第百八十四話 サニスとお茶会
いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!
「まさかこんなにあっさりと牢から出してくれるとは思わなかったな」
「むしろ必然です。これ以上この町を守って頂けた皆様に不便は掛けられません」
サニスがそう言って微笑んでくれた。なんとも癒される良い笑顔だ。その間にルイスがお茶と焼き菓子を用意してくれた。
地下牢でテーブルを囲んで談笑というのも奇妙な話だが、たまにはおつなものだろう。
「はぁ~とっても美味しいです。これまで食べてきたお菓子で一番の美味しさですぅ」
アレクトが両手でむしゃむしゃと焼き菓子を食べていた。お前、仮にも伯爵家の令嬢の前だろうに……。
「うふふ。いい食べっぷりですね。そこまで喜んで下さると作った甲斐があります」
「ほう。これを貴女が? いや大変美味しい。お菓子作りが得意なのだな」
「今度レシピを教えて頂いても宜しいですか?」
私が焼き菓子を堪能しているとメイも興味を持ったのかサニスに作り方を聞いていた。流石学習に一生懸命なメイだけある。
「紅茶もいいお味だ」
「ぷはぁ~最高ですぅ」
「アレクト様。ほっぺに食べかすが」
ぐびぐびと紅茶を飲み終えたアレクトの口元をメイがハンカチで拭っていた。幼児かお前は。
「さてこのまま雑談を楽しむのも一興だが、当然ここまでのことをしてお茶を飲んで終わりということはないのだろう?」
「流石はエドソン様は察しが宜しいですね。そしてあまりのんびりしていられないのも事実。そこで早速本題とまいりますが実は皆様の力をお借りしたく――」
本題に入ったか。そして私達に協力をか。
「なるほど。いやしかし私の魔導具は出来れば暗殺のような真似事には使いたくないのだがな」
「あ、暗殺~~~~~!?」
「いえいえ! そこまではというより何故暗殺なのです!?」
アレクトとサニスが声を上げて驚いていた。まぁ私も本気で言ったわけじゃないが。
「はは、それは冗談さ。ですが貴方達姉妹は、今の領主であるタムズ・ハリソンには不満がありそうだからな。ある種の憎しみも抱いているのでは?」
これは一種の探りでもあった。サニスの真の感情が知りたくもあったが――
「――かないませんね。確かにあの男には思うところがあります」
「だからこそ別の仮面を被り気持ちを悟られないようにしていたのですか?」
サニスにメイが尋ねる。その間も私はサニスの顔色を確認していた。さぁ、どう返す?
「はい。そのとおりです――ゴホゥッ!?」
じっと観察していると、メイに答えつつ紅茶を啜ったサニスが咳き込んだ。凄く咳き込んだ。さては気管に入ったな。うむなんだこれ。
「ゴホゴホッ! た、大変ですルイス! 紅茶に毒が! いますぐチェックを!」
「その、安心してくださいお嬢様。これは普通の紅茶です」
ルイスが困り顔だぞ。
「え~~! そんな筈ありません。ゴホッ! だってこんなに喉が~~!」
「お嬢様。それは気管に入って噎せただけです」
教えるアンジェの顔が引きつってるぞ。
「――フゥ。見ての通り下手に正体がバレてはこのような目に合うかも知れませんので、これまであの男の目を欺いてきたのです」
演技にしようとした! 今の流れをわざとやったみたいに持っていこうとしている! これは以外と侮れない。いや天然だな間違いなく。
というかどう考えても私の不安は杞憂だったなと心底思ったぞ。
「とにかくサニスお嬢様はお嬢様なりに頑張って演技を続けたのです。どうかご理解を」
「あ、はい」
「ご主人様。興味を持ちましょう」
遂にアンジェにまでフォローを入れられサニスはちょっぴり涙目だ。何だか可愛いぞ。
「サニス様。大変だったのですね。うぅ」
そして何故アレクトは泣いている!?
「話を戻すが――やはり君たちの両親。つまり元の伯爵夫妻はあの男の差し金で殺されたのか?」
「えぇええぇええぇええ!?」
私にとっては核心を突く質問だったが、アレクトの馬鹿みたいな驚き方で台無しだ。そもそもこの流れで全く気づいてもいなかったのかこいつは。
「アレクト様落ち着いてください。ここは大事な場面ですので」
「で、でで、でも、そんな、だってそれってまさに、あ、暗殺――」
「いえ」
アレクトが物騒なそれでいて私も考えていた可能性を口にしたその時、サニスが手を向けて短かく返した。
「その件ですが……私たちはまだお父様もお母様も生きていると考えております。だからこそこうしてエドソン様をお呼びしたのです。かなり強引な手法にはなってしまいましたが」
「ほう――」
これはまた興味深い話だな――
本作のコミック単行本1巻が5月12日発売予定です!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




