第百六十五話 残った冒険者とハザン
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さて。志高い冒険者はこの依頼に不満を訴え出ていったが、残念ながら金に目がくらんだ冒険者も中にはいた。
男女で八人ぐらい残ってるかな。やれやれ。
「はっは! どうだ。確かに少しだけ予定が狂ったが中々やりそうなのが残ったではないか。なぁドイル?」
「私に振るな。言っておくが冒険者を雇ったのもお前が勝手にやったことだ。私は知らんからな」
ふむ――どうやらドイルは完全に匙を投げたようだ。ま、それが利口とも言えるか。
「あの男。やはり狡猾ですね」
「ま、簡単ではないのはわかっていたけど」
メイがドイルを見ながらそう評した。ここで一から十まで関わってたとなると後々まずいことになると判断したのだろう。
それに奴の言ってることは別に嘘ってこともなさそうだ。奴らの話しぶりからも実際冒険者に依頼を出したのがドラムスだってわかる。
「チッ。好きにしろ。だがそれならここの分け前は一切渡さないからな!」
やれやれドラムスの奴がまたズレたことを。この状況で本当に財産が手に入ると思っているのか?
こんな力押しに出ている時点でとっくに詰んでると言うのに。ドイルはもうそれがわかってるんだろう。なんだか疲れた顔してるし。
それでも残ってるのが謎だけどな。何か手を考えているとも思えないし。
「さてと。じゃあ倍の報酬を頂けるよう頑張るとするか」
「恥ずかしくないのかテメェら」
残った冒険者に向けてそう声を発し、ハザンが前に出た。とても残念な物を見るような顔をしている。
「破斬のハザンか……」
「やっぱ近くで見ると迫力あるぜ……」
冒険者の何人かが顔を強張らせてるな。腰がひけてるのもいる。やはりハザンは冒険者の中では一目置かれる存在なようだ。
「最近新しい装備を手に入れて更に強くなったって聞くぜ大丈夫か?」
「ビビってんじゃねぇよ」
新しい装備――我々で作成したソードリボルバーやマイフリキッドアーマーのことか。
フフフッ、そうか噂になるほどか。大体はアレクトが作ったが設計したのは私だしな。
「何かあの子ドヤ顔してない?」
「御主人様の鼻が伸びてますね……」
冒険者の女とメイが何か言ってるな。いやいやこの程度でそんな――
「ハザン。お前も格好つけてんなよ。こんな孤児院守ってどうなる? 俺らと組んで金を稼ごうぜ」
「そ、そうだぜ。お前だって金のために冒険者やってんだろう?」
金の為、そう連中がハザンに聞いた。どうやら下手に戦いになるよりは自分たちの方に引き込んだ方がいいと判断したのだろう。
なるほど。残った連中も考えなしに暴れるだけの脳筋集団ってことはないようだな。確かに強敵は手駒に加えたほうが結果的に楽になる。
「――金の為にやってないなんて格好つけるつもりはねぇよ。俺だってこれで生活する金を稼いでる」
「そうだろうそうだろう。お前だって結局俺達と一緒だ」
「こっちに来なハザン!」
「え? まさか?」
「大丈夫だフレーム」
奴らはしめしめと小癪な笑みを浮かべている。だがどうやらあの連中、人を見る目はなかったようだ。
「確かに金も大事だ。だけどな金の為だけに冒険者やってるわけでもねぇ。そういう意味では先に出ていったあいつらと一緒だ。譲れないもんってのがあるんだよ。だから――テメェらなんざと一緒にすんじゃねぇ!」
ビリビリと空気が震えた。凄まじい威圧を放ってる。ハザンは孤児院の子どもにも愛着が湧いているし、そもそも男気溢れる奴だ。あんな連中の口車に乗せられるような馬鹿じゃない。
「今度はお前らに選択肢だ。本気で俺らとやるつもりなら――二度と冒険者として暮らしていけない身になることぐらい覚悟しておけ」
今度は逆に忠告だな。ソードリボルバーを抜き威嚇している。奴らが武器を抜いたらもう容赦しないだろう。
「そうかよわかったよ。だがな――おい頼んだぞ!」
「任せな! ストロングホールド!」
ハザンと話していた男がサッと横にずれると杖を持った女が魔法を行使。あの魔法――前もって詠唱して狙っていたか。
ハザンを青白い輪が締め付け身動きを封じてしまう。
「ぬぐぉ! こ、これは」
「あはは馬鹿ね。確かにあんたは強いんだろうけど魔法には弱かったってことよ。私の拘束魔法は簡単には解けないわ!」
コミカライズ版の最新話が10月8日より配信となります。
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