第百九十四話 結界を抜けた先
「魔導具で結界を抜けるんですかぁ~」
「あぁそうだ」
不思議そうにしているアレクトに頷きつつ私は無限収納リングから一本の輪を取り出した。
「これが今回使う魔導具【壁抜けの輪】だ」
私が取り出した輪っか状の魔導具にアレクトが目をパチクリさせる。
「これで本当に結界を抜けられるのですか? そもそも壁なんて無い気も……」
「あぁ名称こそ壁抜けだがこういった結界にも有効なのがこの魔導具の特徴だ」
論より証拠。私は結界に輪っかを添えてみせた。格好的には何もない空間に輪っかが浮いているように見えるがこれで輪を通れば結界の向こう側に行ける。
「では私からいかせて頂きますね」
メイがフープを通り抜ける。ただそれだけのことなのに姿勢も崩れず淀みの全く感じられない綺麗な所作だった。
さすがは完璧なアンドメイドだな。
その後は私が抜けて次はアレクトになった。
「うんしょうんしょ、あ、キャアッ!」
……アレクトが輪っかに引っかかって地面に顔から突っ込んだ。いやなぜそうなる?
「うぅ痛いですぅ。これ思ったより危険なのです!」
鼻を擦りながらアレクトが文句を言ってきたぞ。
「お前がどんくさいだけだろう」
「しどいです! そもそも小さなエドソンくんとは大きさも色々違うんですからね!」
「小さ……ふ、フフッ。ちなみにこの魔導具はつくろうと思えばアレクトでも作れるぞ。色々勉強は必要になると思うがまぁ落ち着いたら十日程徹夜で覚えれば大丈夫だろう」
「えぇええええぇええぇえええ!?」
私が言い放つとアレクトががっくりとうなだれた。
「ご主人様も手厳しいですね」
「そうか? 随分と優しい方だと思うがな」
「鬼ですよ~!」
アレクトが喚いているがとにかく今は結界内を調べるのが先決だな。
「ふむ。やはり結界内の情報がないからポータブルMFMにもこれといった反応がないな」
リングから取り出したこの魔導具は周囲の情報を画面に表示する。もっともそのためには調査虫と連動させる必要がある。
ただここは何者かが作った結界の中だ。安易に調査虫を放つのもな。
何かあっても私とメイがいれば問題ないと思うがアレクトの事もある。目立つ行動は避けておくか。
「仕方ないここは地道に進むか。メイ周囲に気配はあるか?」
「お待ち下さい――ここから北西七百メートルの位置に反応があります。ただ――友好的ではない可能性が高いです」
なるほど。こういった結界が張られるぐらいだ。やはり警戒はされていたか。
だが意外に近くて助かった。メイはポータブルMFMほど仔細な情報はつかめないが、それでも常人よりは遥かに察知能力が高い。
「罠かも知れないが他に手がかりがない以上向かうしかないな。アレクトも身を守る準備ぐらいはしておけよ」
「ふ、ふぇえぇ! やっぱり危険が危ないんですね!」
「――その言動がすでに不安なんだが……」
動揺し過ぎだろう。
その後はメイが先頭にたち目的地へと移動した。その場所にいたのは巨大なゴーレム。
以前結界手前の墓地でハザンと狩りをしたがその際に現れたフレッシュゴーレムよりも更に巨大なアンデッドタイプのゴーレムだ。
厄介なのは体中から定期的に噴出されるガスだな。早速鑑定眼鏡を取り出し成分を調べる。
「何か凄いのがいますよ! それに一体何を吹いてるんですかあれ~!」
「一種の毒ガスだな。しかもガスの効果が全身に回るとアンデッドになるおまけ付きだ」
「えぇええぇえええ!?」
アレクトが驚いた。しかし厄介だな。正確にはマイフに干渉することでアンデッド化させるわけで対処法はあるが定期的に吹かれてるのは面倒が過ぎる。
「そうだ! エドソンくんの魔導具ならここから一方的に攻撃できますよね?」
「まぁそうなんだが……」
あの手のゴーレムは放出しているガスを体に溜め込んでるものだ。マイフルで撃ち抜くと爆発してガスが広範囲に及ぶかもしれない。
私とメイはそんなもの喰らってもどうということはないがアレクトがな。
場合によっては領主の救出に繋がる案件故に、魔導ギルドの責任者ということで同行してもらうことにしたが、仇になってしまったか。
もっともそれだけではなくアレクトにもこういった経験が必要と考えていたのもあるがな。
そう思えば――
「よしここは正攻法でいこう。あえて近づいて倒してしまうぞ」
「えぇえええぇえええ!?」
随分と驚いているが却って接近したほうが今のアレクトの強みを活かせる。一つ頑張ってもらうとするか。




