第百七十七話 エドソン暇を与える
「あの……本当に宜しいのですか?」
ブラが心配そうに聞いてきた。ギルド内には私、アレクト、そしてメイの三人を抜かせばあと残っているのはブラだけだ。
実は今日から暫く皆に暇を取ってもらうことにした。ブラにもそう伝えたのだけど、ブラはどこか申し訳ないといった顔を見せている。
残りの業務について気にかけてくれているのだろう。
「あぁ、問題ないよ。皆にも伝えたけど急ぎの案件は大分片付いたからね。それにここのところずっと忙しかったからな」
私はブラに安心してもらえるようそう説明した。
「だから今日から連休扱いにしたんだ。それに皆にも暇を与えたわけだからな。ブラも気にしなくていい」
「でもこんなに手当まで貰ってしまって――」
ブラが申し訳無さそうな顔を見せる。仕事において適度な休みは必須だ。だが、中には休むことによって給金が減るのでは? と心配する者もいる。
今回は頑張った皆に英気を養ってもらう意味もあるからな。だからそういった不満も出ないよう特別手当を給付したんだ。
「それは皆が仕事を頑張ってくれたからこそ得られた物さ。魔導ギルドが好調なのも皆が一生懸命働いてくれたからなのだから当然の権利だ。だから気兼ねなく受け取って欲しい」
「そうですか。それなら遠慮なく」
ブラが笑顔になった。帰りにお土産でも買っていこうと嬉しそうだ。ドレスやガードにかもしれない。
「そうそう。ブラにだけ申し訳ないけど手紙だけ宜しく頼むよ」
「はい。それは勿論!」
ブラが任せてくださいと拳を握った。うん、彼女にだけひと仕事お願いしている形だ。勿論その分は手当に上乗せしてある。
「それでは失礼致します」
「おつかれ~良い休みを~」
ブラが会釈してから帰路についた。さてと、これで皆への対応が済んだな。
「エ~ドソ~ンく~ん――」
「わ! びっくりした!」
振り返ると恨みがましい顔をしたアレクトが立っていた。おばけみたいなポーズを取って全く何だというのか。
「どうしたアレクト。そんな幸の薄そうな顔をして」
「どんな顔ですか! それよりも酷いですよ~皆に暇を与えて特別手当まで、それなのに私には何もなしですか!」
「は? いやここのマスターはアレクト、お前だぞ。特別手当の事も書類で確認しておいただろう?」
「へ? へ?」
「アレクト様。私がお持ちして書類に目を通して貰ったはずですが」
「あぁ。お前のサインもされてるしな」
「えぇえええぇえ! そんなの気づきませんでしたよ~!」
「……アレクト様――」
「だからお前は残念なんだぞ」
全く。そういえば最初にここに来たときも書類で騙されていたな。今回は正式な物で騙したわけじゃないが、日頃から書類によく目を通してないのかこいつは。
「折角魔導具については認めてやってもいいと思いはじめていたのだが、それ以外はポンコツだな」
「酷いです~!」
アレクトが涙目で訴えてきたがお前はマスターなのだからな。
「改めて言うがこのギルドの今のマスターはお前だ。それなのに真っ先に休むわけにはいかんだろう。手当に関しても本来はお前が決める事だ」
「うぅ、何か説教されてるみたいですぅ」
みたいじゃなくてしてるんだよ。
「はぁ、結局私は休み無しですか」
机に突っ伏し残念そうな顔を見せるアレクト。全くこいつは本当話を聞いていないな。
「何を言ってる。急ぎの仕事は片付いたと言っただろう。マスターとして積極的にやるというなら止めはしないがそうでないならそっちの仕事は今無理してやらなくてもいいぞ」
「え! そうなの!?」
アレクトがガバっと顔を上げ目を輝かせた。本当にわかりやすいやつだな。
「ひゃっほ~休みだ~」
そしてギルド内でスキップし始めたぞこいつ。本当そういうところが残念だな。
「あ! そうだ。折角暇が出来たのだし皆で食事に行きましょうよ! 勿論ここは私のおごりですよ!」
ほう? アレクトにしては太っ腹なことだな。
「悪くはないがそれはまた今度だな」
だが今回は遠慮しておくことにした。
「え~何でですかぁ? あ、もしかして私の懐を心配してるのですか? それなら安心してください!」
アレクトがドンッと胸を叩いた。随分と強気だな。
「お前の計画性のなさなら心配してるけど」
「しどい!」
私の指摘にアレクトが不満そうに唇を尖らせた。お前はマスターとしてもう少し威厳を身に付けろと。
「別にお金の問題ではない。覚えているか? ハリソン家からお茶会について話があっただろう?」
「あ、そういえば……もしかしてそれが今日?」
アレクトが天井を見上げながら思い出したように口にした。
「それはわからんが……なんとなくそろそろ来る気がしてな」
「そうなんですか。うぅ、でもいいな~伯爵家のお茶会なんて~」
「何を言ってる。その時はお前も一緒だぞ」
「え! いいのですか!」
「アレクト様はこのギルドのマスターなのですから当然の権利です」
アレクトの疑問に答える形でメイが補足した。アレクトはとっても嬉しそうだ。
「あ、でもこんな格好じゃ不味いですよねぇ?」
「問題ないだろう。それに――どうやら着替える余裕はなさそうだ」
「へ? それってどういう?」
「御用改めである!」
アレクトが不思議そうな顔を見せたその時だった――ギルド内に物々しい姿の騎士たちがズカズカと入り込んできて私達に槍や剣を向けてきた。
中には杖持ちの魔術師の姿もあるな。
やれやれ、これはまた穏やかじゃない。
「え? こ、これってどういうことですか~!」
アレクトが泣き顔で叫ぶ。そこへ見知った鎧姿の騎士が入ってきて紙切れを一枚突き出してきた。
「エドソン及びメイ、そしてギルドマスターのアレクト――貴方達は反逆者として嫌疑が掛けられております。大人しく同行して頂けますね?」
「へぇ~驚いた。まさか君がこんな真似をするなんてね――アンジェ」
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