第百八十三話 真のサニス
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「お前たちに見張りを任せていたのは間違いだったようだな」
「「「う、うぅ――」」」
アンジェに厳しく諭され三人の兵士は言葉を詰まらせていた。既にルイスは技を解いているがやられてた兵士は腕が痛そうである。
「今後の処遇はおって伝える。わかったなら今すぐここから出て行け!」
「「「…………」」」
アンジェの叱責を受け三人の兵士がトボトボと立ち去っていった。しかしあの三人がここの見張りを任されていたんだな。
あいつらを選んだのはあの伯爵か? だとしたら確信犯の可能性もある。
しかし、少々驚いたな。何かと言えばサニスのことだ。
「サニス殿は前に会ったときと随分印象が違うものだな」
そう。以前話した時はもっとマイペースな感じの少女だった。だが今は領主の娘として凛とした様子でこちらに近づいてきている。
「申し訳ありません。以前お会いした時はあの男を欺く為の私であり本当は、痛ッ!?」
そして歩いている途中に派手に転んだ。前のめりに転んだ。鼻を強く打って、涙目である。
「も、もう! どうしてこんなところに石があるのよ~!」
「お嬢様。石など落ちておりませんが……」
「えぇ! じゃ、じゃあこの部分が窪んでいてぇ!」
「サニスお嬢様。全く傷のついていない平坦な床でございます」
サニスが不機嫌そうに床の状態に文句を言うが、ルイスとアンジェにはっきりと否定されていた。
そして私もメイもアレクトでさえ、拍子抜けした顔で彼女を見ていた。
サニスがハッとした顔で私達を見る。そしてスッと立ち上がって真顔で答えた。
「そう。これまでの私は仮初めの姿なのです」
「いやすまん。多分私の勘違いだ」
「……」
「……」
私とサニスの間に微妙な沈黙が訪れる。
かと思えばニコッとサニスが微笑み――引き返し始めた。
「お嬢様どちらへ!?」
「やり直すの。また登場シーンからやりなおすんです!」
「いや、やり直したところで意味はないかと」
「そんなことないもの! もう一度やれば私はもっとちゃんと出来るもの!」
「「落ち着いてくださいお嬢様」」
ルイスやアンジェとそんなやり取りを見せるサニス。どうやら口調こそ変わったが天然なところは変わらないようだ。
「コホン。とにかく以前の私が作られた私なのは確かなのです」
「あ、はい」
「ご主人様。もう少し興味を持たれた方が……」
「そうだよエドソンくん! こんなに必死になってキャラ作りしてくれてるんだから!」
メイはともかくアレクトも大概だと思うが。
「さて、ここにきてサニスお嬢様やアンジェ、そして執事のルイスまで揃い踏みで一体どうされたのかな?」
「はい。その件ですが――お約束どおりお茶会でも開こうかと」
サニスが私の問いに答える。なるほどお茶会の発案者は彼女だったのか。
「なるほど予想はしていたが――しかし少々手荒い招待だったな」
「それは申し訳ありません。ですがこうでもしないと――」
サニスが申し訳ない顔を見せたので私は手でそれを制した。
「少し意地悪してしまったな。ま、私もこうなることは大体予想がついていたから問題ないさ」
「えぇ! そうなのですか!」
アレクトが声を上げる。呆けた感じでなんとも間の抜けた顔だ。
「執事のルイスから手紙を受け取った時点で予想はついていた。色々と含みの感じられた内容だったのでな」
「はい。以前お会いしたときには屋敷に来るのを拒んでいる様子でしたが手紙ではまた来て欲しいとあり、二度目の手紙でも日付も書かれず近いうちに迎えに来るとありましたからね」
うむ。メイの言うとおりだな。
「あれらの文面が隠語だと気づくのに時間はかからなかった。だからこそこちらも準備を済ませたのだからな」
「準備――あ! もしかして全員に休暇を与えたのって!」
ふむ。察しの悪いアレクトでもそこは流石に気がついたか。
「おみそれ致しました。しかし気がついていながらも私と戦いを演じるとは」
感心したようにアンジェが言葉を発した。
「まぁ魔導具を試してみたいのはあったしな」
「だからこそ本気ではなかったのですね」
「そんなことはないさ。リボルバーの弾丸が切られた時は肝が冷えたものだしな」
「ですが本気であればもう一本の杖を使われたことでしょう」
まぁ確かにそれはあるかもしれない。ただ一つ言うならそれは杖でなく魔導具だが。
「ま、何はともあれ、化かしあいもそろそろ終わりにして本題といかないかい?」
「そうですね。では――」
サニスが口にするとルイスがテキパキとテーブルと椅子を用意しお茶の準備を始めた。
一方でアンジェは牢屋の鍵を開けてくれて私たちを出してくれたわけだが――
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