第百九十一話 賢い子どもたち
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side ハザン
くぅ~アンジェが孤児院まで来てくれるとは感動だぜ!
しかも流石聡明なアンジェだけあって、俺にも気づけなかった泉に掘られた文字に気がついてくれた。
今もその文字を見ながら顎に白魚のような指を添え悩ましげに考えを巡らせている。
「――何かの記号のようだ。それに数字が添えられている。ハザンはこれは一体何だと思う」
「……美しいぜ」
「は?」
アンジェが俺を振り向いて眉を顰めた。しまった! つい思った事が口に!
「あ、いやう、疑わしいぜと言ったんだ!」
「うん? ま、まぁ確かに怪しいといえば怪しい、のか?」
慌てていい直したが良かった何とか誤魔化せたか。ただアンジェがまた悩んでしまったぞ。
「……何かの意味があるとは思うんだが」
「皆何してるの~?」
「なになに~?」
「楽しいこと~?」
俺たちが泉の前で頭を悩ましていると子どもたちがやってきて覗き込んできた。
「みんな大事なお仕事中だから邪魔しちゃ駄目だよ~」
ダリアが子どもたちに言い聞かせていた。ふむ、そういえば兄弟がここの子どもは賢いとも言っていたな。
確かに遊んでいても無邪気な面もあるがどこかハッとなるようなことを口にしていたこともある。
「いや――実は今なぞなぞのような物を解いているんだ。お前たちも何か気が付いたことがあったら教えてくれるか?」
「なぞなぞ~?」
「やるやる~!」
「面白そう!」
泉の横の文字について教えると子どもたちは興味深そうに泉を囲んで文字を確認していた。
さて子どもたちはどう見るか――
「子どもにわかるものなのか?」
「兄弟がこの子達は頭がいいと言っていたからな。むしろ俺たちより子どもの方が柔らかい考えが出来るかもしれないぜ」
アンジェは心配そうにしていたが俺には何か予感めいたものがあった。そして少し経った後――
「ねぇこれって」
「やっぱりそうだよね」
「間違いないよ」
子どもたちが何か気がついたように囁き始めた。
「何かわかったのかい?」
「うん。この文字ね元素を示す記号だと思う」
「……元素?」
「魔法に関わる物が研究のために用いる記号だったかな……私も詳しくは知らないが……」
俺には意味がさっぱりだったがアンジェは聞いたことがあったらしい。流石アンジェだ賢いぜ!
「この記号は金だね」
「こっちは銀で」
「こっちが銅だよ」
「すげぇなお前たち。何でそんなに詳しいんだ?」
「「「エドソンくんに教えてもらった~!」」」
俺が聞くと子どもたちが一斉に答えたぜ。兄弟はそんなことも教えていたのか。
賢いって言っていたのも教えたことをしっかり覚えていたからかもしれねぇな。
「しかしそうなるとだいぶ見えてくるな。この記号と数字を絡めれば」
「おお! そうか金貨、銀貨、銅貨を当てはめればいいんだな!」
つまりそれぞれの空の泉に、ここに刻まれた枚数を入れればいいってことか。
最初俺は金貨を入れたが方向性は間違ってなかったんだな。
「早速入れてみるか」
「手伝う~」
「皆で手伝おうよ」
「うんうん♪」
そして子どもたちも手伝ってくれたおかげで残りの作業はあっさり進んでいった。
「さて後はここに金貨を一枚入れれば……」
数字の通りならこれでラストだ。さて、何がおきるか、俺は残りの金貨を入れてみたが――
「……何も起きねぇな」
「あぁ……確かに何も変化がみられないな」
「う~ん?」
「どうしてかな?」
俺たちは間違いがないかと再度硬貨を取り出して数え直したが間違いはなかった。
「くそ! わけがわからないぜ」
「何か難しそうですね。ですが根を詰めすぎてもよくありませんよ。紅茶と焼菓子をご用意しましたので一旦休憩されては?」
マザー・ダリアが声を掛けてきて休憩の提案をしてくれた。
確かに俺も頭が焼かれたように熱くなってきたしな。
「いい匂いだ――子どもたちも疲れてきただろうしお言葉に甘えさせて頂くとしよう」
「おお流石はアンジェ。子どもたちの気遣いも出来るなんて騎士の鑑だ!」
「大げさだなハザンは」
笑いながらアンジェが答えてくれたが俺は心底そう思ってるぜ。
そして休憩を取ることになり俺たちはダリアの用意してくれた菓子と紅茶に手を付けた。
「ふむ、菓子も美味しいがこの紅茶も絶品だ。この複雑な味と香り――茶葉を組み合わせたのですか?」
アンジェがダリアに聞いた。正直俺には旨いとしかわからないがわかる人にはわかるんだな。流石アンジェだ。
「はい。紅茶の葉にも絶妙な組み合わせというのがあって最高の比率も教えてもらって試してみたのです」
「なるほど」
アンジェが納得したように頷く。比率、と言われても俺にはさっぱりだが確かに旨い紅茶だ。
「――比率」
「そうか比率だよ!」
「あの組み合わせきっとそうだ!」
すると子どもたちが閃いたような顔を見せ駆け出した。
「おいおい一体どうしたんだ?」
「えっとね。ここに書かれてる数字多分錬金比なんだよ」
「錬金術師が扱う比率だよね」
「でも、それだと基準があるはずなんだけど……」
子どもたちがまた頭を悩ませ始めた。錬金術とか比率とかわからないことばっかりだが……。
「基準とは一体何のことなんだ?」
「えっとね多分だけどこの硬貨は含有量がそれぞれ違うんだよ」
「は? が、含有量?」
「だから基準になる物が必要なんだけど……」
「うん。だとしたら一つだけ水で満たされてるのも納得だもんね」
子どもたちには色々みえてきてるようだな。しかし基準か……。
「う~んそういえば院長。確か金貨銀貨銅貨が一枚ずつ入った箱があったよな?」
「はい。それだけ別にして取ってあります」
俺の問いかけにダリアが答えてくれた。
「それが何か関係――」
「「「それだ~~~~!」」」
おっと、子どもたちが目をキラキラさせて声を上げた。
「見せて~」
「院長先生その硬貨見せて~」
「えっとちょっとまってね。確かここに」
そして子どもたちにせがまれダリアがあの箱を持ってきた。さてこれで何がわかるのか――
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