第百七十二話 ドイルとお茶会?
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「うんどうした? それとも私が客として来ては不満か?」
「はは、まさか。うちはどのようなお客様でも歓迎するよ。どうぞ席にお座り下さい。メイお茶と茶菓子の準備を」
「……かしこまりました」
ドイルが席につきメイは私に言われたとおり持て成しの準備に入った。もっとも不満そうではあった。まぁドイルからはしつこくされた経緯があるしな。
「しかし驚いたぞ。少し前まではいつ潰れてもおかしくない貧乏ギルドだったというのに、今は私の耳にも評判が届くほどだ。全く余計なことをしてくれる」
「あはは。褒めるなら素直に褒めてくれたまえ」
「……随分な自信だな。だがそれも貴様がいればこそ。お前がいなくなればこのギルドはやっていけないだろう」
ドイルも随分と舌が回ることだ。だが、どうやらこの男本質を全く見抜けてないようだな。
「やれやれその程度の認識とはがっかりだな。お前のやり方はとても褒められた物ではないが、多少は見る目ぐらいあるのかと思っていたぞ」
「何だと?」
ドイルが顔を顰めた。私の返しが気に入らなかったか? いやそれだけではないか。どうもうちについて探りに来たようだが、ま、特に隠すこともない。
「私のやっている事などギルド全体で見れば微々たる物だ。ここで働き手助けしてくれる皆が一生懸命ギルドを支え日々成長している。例え私がいなくなったとしても今のギルドなら何の問題にもならないと確信しているよ」
「…………」
私に対して探るような目を向けてくる。爬虫類のようにねちっこい目つきだが、その奥底では複雑な感情の乱れを感じる。
「――どうぞ紅茶と焼き菓子です」
「ほう――この匂い。矮小なギルドにしては良い茶葉を使ってるようだな」
そういいつつドイルが紅茶を口に持っていく。ふむ、見た目からは信じられないほど整った所作だな。ただ――どことなく窮屈さも感じさせる。
それからドイルは焼き菓子にも手を付けた。
「――旨いな。どれもいいものだが特別高級なものでもないのだろう。家庭的な味だ」
家庭的、か。
「驚いたよ。お前から家庭的なんて言葉が聞けるなんてな」
「ふん――ところでメイよ。私はまだ諦めておらんぞ。どうだ? 今からでも私の専属メイドになって見る気はないか? 金ならこいつの十倍は支払うぞ」
「全力でお断りします」
「……なら二十倍だ? どうだ?」
「お金など意味はありません。私にとってご主人様はエドソン様のみでありご主人様をおいて他にはおりません」
流石メイだな。全く揺るがない。それも当然と言えば当然だが――やはり嬉しいものだ。
「ふん。馬鹿な女だ。私の下へくればもっと良い暮らしが約束されるというのに……ならばアレクト。お前はどうだ? 前は奴隷などと言ったが今なら私の秘書として雇ってやってもいいぞ?」
「秘書!?」
おいおい本気かこいつ。アレクトほど秘書が似合わない女もいないというのに。
「ほうその反応。私に取られるのが惜しいと見るな」
フフフッ、と何か勝ったような笑みを浮かべているが、寧ろ私はお前の見る目の無さに同情しているのだがな。
「お断りです!」
アレクトが叫んだ。うん、ま、そうだろうとは思ったけど。
「私は魔導ギルドをもり立てる責任がありますからね。それに貴方の下で働くなんて絶対ごめんなのです」
アレクトがあっかんべぇをしながらドイルの勧誘を断った。アレクト、そういう子供っぽい態度が残念なところなんだぞ?
「やれやれ。どいつもこいつも人を見る目がない」
「私は寧ろ見る目があると評価しているんだがね」
チッとドイルが舌打ちした。
「あんたのところに行く奴なんてここにいるわけないだろう」
この声、クイックか。
「……何だお前は?」
「何だとはご挨拶だね。私は元冒険者ギルドの受付嬢のクイックだよ! あんたどの面下げてここにきたんだい! 私のマブダチのスロウにあんな酷いことしてさ! 言っておくけどスロウにはあわせないからね。奥で今は休んでもらってるし。それに孤児院の件だってあんたのせいでこっちは」
「な、何だ何だ何だ何だ!」
「クイック様少し落ち着きましょう」
クイックは相変わらず怒涛の勢いで喋るな。ドイルが戸惑っているぞ。
「とにかくあんたやドラムスが孤児院にしたこと絶対忘れないからね!」
メイに宥めてもらいクイックには一旦下がってもらった。あいつはいつも勢いあるがドイル相手だと感情が爆発して更に止まらないようだからな。
「ふん。何かと思えば孤児院の関係者か」
いや元受付嬢だと言っていたんだがな。まぁ敢えては指摘しないけど。
「あれは寧ろこっちの方が損害を受けた貴様のせいでな」
「そんなこと自業自得だろう。それより――今ので思い出した。実は私もお前について気になる情報を耳にしてね」
「気になる情報だと?」
「そうだ。ドイルお前は商家の生まれではなくて農家の出だそうじゃないか」
「貴様どこでそれを――さてはフレンズか?」
「悪いが情報元を話すつもりはないよ」
「……フン。まぁいい。別に隠すようなことでもない。で、それがどうした? 私が貧乏な農家の出だと知って笑い飛ばすつもりか?」
いや、貧乏というのは私からは言ってないんだがな。
「笑うつもりなんてないさ。農耕は立派な仕事だよ。人間が生きていく上でこれだけ重要なことはあるまい」
「ハッ。世迷い言を。あんなもの朝から晩まであくせく働いても大した稼ぎにもならん。馬鹿らしい仕事だ。私は当時家の仕事が嫌で嫌で仕方なかった。だから独学で商人の勉強をした。いずれ家を出て商人として成り上がるためにだ」
「なるほどな。だがその商人によって家族が奪われたのだろう?」
「……そこまで知ってたか」
苦々しそうにドイルが唇を噛む。
「実はそこが疑問でね。お前の家族は悪徳商人に騙され農地も奪われた。結果的にお前は勉強をしていたのが幸いしてどこかで商人として見出してもらったようだが、だったら何故貴様は当時苦しめられた商人と似たような真似をする?」
「…………」
ドイルが口を結び瞼を閉じた。無視? いや、何かを思い出してるのか?
「そうですよ! 貴方は改心すべきです!」
「うわ! びっくりした!」
ちかづいてきたアレクトがテーブルを叩きつけて声を張り上げた。えらく興奮してるな。
「そんな家族を引き裂かれたきっかけを作った商人と同じ道なんて、そんな真似しても親御さんは喜びませんよ! ドイルさん! 貴方は変わるべきです!」
「おいおい――」
なんて感情的な意見だ。だがアレクトらしいといえばらしいか。
「ククッ、クククッ、あ~っはっは! 私に改心だと? これはお笑い草だ!」
「な、何がそんなにおかしいのですか!」
アレクトの話を聞きドイルが声高々に笑い声を上げた。アレクトに動揺が見られる。
「フン。これが笑わずにいられるか。どうやらお前は肝心な情報を手にいれてなかったようだな」
「肝心だと?」
「そうだ。フン、本来お前らに教える義理などないが、お前らの頭があまりにお花畑すぎるからな。特別に教えてやろう」
前置きし紅茶を一口すすりドイルが話を続けたわけだが。
「いいか良く聞け。私を商人として見出してくれたのは、家の農地を奪った商人の男だ。貴様らの話など的外れもいいところだ!」
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