第百八十一話 ハザンへの手紙
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「どうしてだ兄弟――」
連れて行かれたエドソン達を俺はただ黙って見ていることしか出来なかった。
助けてやりたいと思ったが、あいつはそれを望まなかった。俺が下手に手を出したら関係ない奴らまで巻き添えを喰うかもしれない。
「クソッ! 不甲斐ねぇ……」
「あ、あの、何か大変なことになってしまったようなのですが……」
うん? ふと声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。振り返るとそこには魔導ギルドで働いていたブラがいた。
「あんた、どうしてここに?」
「あ、はい。実はエドソンさんから手紙を預かっていたのです」
「手紙?」
「はい。何かハザンさんに渡して欲しいとお願いされていて」
「俺にだって!?」
驚いた。そしてブラから手紙を受け取りすぐに読む。
『ハザン――この手紙を読んでるということは既に私は……きっとハリソン家から来た騎士あたりに捕まってることだろう。いやぁまいったまいった』
俺は盛大にずっこけそうになった。か、軽い……何だこの手紙は。
『ま、過ぎたことは仕方ない。それに私だってただで捕まったわけじゃないから安心してくれたまえ』
これは――兄弟はまさか捕まるのを予想していたのか?
『ハザンのことだから話を聞いたりしてアンジェに腹を立てたりしてるかもしれないけど、彼女も己の矜持に従って動いているだけさ。だからあまり責めないで上げて欲しい。そしてここからが大事なのだが、私がいない間、孤児院についてはハザンにお願いしたい。実は孤児院についてはずっと気になっていてね。私が捕まってから危険が迫る可能性が高い。同時に――私はまだあの孤児院に秘密が隠されていると思っている』
孤児院に秘密だって?
『特にあの鍵で開いた地下室だ。あそこが特に気になってる。アレを調べて欲しい。なんとなくだがハザンの直感が役立ちそうな気がするんだ。後はそうだな場合によっては子どもたちに手伝って貰ってもいいだろう。あの子達はとても賢いからね。ま、とにかく私が捕まってる間、改めて孤児院の事はハザンに任せた!』
は、はは。なるほどな兄弟。あいつは俺にしっかり仕事を残してくれていたわけか。冒険者の俺だから出来る仕事を。
「あのハザンさん? 皆大丈夫でしょうか?」
「はは、あ~はっはっはっは!」
「え? あの……」
おっと。つい笑いが込み上げてきてブラを驚かせてしまったな。
「安心しな。エドソンはそんな簡単にやられる玉じゃねぇ。きっとすぐに笑顔でメイさんやアレクトを連れて戻ってくるさ」
「そう、でしょうか?」
「おうよ! さて俺もこうしちゃいられねぇ。俺は俺の役目を全うするぜ! 待ってろよ孤児院!」
そして俺は兄弟に言われたとおり、その足で孤児院に向かった――
◇◆◇
「久しいなエドソン。全くこんな形で再会することになるとは残念で仕方ないぞ」
「はは、ご招待頂きありがとう。それにしても随分と丁重な迎えでお気遣い痛み入るよ」
ハリソン家の屋敷に連れて行かれ腕輪などの魔導具を奪われた状態でタムズの下へ連れて行かれた。周囲を騎士や魔術師に囲まれている。その中にはマーシルの姿もあった。
「やれやれこの状況で随分と余裕があるものだな。貴様らは反乱を企てた罪でこれから裁かれるというのに」
「ほう裁かれる。それはどこの誰からかな?」
「……帝国の法に則ってだ。決まってるだろう」
タムズが答えた。帝国か。かつて一緒に旅したこともある勇者が皇帝になりここノーヴェル帝国が出来たんだったな。
「それで捌けるのか? 大体国が絡むと手続きに随分と時間が掛かるだろうに」
「ふん。それなら問題ない。帝国の法に則って我がハリソン家が裁判に掛けるまでだ」
「そんな横暴が許されるとでも?」
メイが指摘する。
「お前たちこそ何も知らないのだな。それぐらいの権限は我々にもある」
嘘、とも言い切れないか。メイにしても一応指摘してみたってところだろう。流石に何でもかんでも国の許可が必要となると罪人の裁きが追いつかない。だからある程度領内で裁ける自由はあるだろう。
「なるほど。ならば私は商業ギルドに弁護をお願いしようとするか」
「残念だったなそれは認められない」
「何だと?」
「お前たちを弁護する相手も証人もこちらで用意する。反乱分子の貴様らが用意する人間など信頼に値しないからな」
「何を馬鹿な」
「そうです。そんなの不平等です!」
メイもアレクトもこの待遇には納得出来ないようだ。当然だな。向こう側が勝手に用意出来るなら当たり前だがこちらにとっては不利にしかならない。
「フンッ。幾らでも言うがいいわ」
「全く随分と余裕がないものだな。これではどっちが反乱を起こそうとしているのかわかったものじゃない」
「――何?」
「き、貴様領主様に向かって何という無礼な!」
マーシルが憤る。やれやれこいつは随分とこの男に傾倒してるようだな。
「もういい。どちらにしても貴様らはお終いだ。後は裁判まで地下牢で大人しく待ってることだな」
そして我々は兵士に連れて行かれ地下牢に投獄された――
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