それなら最初からそうすればいいと言えるかもだがこの魔弾はそこまでストックがない。
それにアレクトにはいい経験だろう、というかそっちの目算が大きいが。
自分が作った魔導具がどの程度現場で有効なのか知っておくのも大事なことだ。
「少々手荒いやり方にも思えましたが上手くやってますね」
感心したようにメイが言った。しかしメイから見てもそう見えたのか……もしかしてやりすぎたか?
ま、まぁ結果的に上手くいってるなら問題ないだろう。
「ご主人様の事ですから、何かあったときの対処はご用意してあると思ってましたし、心配はしてませんでしたけどね」
「う、うむ。当然ではないか」
勿論準備はあったさ。ストックはともかく一度や二度なら危険な目にあっても問題はなかった筈だ。多分――
「あ、あの、これからどうしたら~!」
お、上手く近づいたな。
「そこまで行けたならあと一歩だ! 懐に入り込んで予定通り土手っ腹に衝撃を叩き込んでやれ!」
「えっと、手が届きません!」
「……あ」
「あのご主人様。まさか体格差を考慮してなかったなんてことは……」
メイにジト目を向けられてしまった! くっ私としたことがうっかりしてた。
「アレクト飛べ!」
「無理ですよぉ!」
「ご主人様。ハザン様ではないのですからそれは酷かと……」
勿論わかってたさ! ハザンならあれぐらい軽く飛んで斬りつけるだろうが普段から何もないところで転ぶようなアレクトには無理な話だってね!
「――アレクト! タイミングを合わせて私が魔弾で上昇気流を起こす。お前はそれに乗って飛び土手っ腹にインパクトハンドを叩き込め!」
「何か当初の予定より難易度上がってません!?」
「気のせいだ!」
そもそも作戦とは失敗した時の事も考えておくものだ。そうなのだ!
「ご主人様。空中では対処が厳しいのでは?」
メイが気にしているのは毒ガスの事だろう。空中では支えなしで衝撃を発生させるのは厳しい。バランスも崩れやすいからな。飛んだならターゲットに攻撃を当てるつもりで挑まないと厳しいだろう。
だが手はある。あのフレッシュゴーレムの毒ガスも無限に出るわけじゃない。合間にガスを溜める瞬間がある。
その時を狙って私の魔弾でアレクトを飛ばす。
「メイ。私はタイミングを見る。引き続きアレクトのサポートを」
「……いえご主人様。もうその必要はないようです」
必要ない? メイに言われアレクトを見たが――
「驚いたな。もうサポートなしでも完全にタイミングを見切っている」
アレクトはメイのサポートを待つことなく毒ガスのタイミングを見てインパクトハンドを使用してた。
この短時間で見切るとは。魔導具の扱いにも随分と長けてきている。
「――これだから人間は面白い」
「嬉しそうですねご主人様」
メイに言われて私は自然と笑みが浮かんでいる事に気がついた。
人の寿命はエルフより遥かに短いだがそれゆえに時折とんでもない成長を見せることがある。個人としても集団としてもだ。
だから私は人間の世界を見てみたいと感じたのかもしれないな。
さて、そんなことを考えている間に毒ガスを溜める動作に入った。フレッシュゴーレムが大きく息を吸い込んだのがその証拠だ。
「やるぞアレクト!」
「はい! 覚悟はできてます!」
良い返事だ。私はアレクトの足元向けて風の魔弾を撃ち込んだ。地面に命中すると同時に上昇気流が発生アレクトが浮かび上がる。
「やれアレクト!」
「はぁああああ! インパクトハンドーーーー!」
フレッシュゴーレムの腹にアレクトのインパクトハンドが触れ衝撃波が発生した。途端にゴーレムの腹が光に包まれ全身が崩れていく。
インパクトハンドに嵌めた聖属性、ようはロウに傾いた魔石だがその効果でフレッシュゴーレムは倒せる。
「グォ、グォオォォォオオォォォオオッ!」
「いけませんご主人様! 倒しきれてません!」
メイが叫ぶ。フレッシュゴーレムは半壊程度で生き延びてしまった。即席で作った魔石では威力不足だったか!
しかも半壊とは言えあの手のゴーレムはしぶとい。
「アレクト様!」
メイが叫ぶ。フレッシュゴーレムの残った腕が空中のアレクトに向けて振り下ろされたからだ。
まずいこのままじゃ――




