第百七十話 魔導ギルドは大忙し
魔導具を販売した先を一通り見て回った後私は魔導ギルドに戻ってきた。
「おかえりなさいませご主人さま」
「あぁただいまメイ」
メイがにこやかに出迎えてくれた。すぐに紅茶も用意してくれている。流石気配りが行き届いてるね。
「マスターおかえりなさいませ」
「お疲れさまですマスター」
シーラとパズも笑顔で挨拶してくれた。とは言え忙しそうだ。アレクトの指示でせわしなく動き回ってる。
「シーラにパズ。私はマスターじゃないよ。今のマスターは代理とは言え一応はアレクトなんだから」
「一応ってひどくないですか!? 確かに代理ではあるけど……」
「それならしっかり誰が見てもギルドマスター代理と思われるよう頑張るんだな」
まぁそれでも代理なのだが。しかしそもそもここの本来のマスターは何をしてるんだろうか。
「ずっと気になってはいたんだが本当のマスターはどこにいってるんだ?」
「う~んそれが私もよくわからなくて。突然私に暫く任せるという置き手紙だけ残していなくなってたんですぅ」
本当によくわからんな。大体ギルドを放っておいて出ていくとかそのマスターは大丈夫なのか? いろんな意味で。任せたのもこの残念魔導具師だし。
「ところでエドソンくん。お客様はどうでしたか?」
「あぁ。皆満足してくれていたよ」
外回りに行くのは伝えていたからな。アレクトも気になったんだろう。だからお客さんの反応を教えてあげる。
「本当ですか!? よかった私達の魔導具が認められて嬉しいです」
「あぁそうだな。アレクトも頑張っているからな。見ろ魔導具の調整もこの程度で済むぞ」
「――はい?」
アレクトが凍りついたように固まった。うん、どうした?
「ちょう、せい?」
「そうだ。お客様は満足してくれてると言ったがやはりまだ甘いところがある。まぁあると言っても全部で百二十八箇所ぐらいだ。これぐらいなら三日あればいけるだろう?」
「――キュ~」
「あぁアレクトさんが!」
「目を回してるよ!」
全くこれぐらいで一体なんだというのだ。
「アレクト様ほらほらお菓子ですよ~」
「お菓子!? お菓子食べたいガウガウ!」
メイが耳打ちするとアレクトが飛び起きた。こいつどれだけ食い意地張ってるんだ。そしてメイ、いつの間にかアレクトの扱いを把握しきってるな。
「――以上が調整箇所だ」
「お茶の時間ぐらい休憩に集中させてほしかったですよぉ」
紅茶と菓子をパクつきながらアレクトに説明したが不満そうだ。だけどこうやってリラックスしてる時の方がアレクトは理解が早いからな。
「おや皆さんお揃いで」
「フレンズさん」
休憩しているところでフレンズが店に入ってきた。最近は商売も調子いいからかうちにも良く顔を出してくれる。
「フレンズ様も紅茶とお菓子如何ですか?」
「これはこれは。ちょうど私も差し入れにケーキを買ってきたのですよ。よろしければ」
「ケーキ! わんわん!」
「アレクトお前……」
犬のようにケーキに反応するアレクトが残念すぎる。皆も笑っているぞ。
さてせっかくだからとフレンズが持ってきてくれたケーキもメイが取り分けてくれて改めて皆で頂くことにした。
「お兄ちゃん美味しいね」
「うん。フレンズさんありがとうございます」
「このケーキ町で評判のお店のですよね。気になっていたから嬉しい♪」
うむ。確かに旨いケーキだな。そしてメイはしっっかり味わいながら材料など分析してる。これは今度再現してくれるかもな。
「おかげさまでうちも大繁盛ですよ。本当エドソンさんが来てから嘘みたいに変わりました。前は売上の減少で悩んでいたので私にとっては救世主ですよ」
「いやいや私もフレンズにはお世話になってるしね」
実際私だけじゃ販売ルートの確保もブランド化も厳しかっただろうし彼の協力には助けられた。
「私だけじゃない。町の多くの商人が感謝してます。一時期は素材すら手に入らなくて絶望しかけていましたから。デモも起こそうかと思ってましたが確かにあの場で怒りに任せて行動に出ていては余計厄介なことになっていたかもしれませんね」
フレンズが苦笑気味に語った。そういえばそんな話もしていたな。
「結果的に今その煽りを受けているのは冒険者ギルドとドイル商会だという話です。特に魔導具と装備品、衣類や薬関係の影響が大きいのでしょう」
「おや。魔導具だけではないのだね?」
「はは。薬師のロートの呼びかけて町の薬師の多くはドイル商会や冒険者ギルドから手を引いてますし装備品に関してもあのアダマン鍛冶店が復活したということで注文が殺到してるそうですからね。ガードもすっかり調子を取り戻したしドレスの店も大繁盛です」
そうか。商売というのは色々繋がってくるものだな。
「ただ……正直あれからドイルがおとなしいのは不気味なところでもありますけどね」
「ふむ――たしかにな」
孤児院の件以降、ドイル本人の話も聞いてなかった。ただフレンズには聞いてみたいことがあった。折角だから話してみるか――




