第百八十五話 タムズの執着
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サニスから飛び出た話は随分と意外な物だった。
彼女たちの両親は盗賊に襲われ死亡したとされていたがサニスは生存していると考えているのだ。
「驚きです。私も話を聞いてショックでしたがまさかそんなことが――」
アレクトも随分と驚いているな。
「ショックをですか?」
「はい。だってその頃の領主様はとても評判が良かったですし今思えばその頃は魔導ギルドも活気がありましたから」「
問いかけるメイにアレクトが答えた。なるほどつまり私達が見た頃のボロボロの魔導ギルドは領主があのタムズに変わった影響も大きかったのか。
「アレクト様のおっしゃるようにあの男に変わってから町でも不満の声が囁かれるようになり正直領主としては最悪と言って差し支えありません」
「私の名前を知っていてくれた!?」
アレクトの驚くポイントはいまいちずれてるな。
「魔導ギルドについては私も調べた情報をお嬢様にお伝えしておりましたので」
ルイスが答えた。彼もアレクトに直接会ったことはないが、これまでの経緯を考えると色々と調べていた感はある。
それは悪い意味ではなく我々が信用に足る人物か調査する意味合いも強かったのだろうな。
「いや待て。それだとアレクトの事を知ったら寧ろ信用はなくなるのではないか?」
「何か凄く失礼なこと考えてませんか!?」
思ったことが思わず口に出た。アレクトが怒っているがまぁ問題ないか。
「それにしても今の領主は酷いですね! そうやって領主の座について私腹を肥やそうとしているのですから」
「私腹、ですか――」
アレクトの話を聞きサニスが表情を曇らせた。
「サニス様。もしや何か思うところがあるのですか?」
彼女の表情の変化に気がついたのかメイがサニスに問いかけた。確かに今の反応には何かしら含みが感じられる。
「はい。私も最初は自分の欲を満たすためだけにお父様とお母様を追いやるような真似をしたと考えていたのですが、そう考えると今のやり方には納得がいかないのです」
「なるほど。そこに気がつくとはやはり本来の君は敏いようだね」
サニスを改めて評価する。先程までは天然っぽさが目立っていたがやはり貴族としてのしっかりとした感性を持っていそうだ。
「どうやらご主人様も今のやり方に違和感があったようですね」
「まぁね。大体ただ私腹を肥やすのが目的ならプジョー男爵との取り引きを止めるような真似をする必要がない。それに商業ギルドに対しても強引がすぎる。あれでは商業ギルドに協力するなと言ってるようなものだ」
鉱石の扱いを冒険者ギルド管理にしたこともそうだな。その影響で街の多くの商人や職人が反発している。一時はデモも起こしそうだったからな。
もっともあの男がただ利権を貪ることだけ考えているような奴ならこっちも楽だったが……そうでないと考えたからこそデモを起こすような真似は止めたほうがいいと忠告したわけだが。
「それなら一体何が目的なんでしょうか?」
「それだが、サニス様の言うように元の領主が生き延びているならそこにヒントがあるかもしれないな。しかし、貴方はなぜ生きていると?」
アレクトの疑問をきっかけに私は話を本筋に戻しサニスに聞いてみた。生きていると考えるからには何か理由がある筈だ。
「それはまず未だにお父様とお母様が亡くなった証拠が見つかっていないこと」
サニスが答えた。そういえば死体は出てこなかったと話にあったか。
「しかし、辛い話をしてしまいますがもしかしたら証拠隠蔽の為にあの男が動いた可能性もありますよね?」
メイが意見する。これまでの経緯を考えれば元の領主夫妻に手を出したのはあのタムズで間違いないだろう。
それならば証拠を残さないために死体が見つからないよう細工してもおかしくはない。
「勿論それも考えましたが、実は妙な点も多いのです。その一点は……正直口にするのも憚りますがタムズは私のお母様に執着していたようなのです」
「執着……つまりどういうこと?」
サニスの言っている話と今回の件がいまいちつながらなかった。
「御主人様はそういうところが疎いですね。つまりタムズは貴女のお母様に惚れていた――そうですよね?」
サニスが首肯した。なんとそうだったのか! メイは今の話でよくそれがわかったな。
「しかも執着というからには恐らくは独りよがりな恋愛感情――そうお見受け致します」
「流石でございますな。それについては私も調べて幾つか残っていた手紙を回収しておりますが――」
「あの手紙は気持ち悪かったな……」
ルイスの話を聞いていたアンジェがげんなりした顔を見せた。アンジェも確認したのか。しかし彼女ですらそんな顔を見せるとはどんな内容だったのか。
「内容はともかく手紙を見るに奥様ははっきりとタムズの気持ちには答えられないと返しておりました。ですがそれでも諦めることはなかったようです」
手紙も残っていたのか……。
「よくそんな証拠になるようなもの残していたな」
「独りよがりな男らしい行動ですね。証拠になるとわかっていても処分出来なかったのでしょう」
「うわぁ~正直引きますねそれ」
あのアレクトでさえドン引きしていた。書き手に寄っては一途でいいと言われたりしそうだが内容によってはここまで嫌われることになるんだな。
私も気をつけよう……まぁそんな手紙を渡す相手もいないけどね! 虚しくなってきた――
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