第百八十六話 森の奥?
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「手紙の内容はわかった。だがそれがあるからまだ生きていると考えるのは早計だとは思うぞ」
「そうですね。酷なことを言うようですが歪んだ愛情が原因で相手の命を奪う場合もあります」
私とメイがそう伝えた。生きているかもしれないと希望を抱くサニスには受け入れがたいことかもしれないが、希望を持ちすぎてはその先に不幸な結果が訪れた時、心が正常を保てない可能性だってある。
ただでさえタムズには少なからず恨みを持ってる筈であり何が引き金になるかわからない。
マイフのバランスが不安定になってしまうとサニスがガイアクのようにならないとも限らない。
「勿論私も絶対という確証があるわけではありません。ただ、あの男の性格ならもし命を奪っていたなら完全に隠すような真似はしないと思うのです」
それがサニスの考えか……なるほど。確かに考えるだけで悍ましいが敢えてアリスやサニスの目に亡骸を晒し二人の様子を見てあざ笑う程度のことはしそうだ。
「それとエドソン様。実は不可解な点があるのです」
「不可解な点?」
アンジェが眉を狭め私に伝えてきた。アンジェの話に耳を傾ける。
「ここから西に向かった先に深い森があるのですが、そこの奥に立ち入らないよう冒険者ギルドに命令がいっているのです」
「それは危険生物が確認されたからとかではないのですか?」
アンジェの話にメイが反応した。立入禁止となればその可能性も十分ありえるところだが。
「確かに元々アンデッドが出る事が有名な森ではありましたが――」
サニスがつぶやいた。そういえばアンデッドが出る西の森と言えば以前ハザンと素材集めに行った場所だな。
わりと近場で素材が見つかったからそこまで奥にはいかなかったがそんなお達しが出ていたとはな。
「アンデッド! ゾ、ゾンビですか! 怖いですぅ!」
アレクトがガタガタと震え始めた。お前素材あつめに今後行く可能性だってあるんだぞ?
しかしゾンビか。あれはアンデッドという種の一つだな。死体がある程度原型を留めて立ち上がり生者を襲うタイプだ。勿論これもマイフによる影響で動き回ってるだけだがな。
そして完全に骨になった状態で動き出したのはスケルトンと言われる。まぁこれも骨かそうでないかの違いぐらいだが。
「ふむ。あそこには確かに普通のアンデッドよりも幾分強力なフレッシュゴーレムも出ていたな」
「もしや既にいかれていたのですか?」
私の話を聞きルイスが目を丸くさせていた。行ったら問題あったのか?
「素材が欲しくて立ち入った。奥まではいかなかったが不味かったか?」
「いえ、そのようなことはありませんがアンデッドはそれ相応の腕がなければ危険な相手だった筈なのですが……」
危険? まぁハザンも多少は手こずっていたから一般的にはそうなるのかね。
「まさかフレッシュゴーレムまで倒してるとは……いや、もう驚くのはよそう……」
アンジェがため息交じりに言った。私としてはそこまで驚くことをした覚えはないのだがな。
「話を戻すが、実は私もその内容が気になり一度調査に出向いてみたのだが――森の奥には何も出なかった」
「何もない? なら良かったじゃないですか~」
アレクトがまたずれたことを……。
「逆だ。何もないなら立入禁止など解除すればいいだけの話。だが実際はそうではないのだろう?」
「はい。そこで一度それとなくタムズにも直接聞いてみたのだが、危険だから封鎖しているとしか答えは返ってこなかったのだ」
ふむ――それは確かに奇妙だな。
「アンジェ。君が調査に行った時、ただ何もなかっただけなのか?」
「いや――実はその時私は道に迷ってしまってな」
「わ~アンジェさんのようなキリッとしていてちゃんとしてそうな女騎士さんでも迷ったりするのですねぇ」
アレクトが親近感を抱いたように言った。アンジェの笑顔がひきつってるぞ。アレクトに言われちゃな。
「そうなのです。アンジェでさえそうなのですから私にだって過ちはあります!」
サニスが自分を納得させるように言った。さっきのことまだ気にしていたんだな。
「――私は自分で言うのも何だが方向感覚は優れている方だと思っている。これまでだって一度たりとも迷ったことなどない。だがあの森の奥だけは迷ってしまった。勿論自分が全て正しいなどと自惚れるつもりはないが」
優れているの部分で強く強調していたな……わりと負けず嫌いなんだな。
「つまりアンジェ様程のお方が迷う森の奥には、何か秘密が隠されているのではないか? とそうおっしゃりたいのですね?」
「うむ――そこでサニスお嬢様とも相談し、このような手でお呼び立てすることになった」
「ほう――それはつまり?」
「はい――このような目に合わせてしまい何を勝手なと思われるかもしれませんが――西の森の奥にもしかしたらお父様とお母様についての手がかりがあるかもしれないのです。どうか調査にご強力頂けませんか――」
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