第百七十六話 暴走の真相?
sedeハザン
「畜生が! 突然呼び出したと思えば何だよこれは!」
「何だよではない。お前が溜め込んだ物だろう」
クソッ! 今俺はギルドマスターのドルベルが見てる前で書類の山と睨み合っている。
本当ならこんな予定じゃなく魔導ギルドに顔を出そうと思っていたんだ。
だが部屋まで受付嬢がやってきて大事な話があるとかいい出して来ちまったんだ。
何か意味深な言い方だったし女に恥をかかすわけにはいかねぇな、なんて考えていたさっきまでの俺を殴ってやりたいぜ!
大体俺には心に決めた女が、へへっ。なのに浮ついた考えを持った俺にバチが当たったんだろうか?
「そもそもこの手の書類は本来受付嬢の仕事じゃないのかよ!」
「馬鹿言うな。受付嬢が何でもかんでもやるわけじゃない。毎月の業務報告は冒険者の義務だ。他の冒険者もしっかりやってるぞ」
くぅ実は知っていたから耳が痛いぜ。だけど俺はどうもこういう書類を書いたりってのが苦手だ。頭が痛くなる。
「それにお前は依頼を完了した後のサインすらロクにしていない。そういうズボラなところが昇格出来ない理由でもあるのだぞ。Aランクになりたければ――」
書類とにらめっこしながらドルベルの説教まで聞かされるとは! しかも話がなげぇ!
くそッ! 同じマスターでも魔導ギルドとは大違いだ。まぁ向こうのマスターはまだちょっと頼りないところもあるが――
「畜生さっさと行きたいのに!」
「……また魔導ギルドか?」
「あん?」
俺の呟きに反応し、ドルベルが目を細めて聞いてきた。前々から俺が魔導ギルドに出入りしてるのを面白く思ってなさそうだったからな。
「別に俺がどこに行こうが関係ないだろう。冒険者としての仕事もしっかりやってるつもりだぜ。だからこんなに書類の山がたまるんだからよ」
「そんなことを威張って言うな」
ため息交じりに返された。まぁ確かにちょいちょい顔だして片付けておけば済んだ話なんだがな。
「――最近はうちの連中にも魔導ギルドの魔導具に頼るのが出てきた。全くうちがわざわざ魔導具の管理をしてるというのにな」
ドルベルが愚痴るように言った。
「そうかよ。だが気持ちはわかるぜ。冒険者には危険がつきまとう。より身を守ったり戦闘に役立つ魔導具に頼りたいと思うのは当然だ」
「――随分とあの小僧の魔導具を買ってるんだな」
「あんたも実際に見てみればわかる。エドソンの魔導具はとんでもないぜ。遠い未来の魔導具でも見てるかのようだ。これまで見てきたものとはわけが違う。いっそのこと冒険者ギルドでも採用すればいい」
「……本気で言ってるのか?」
「本気だ。もっといえば魔導具の管理は元通り魔導ギルドがやるべきだ。そうすればお互い棲み分け出来るし魔導ギルドにだってまた活気が――」
「ふざけるな!」
ドルベルが机を思いっきり叩きつけた。高そうな机が真っ二つに割れちまったぞ。
ドルベルの顔が赤く鼻息も荒い。鬼のような形相を浮かべている。
「――ハザン。お前だって知っているだろう。あの魔導ギルドがしでかした災厄を」
「災厄――もしかして魔導具の暴走のことか?」
「そうだ。あれこそが奴らの怠慢のあかし。かつての魔導具師連中は自分たちの技術に奢り調子に乗っていた。その結果危険な実験に手を染めあんな真似を!」
「おいおいちょっと待てよ」
魔導ギルドによる魔導具の暴走のことは俺も知っている。だがドルベルが口にした実験については初耳だ。一体何の話だ?
「あんた一体何を言ってるんだ? あれはただの魔導具の暴走の筈だろう? 確かに怪我人が出たとは聞いたことあるが――」
「それは表向きの話だ」
疑問に思ってる俺にドルベルが答えた。
「あの事件の真相は別にある。魔導具師共はあの日大掛かりな魔導具の実験に手を染めた。それはあまりに危険な実験だった。そしてその結果魔導具が暴走し――町が一つ消滅したのだ」
「な、なんだってッッ!?」
なんだそりゃ。そんな話初耳だぜ。
「随分と驚いているようだな?」
「そりゃそうだ。聞いたことなかったしな」
「……上でも色々あったのだろう。表に出てこなかった話だ」
「いや、だとしたらなんであんたがそれを知ってるんだ?」
「……私はこれでも情報通でな。とにかくそれだけの事件を起こしたのが魔導ギルドだ。奴らは危険な集団なのだ」
険しい顔でドルベルが語る。だが――疑問に思うこともある。
「しかしいくら魔導ギルドでもそこまでの実験が出来るものなのか?」
「勿論協力者あってのことだ。どうやらかなりの資産家からの投資があったようでな」
「そんなことがあったのか……しかしその資産家ってのは一体誰なんだ?」
「そこまでは私も知らん。ただ一つ確実なのは魔導具師が本質的に危険な思想を持った連中だということだ。だからこそ奴らに好き勝手させてはいけないのだ!」
ドルベルの憤りが表情から伝わる。
「どうだ? これでわかっただろう? だからハザン。お前はもうあの連中に関わるな。魔導ギルドなんかに関わってもろくな事にならない」
――もしかして今の話こそがドルベルが魔導ギルドを目の敵にする理由なのか?
いや、だとしても――
「わからねぇ。確かに今の話が本当なら大事件だが、だとしてもなんでマスター。あんたはそこまで魔導ギルドにいや魔導具師に拘る?」
例えそれだけのことがあったとしてもドルベルに直接関係はないだろう。それとも――
「……私は忠告はしたぞ。それにだどっちにしろ魔導ギルドはもうお終いだ」
俺の疑問に答えること無く、背中を見せなんとも不穏なことを口にした。
「おい。そりゃどういう意味だ?」
「――今朝うちにも領主様から要請があった。魔導ギルドはハリソン家に対して反乱を企てていた。よって反逆罪でエドソン含む一味は捕らえられる。うちからも何人か派遣されているし既に騎士団もギルドに向かってる筈だ」
「な、なんだって! て。テメェ! それを知ってたからこの俺を!」
「勘違いするな。貴様の書類が溜まっていたのも事実だ。さぁさっさと片付けて――」
「ふざけるな! そんな話を聞いて黙ってられるかよ! これで罰があるってんなら好きにしやがれ!」
そして俺は冒険者ギルドを後にした。待っってろよ兄弟! 今行くぞ!
◇◆◇
side ドルベル
ハザンめ馬鹿な奴だ。折角この私が忠告してやったというのに――
だが今更どうしようもない。魔導ギルドは終わりだ。あのエドソンって小僧もな。
そう、これでいい。魔導ギルドなどのさばらせていてはいけないのだ。あんな悲劇は絶対に起こさせてはいけない――そうだろう? イリア、アイリ……。




