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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第一章 フォード領編

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第百六十二話 コエンザムの告白

 孤児院にはコエンザムが遺した財産が隠されていた。どれも高価そうな代物だし金貨もそのまま遺されていた。パッと見でも百万枚は下らないだろう。それに宝飾品や絵画などの価値が乗るわけだからかなりのものだ。


「これは驚きだぜ……随分と立派なもんだな。噴水まであるしよう」

「うん? あぁそうだな」


 隠し通路の先には広々とした部屋があり、確かに噴水が設置されていた。部屋の左右に一つずつ、片方は起動しておらず池も空だ。一方でもう一つの噴水は今も水を噴き続けている。


 さて、重要なのは財産そのものよりもそこに遺されていた一通の手紙だった。私はこれをコエンザムの遺した遺書と判断した。


 私達はこの時点ですぐに商業ギルドに連絡をとった。勝手に中身を見るのは芳しくないと判断したからだ。正式な立会人を用意した方がいい。

 

 幸い遺書にはきっちり封蝋もされていた。これが閉じていれば開封していないことが証明出来るだろう。


 やってきたフレームはこの財宝の山に随分と驚いていた。そしてフレームを立会人として中身を確認したが、遺書はコエンザムの謝罪の言葉から始まった。


『この手紙を読んでいるということは、私は既にこの世にいないかもしれない。いや私以外の誰かが見ているということは間違いなくそうであろう。勿論そうならないのが一番なのだが、もしそうであればきっと愚息がマザー・ダリアや子どもたちに大変な迷惑をかけていることだろう本当に申し訳ない――』


 この内容を見るにコエンザムはドラムスの行動も読んでいたということか。だが出来ればそうであって欲しくないという気持ちも文面ににじみ出ている。


『――思えば私はもっと早くにドラムスをなんとかすべきだった。だが私は甘かった。やはり残されたたった一人の息子に非情になりきれなかったのだろう。もしかしたら息子の姿にかつての私を重ねてしまったのかもしれない――だが、それであればことさら私は息子に厳しく当たるべきだった。ここで一つ私は大事なことを告白しなければならない――』


 ここから先は懺悔のような物か――


『――かつての私はあまりに強欲で愚かな商人だった。人を人とも思わず冷血で残忍で、ここではとても口にできない程の悪事に加担したこともあった。そしてあの日――私の安易な考えであのような提案に乗り、そして私のせいで多大な犠牲を払う結果となった。決して許されないことであった。私はその事件で妻さえも失った。そして全てが手遅れだと知った時、ようやく私は自分がどれだけ罪深いことをしてきたのか悟ったのだ。私は自らの罪を誰かに裁いてもらいたかった。だがそれは叶わなかった。自らの罪の重さに押しつぶされそうになり、自暴自棄になった。残された息子を人に預け、自ら命を絶とうとさえ考えたこともあった。だが絶望に打ちひしがれていた私に救いの手を差し出してくれたのが教会のシスターだった。それから私はこれまでの自分を反省し生まれ変わったつもりで必死に働いた。そして生活にも余裕が出てきた時、シスターの事を思い出し私は何かお礼をと思い教会に向かったが、既にシスターは他界してしまっていた――だがシスターには義理の娘がいてその娘もまたシスターの道に進み、今では孤児院を開いて子どもたちを育てていると知った……それがマザー・ダリアであった――』

「……過去の過ちを悔いてか。孤児院に拘ったのもそれがあったからなのかもな」


 手紙の内容を聞きハザンがしみじみと語る。流石に何があったのか仔細には書いていなかったが、遺書には泪の跡も見られた。それだけ悔いているということなのだろう。


 そして遺書の最後にはこうあった――全ての財産は私に最後の希望を与えてくれたマザー・ダリアと子どもたちに渡すと……そして――






◇◆◇


「以上がコエンザム様が遺した遺書の内容となります。中身は商業ギルド立ち会いの下で開かれた物ですので間違いはありません」

「ば、馬鹿な! あ、ありえない! そんなこと!」

「しかしそれがありえたのですよ。この遺書は筆跡鑑定も済んでいます。コエンザム様本人が遺した遺書であることは間違いない」

 

 慌てふためくドラムスだが、堂々とした態度でフレームが言い放った。流石商業ギルドはこういう時には強いな。ドラムスも次の言葉が出てきていない。


「待ってもらおう。私はその遺書には大いに疑問がある」


 だがここで口を挟んできたのはドイルであった。


「ドイル、一体何の疑問があるというのかな?」


 フレンズが厳しい目つきで問う。ここにあるのは間違いなく本物の遺書だ。本来文句を言われる筋合いではない。


「当然その遺書だ。フレーム貴様はその遺書が本物だと決めつけているが何故そういい切れる?」

「今も言ったようにこの遺書にはしっかり封蝋がされていました。それが何よりの証拠」

「ハッハッハ! 全くこれは呆れたものだ。封蝋がしてあったから、か。なるほど確かに普通であれば十分な証拠だ。だが、今ここにはその魔導具師がいる! つまり魔導具次第でどうとでもなる。例えばまるでコエンザムが遺したような文字で遺書をでっちあげたりな――」

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