第百六十七話 ハッキリさせたいハザン
「馬鹿が。だからあれほど気をつけろと忠告してやったというのに――」
ドラムスが連れて行かれ、ドイルが苦虫を噛み潰したような顔を見せた。ドイルは今回の件ではあくまでただ付いてきただけというスタンスを崩すことはなかったからな。
「お前にしては上手いことやったものだな」
「……チッ。生意気な奴だ」
「ドイルさん」
私が声をかけるとドイルは益々不機嫌になった。そこへフレンズが口を挟んできたわけだが。
「貴方はなぜこんな真似を続けるのですか?」
「何だと?」
ギロリとドイルがフレンズを睨んだ。フレンズの問いかけに不満を顕にしているな。
「この私のやり方に文句でもあるのか?」
「そりゃありますよ。ガードだって貴方のおかげで潰れるところだった」
「フレンズ……あぁそうさ。私も目先の欲に目がくらみあんたの口車に乗ってしまった。アダマン
だってそうだ。あんたのせいで一体どれだけの人間の人生が狂わされたか」
ガードが恨み節のように語る。ドイルの汚いやり口は確かにこれまでも見てきたな。
二人から不満をぶつけられる形となったドイルだが、直後その両頬が小刻みに震えだす。
「くくっ、あ~っはっは! 全く愚かしい。そんなもの弱いのが悪いのだ。大体利用できる物を利用して何が悪い。貴様らはこんな小さな街で燻っているからそんな甘い考えしか持てんのだ。商売なんてものはどんな手を使ってでも勝てる奴が強い! それが出来ない弱者は私のような強者に従って生きるしか道はない!」
ドイルが堂々と言い放つ。その考えには――一理あると私も思う。冷たいようだが商売をやっている以上競争というのはどうしても発生してしまうものだ。
ただ、ドイルのやり方は正直美しくない。
「――なぜだドイル。貴方ならもっと弱者の気持ちがわかるはずではありませんか」
「――何をわけのわからないことを……」
細い声で語り哀れみの目をドイルに向けるフレンズ。それが気に入らないのかカエルのような顔を歪ませた。
「全くお前らなんかとこれ以上話していても仕方ない。私は帰らせてもらおう」
「待てやガマガエル」
「プッ――」
ガマガエル、もといドイルを呼び止めたのはハザンだった。そしてメイが吹き出している。ガマガエルがツボに入ったか。
「貴様! 言うに事欠いて、こ、この私をガマガエル呼ばわりするか!」
「フンッ。カエルでも上等なぐらいだ」
「ぐぬぬぬぬ!」
ドイルが歯ぎしりした。沸点低いなこいつ。
「俺はどうしてもお前に聞きたいことがある」
「聞きたいことだと? だったら少しは態度を弁えたらどうだ」
「悪いが俺は礼儀なんて持ち合わせちゃいねぇんだよ。それよりもお前――ウレルの親父を盗賊に襲わせたのか?」
ドイルの文句にも耳を貸さず質問を続けるハザン。しかし――
「ハザン。流石に露骨すぎないか?」
「悪いな兄弟。俺はこういうことははっきりさせとかないと気がすまないんだ」
う~ん。ハザンはウレルの母親とも会ってるし放ってはおけなかったか。義理人情に厚そうな男だしな。
「ついでに言えばこの孤児院の件もそうだぜ。コエンザムの死にもあんたが関与してるんじゃないのか? あのドラムスってバカ息子だけでそこまで大それたことが出来るとはとても思えないからな」
「ハザン様。本当にグイグイ行きますね」
メイが困った顔を見せる。しかし、別にハザンに口止めしていたわけでもないしな。何れはハッキリさせなければいけないことだろうし。
「……そんなに気になるのか?」
「あぁ気になるね。で、どうなんだ?」
ドイルに対してハザンが質問を繰り返す。フレンズやガード、そしてフレームも緊張した面持ちを見せていた。マザー・ダリアに関してはオロオロしてる。
「――そうだったとしたらどうだと言うんだ?」
「テメェ。いけしゃあしゃあと良くも!」
「やめろハザン!」
ドイルが言葉を返すと、ハザンが剣の柄に手をかけた。それを見てすぐに止めた。クッ、と短く呻きハザンが私を見る。
「どうしてだ兄弟」
「当然だ。少し落ち着け。無防備な相手に冒険者のお前が剣なんて抜いてみろ。今度はお前が衛兵に連れて行かれることになるぞ?」
「だけどこいつは!」
「ハザン様。今のは匂わせただけです。ハッキリと答えたわけではありません」
激昂するハザンをメイが窘めた。そう、今の答え方は確定とは捉えにくいし、その一言だけで手を出していい理由にはならない。
「ククッ、惜しかったな。少しでもおかしな真似をしたら大声を出してやろうと思ったのだが」
ドイルが不敵な笑みを浮かべる。
「わざと煽ったのか?」
「どうかな? どう思おうがお前らの自由だ」
自由か――こいつ、いくらドラムスと一緒だったとは言え誰も連れずやってくるとは思えないからな。馬車だって使うだろうし外に付き人でも待たせてる可能性が高い。
声を上げていればきっと飛び込んできたことだろう。
だが直前の答えは本当にそれだけが狙いか?
「まぁいい――今度こそ帰らせてもらおう」
「お待ちなさいドイル! 貴方は本当に――」
「クドい。私は同じやり取りを何度も繰り返す程暇ではないのだ」
そしてドイルは孤児院から出ていった。釈然としない顔を見せるフレンズ。
とにかく、これで孤児院の件は解決出来たと言えるがしかし――気になることがまた増えてしまったか……




